〈第三十六話 動き出した作戦〉
まず、俺たちが把握しなければならないのは、偽王と偽巫女長の居場所だ。
宰相が言っていた事は、おそらく嘘だろう。俺はそう読んでいた。
「そうだな。居場所を確認したら、作戦に移るか。最初に、水晶の間の封鎖。偽王を擁立した者たちの捕縛。同時に、それ以外の貴族たちを王宮から追い出すで、合ってるよな」
シオンは楽しそうにニヤリと笑う。完全に、獲物を追い込む肉食獣の目だ。
シオンの奴も、宰相の言葉を信じてないようだな。こいつの場合は野生の勘か。
「……そう簡単に出来る事ですか?」
事無げに話を進める俺とシオンに、リックが口を挟む。
「まぁ、一応、根回しはしているからね」
含み笑いをしながら、俺は答える。
当然だ。何も用意してなくて、ここに来る訳ないだろ。黒の大陸の魔物討伐案が出る、かなり前から、計画は水面下で動き出している。
あくまで、リックとクロードはオマケだ。言い方は悪いけどな。居ても居なくても、事は進められる。ただ、クッションの役割としてここにいるだけだ。まぁ、クッションにも、それなりの役割はあるんだが……。それはもう少し先だ。
そんな事を考えていた俺の耳に、「「根回し……」」と呟く、リックとクロードの声が聞こえてきた。その呟きに、誰も気にも留めない。
「……そろそろだな」
「ああ。俺たちが王宮にいることは、把握している筈だ」
シオンと俺が、そんな会話をしている時だった。
コツ、コツ。と、テラスから音がした。
噂をすれば、来たか。
部屋にいた全員が、音がした方を見る。
そこには、一羽のカラスが嘴で窓ガラスを小突いていた。
近くにいたシオンが窓を開ける。
逃げることなく、カラスは室内に入って来た。テクテクと歩くと、テーブルの上に飛び乗る。
普通のカラスにしては、妙に存在感があった。
まぁ、普通のカラスじゃないからな。見た目に反して、これでもかなり腕がたつ。騎士や、そこらにいる魔物ぐらいなら、余裕で瞬殺出来る強さだ。
「……このカラス、普通のカラスじゃないですよね」
クロードが尋ねる。
「「あっ!(言ったな)」」
同時に、俺とシオンは小さな声を上げる。そして、静かに三歩後ろに下がった。
あ~~言ったな。そのフレーズ。リック、お前も後ろに下がらないと、巻き添えをくらうぞ。
「あぁ!? 今、何て言った? 坊主!!」
見た目に反して、厳つく、野太い声で、カラスはクロードを恫喝する。下から見上げる様は、全く可愛くない。まるで、不良かヤクザが凄んでいるようだ。
カラスだけど。でも、カラスじゃない。
戸惑うクロード。
まぁ、戸惑うよな。どう返答していいか、迷うよな。
俺とシオンは内心そう思っていたが、勿論口には出さない。
言い淀むクロードに、カラスは躊躇することなく制裁を加える。一瞬で、クロードは床に体を強く打ち付けた。
「……部下の躾がなってないな。ケイ、シオン」
カラスの矛先が、俺とシオンに向く。
ここは、素直に謝るしかない。
「「申し訳ありません。リード」」
俺とシオンは頭を下げ、謝罪する。
カラスの中身は、魔獣使いのリード=クライス。
嘗て、伝説と呼ばれたギルマスだ。
最強、最悪、だが、異様なまでのカリスマ性で、統率力はずば抜けてあった。それは今尚、伝説になっている程だ。
ジェイが勇王に就いたとほぼ同時期に、ギルマスの職を退き、今はフリーで働いている。
俺とシオン、そしてジェイは、ハンターになったばかりの頃、リードのギルドに世話になった事がある。
世話になったというよりは、扱かれてボロ雑巾になったと言った方が正しいな。今となっては、良い思い出だと思いたい。
とにかく、リードは自分の魔獣を馬鹿にされる事を尤も嫌う。その点は、ムツキと似てるな。
「偶々、ワシが黒の大陸におって良かったな。ケイ、シオン」
「「感謝しております」」
「始めから分かっていたくせに、とぼけおって。まぁ、よい」
転がっているクロードは、そのまま転がしておく。骨は折れてないだろう。
「それで、偽王と偽巫女長はどこに?」
「(二人とも、いい顔をするようになったな)ヤーンの森の入口で、相変わらず自分勝手に騒いでるぞ」
心底、嫌そうだな。
カラスの表情は変わらないが、雰囲気と口調で分かる。
報告通りだな。といっても、その報告書を作ったのは、リードの手下の一人だが。非常に優秀だ。
「では、戻って来るのは夕方ですね」
「通常ならな」
「……どういう意味です?」
何か、引っ掛かる。
「お前たちの愛し子が、ヤーンの森に渡った事を奴らは気付いておった。魔力を感知したようだな。何としても、愛し子を手に入れたいと思っているようだが、森には拒否されておるから当然入れない。馬鹿な奴らが、果たして諦めるかが問題だ」
馬鹿な奴らの行動は分からん、ということか。斜め上をいくらしい。脳筋か、脳筋なんだな。それとも、お花畑か。
それは置いといて、ムツキが無事、ヤーンの森に到着出来た事は嬉しい。ホッと胸を撫で下ろす。にしても、奴は何がしたいんだ。
黒のローブの男。
ゼノム=ユリウスが、偽王と偽巫女長に接触している事は把握していた。
「そうですか。……では、いつ帰って来てもいいように、早速作戦に移りますか?」
ニヤリと笑うと、俺は告げた。
お待たせしましたm(__)m
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
改稿は、第一章 第八話まで終わりました(゜∇^d)!!




