〈第三十五話 王宮潜入〉
奴等に、危機感はないのか。それとも、只の馬鹿の集まりか。
目の前に居並ぶ貴族たち、或いは要職に就いている者たちを、冷めた目で見ながら、俺は悪態を声に出さずに吐く。
王宮内に小細工することなく、すんなり入れた事には感謝するが。リックとクロードの顔を見ても、全く気付かないとは……呆れてものが言えない。
内心そう思いながらも、俺は安心させるように、柔らかな笑みを口元に浮かべる。さすがに、目は笑っていないと思うが。まぁ、それには気付かないだろう。この馬鹿共は。
心配していたリックとクロードの様子に、今のところ大丈夫そうだ。俯いたままだが。
自分の事を覚えていない事にショックなのか。そんな事はどうでもいい。このまま暫く大人しくしてろよ。今騒がれるのは面倒だ。まぁ、何かしそうになったら、シオンが対処するだろ。安心して、俺は意識を目の前の男に向ける。
「……遠い所、我が国のためにお越し頂き、ありがとうございます」
疲れ果てた様相の文官が頭を下げる。
確か……こいつ、宰相だったな。
偽王とは幼馴染みで、リックを弾劾した首謀者の主犯格の一人だった筈だ。
調査隊が調べた書類の中に、彼の似顔絵と名前、履歴が記載されていた。
驚いてないな。
どうやら、ハンターが魔物討伐のために黒の大陸に来ていることは、王宮で働く貴族たちは把握していたようだ。まぁ、枯れても宰相だしな。
「いえ。それよりも、急増する魔物に大変苦慮していることですょう。原因は掴めましたか?」
原因はお前らだがな。さて、どう返答するか見物だ。
「……原因は、以前調査中です」
宰相は口を濁す。
「そうですか……」
はっ!! 何ぬかしてる。
「それで、出来れば、早く陛下に接見を願いたいのですが……ご「お疲れでしょう!! 暫く、体を休めては」」
宰相は焦って、俺たちを引き止める。側にいた貴族たちも、宰相の提案に賛同し必死だ。
王に会わせたくないのか? それとも、自分たちを護衛して欲しいために、俺たちを引き止めたいのか。まぁ、半々か……。醜いな。
俺は心の中で、ニンマリと笑う。でも、表面上は同情した人の良い振りだ。
「そうしたいのは山々ですが、一頭でも多くの魔物を討伐したいと思っております。出来れば、早いうちに接見を願いたいのですが」
「貴殿たちの気持ちはありがたい。理解出来るが、今陛下は、連日の魔物の件で体調を崩されておりますので、残念ながら、接見の方は……」
ほ~~。つまり、会えないってことか。ちっ!! とっとと済ませようと思ったが……仕方ない。やり方を変えるか。
「そうですか……無理もないことです。分かりました。それでは、私たちはこれで「お待ち下さい!!」」
「私たちが出来ることは限られています。陛下と黒の大陸に住む鬼人たちのために、憂いを早く取り除きましょう」
必死で引き止めようとする宰相に、俺は突き付けた。
「貴殿の責任感には感服しました。さすが、ギルドマスターですす。目を覚まされたら、陛下に伺いましょう。それまでは、討伐のお疲れを癒して下さい」
「分かりました。少しの間休ませて頂けると助かります」
俺はそう言うと、頭を軽く下げた。その時、僅かに口角が上がる。ホッと、胸を撫で下ろした貴族たちの雰囲気が伝わってくる。
ーー愚か者が。
「狸と狐の化かし合いだったな」
部屋に案内され、休むからと女官たちを退出させた後、シオンがニヤリと笑いながら言った。
聞かれたら困るので、俺は念のために防音魔法を掛けておく。
「……リック、クロード。よく我慢したな」
失礼なことを言うシオンを無視して、俺は二人を褒めた。
リックとクロードは顔を歪める。泣きそうな、笑いそうな、何ともいえない表情だ。
まぁ、気持ちは分からんでもない。自分を弾劾し殺そうとした者が、間近で自分たちを見ても、誰一人全く覚えていないなんて、二人にしてみれば複雑だろうな。こちら側としては、幸運だったが。
「……それで、これからどう動く?」
シオンが訊いてきた。俺は意識を元に戻す。
「まずは、偽王と偽巫女長が王宮にいるか確認しないとな」
何せ、調査隊の報告では、偽王を認めるよう、ヤーンの森の前で訴えているらしい。ヤーンの森に入れないそうだ。それだけで、奴等が偽物だと分かるだろうにーー。
「……どうやって確認をするんですか?」
黙っていたリックが訊いてくる。
「それは後のお楽しみ」
まずは、偽王と偽巫女長の居場所を確認しないとな。それからだ。さて、忙しくなるぞ。ムツキが来るまでに終わらせとかないとな。
大変、お待たせしましたm(__)m
本当にすみませんm(__)m
今回も、王都編です。
ケイさん目線に書き直しました。
前回の活動報告にも書きましたが、少しずつですが、改稿していこうと思ってます("⌒∇⌒")
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




