〈第二十九話 黒い髪〉
ーー巫女長が、黒の大陸の守護聖獣ゲンブの選定を否定した。
そして、巫女長は今、偽鬼王の王妃として王宮に住んでいる。
リックとクロードが語った内容は、私とシュリナ、ヒスイに大きな衝撃を与えた。
偽鬼王の話を聞いた時から、聖獣ゲンブの選定が、何故覆されたのか、どうしても引っ掛かっていた。
シュリナやヒスイにも訊いてみたけど、普通、そんなことは起きないと、きっぱりと言われちゃった。
まぁ、そうだよね。
といって、二人が嘘を吐いてるとは到底思えない。そんなことをする必要もないしね。
少し冷静になって考えてみると、巫女長と語る者が偽鬼王を王だと宣言すれば、その言葉を信じる者は多い筈だ。それだけの影響力が、巫女長にはある。
だって、巫女長は五聖獣の言葉を直接聞くことが出来る者だと、多くの民が知っているから。だとしても、
「……ゼロって、商人だから、色んな情報が耳に入ってくるよね」
ゼロなら、何か知ってるかもしれない。
「まぁ、それゃね。……それで、ムツキは何が知りたいの?」
どう言ったら、いいかな?
ちょっと考え込む私に、ゼロは満面な笑みを浮かべ、私の言葉を待っている。
今日も、王子様スマイル健在だね。
焚き火に照らされて、ちょっと妙な感じがするのは、気のせいかな? 何か、緊張してきた。顔が熱い。
「……くっ、黒の大陸の偽鬼王の事、何か知ってる?」
下手に言葉を選ぶよりも、直接訊いた方がボロを出さなくていいかな。
「やっぱり、ムツキも偽者だと思ってるんだ」
「まぁね。偽者じゃなかったら、こんなことになってないでしょ」
公にされていないが、この討伐に参加しているハンターなら、当然周知していることだ。
「確かに、そうだな。……それで、偽鬼王のことだけど、知ってるのは、前王の息子だってことぐらいか……」
「前王の息子!?」
「そう。歳がいってから出来た子供らしくて、かなり可愛がっていたって聞いたことがある。甘ったれの我儘タイプじゃなくて、優秀だったそうだよ。晩年の前王の仕事を手伝っていたらしい。だから当然、貴族や民たちは、次の王は王子だと思ってたって聞いたな」
なるほど。そういう背景があったから、尚のこと信用された訳ね。
『それは、あくまで鬼人たちの考えに過ぎん』
『俺たちは、民の気持ちを酌んで、王は決めないからな』
シュリナとヒスイが、実に不愉快そうに念話で文句を言う。
「ゼロ。王子に恋人はいたのかい?」
黙って話を聞いていたココが話に加わる。
サス君は黙って聞いていた。
「さぁ。それについては、聞いたことはないけど、王子様だから、婚約者がいてもおかしくはないだろ」
「「婚約者ね……」」
私とココが同時に呟く。
確かに、ゼロの言う通り、婚約者がいてもおかしくないと思う。
だけど、その婚約者が、リックとクロードが言っていた、偽巫女だとは到底考えられない
「あっ! でも、噂で、結婚したって聞いたな」
「「「「「誰と(だ)!?」」」」」
いや~~、綺麗にハモったね。
「……黒い髪の綺麗な女性らしい」
詰め寄る私たちに吃驚しながらも、ゼロは何も訊かずに教えてくれた。
こういう所が、ほんと凄いと思う。普通、訊いてくるよね。「やけに知りたがってるけど、どうして?」って。でも、ゼロは訊いてこない。だから、私は安心して訊けるんだ。感心している私の隣で、
「「黒い髪の女性……」」
シュリナとヒスイはそう呟くと、考え込む。声を掛けれる雰囲気じゃない。
シュリナとヒスイが引っ掛かってるのは何?
あっ、そうか!!
ーー黒い髪の女性。
聖獣ゲンブは黒竜だ。
そして、巫女長は黒竜の色を身に宿す。それは、主に髪だったよね。
にしても、黒い髪ね……
シュリさんのような髪の色なら、疑い様はないけど。黒い色は然程珍しい色じゃない。特に鬼人は、黒い髪が多いって聞いた。
『それは違うよ、ムツキ。確かに、黒っぽい髪の色は珍しくはないけど、ムツキのような漆黒の髪は珍しいよ。だから、スザク様とビャッコ様は…………』
途中で、ココは言葉を区切る。
さすがのココも、念話とはいえ、最期まで言えなかったみたいだ。
でも私には、いや、私以外の念話が聞こえる皆には、ココが濁した言葉がはっきりと聞こえた。
『…………取り合えず、行くしかないよね』
少しの間の後、私はポツリと呟いた。勿論、念話で。
大変お待たせ致しましたm(__)m
最期まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
次は、中継地点のお話です。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




