〈第二十八話 否定した者は〉
「何で、貴方たちがいるんですか?」
呆れ半分、驚き半分。
何とも言えない微妙な表情をしながら、私は目の前にいる男性に声を掛けた。
「勿論、ムツキたちを待っていたに決まってるじゃないか」
ニコニコと満面な笑みを浮かべながら、男性の片割れが答える。
その笑みが黒く見えるのは、私の気のせいかな? そんなことを思いつつ、はっきりと否定する。
「……待ち合わせをした覚えはないけど」
「俺も覚えがないな」
もう一人の片割れ、大斧を背負った男性が、人をくったようなニヤニヤ笑いをしながら答える。
そうですよね。約束してませんよね。
「じゃあ、何で、二人ともここにいるんですか? 昨日の朝、ここで別れましたよね」
「ああ。別れたね」
会話が成り立たない。何か、苛々してきた。
「いい加減、理由を教えてくれませんか? ケイ」
自然と、少し語尾がきつくなる。
「ムツキが、後ろにいる二人を連れて来るのを待っていたんだ(怒った顔もなかなかだな)」
「無事、説得出来て上々だ(愛し合ってる時もいい顔だが、これもいいな)」
はぁ~~。人聞きの悪い言い方しないでくれる! 勘違いされたら困るでしょ!
「ケイとシオンに、リックたちを説得するように頼まれた覚えは一切ないんですけど!」
ここは、しっかりと否定する。
「まぁ、頼まなくても、説得すると思ってたからな」
何故か上機嫌なケイのセリフに、私は首を傾げる。
どういうこと?
「リックとクロードが、ムツキにヤーンの森の同行を頼んだ時点で、彼らが何者か、俺たちは容易に想像出来た。当然、反対されても付いて行くと践んでたしな。その点については、ムツキも同じだろ?」
シオンのセリフに、リックとクロードが息を飲むのが分かった。
私は頷く。確かにシオンの言う通り、リックとクロードが私たちの後を付いて来るだろうと考えていた。
考えてみれば、ケイとシオンは、朱の大陸を守護する勇王と親しい間柄だ。
対等に言い合える仲間で、勇王が信頼している二人だからこそ、シュリナたちの事も、王という存在の意味も、彼らが知っていたとしてもおかしくない。
直接尋ねられた事はないが、会話と動作の端々に、ケイとシオンが知っているような、空気を匂わしていたのも感じていた。シュリナとヒスイが何も言わないから、黙っていたけど。
なるほど。やっぱり、知ってたんだ。今更、驚かないけどね。
にしても、先の先を読んで行動する二人に、正直、少し怖いって感じてしまう。その反面、これがギルマスとしての能力の一つなんだと、私は感心していた。
「……まぁね」
「放置と口で言いながらも、何らかの行動を起こすと、俺たちは践んでいた。それを、二人が聞くかどうかは別として。上手くいけば、ここに連れて来ると思っていたから、俺たちは待っていた。と言っても、一日と決めていたんだが。ギリギリ間に合ってよかった」
ケイがホッとした表情を見せる。
ケイとシオンは、偽王を王座から引きずり下ろすためにここにいる。その二人が、嘗てゲンブの選定を受けた鬼人、リックを待っていた。
そっかぁ……つまり、そういうことか。
「王都に行き、偽鬼王に対峙するのに、部外者が直接手を下すよりも、一度、ゲンブから選定を受けたリックが加われば、政治的な面から考えて筋道がたつ。実際はどうであれ、外野からはリックに協力したことになるってことね」
「その通り。相変わらず、頭の回転が早いな(髪の毛サラサラ)」
どうやら、正解だったようだ。ケイは一瞬驚愕した後、満面な笑みを浮かべながら、私の頭をポンボンと叩く。
別に嫌じゃないからいいけど、子供扱いだよね。これって。
そう思いながらも、頭の端から離れない疑問があった。
「どうした? 難しい顔をして。俺に触られるのは嫌だった? (もしそうだったら、攻め方を変えないと)」
覗き込む、ケイ。それを止める、シオン。考え込んでいる私は、二人の様子に気付かない。
後ろを振り向くと、リックとクロードに疑問をぶつける。本人に訊いた方が早い。
「それはいいんだけど。……そもそも何で、リックが偽者だとされたの? 角なしだから? でも、ゲンブの選定を否定する理由にならないと思うけど……」
どうしても気になっていた。ずっと、不思議に思っていた。
「真っ向から、否定する人物が現れたんだ。ゲンブ様に最も近い存在。巫女長が、否定したんだ」
リックが厳しい表情で答える。
ーーえっ!?
一瞬、聞き間違いだと思った。
「「何だと……」」
シュリナとヒスイの声が低くなる。念話で話すことすら忘れている。
「…………巫女長が否定したの? ゲンブの意思に反して?」
ーーあり得ない。
信じられなかった。
「何かの間違いじゃ「間違いじゃない!! 巫女長は、王子が鬼王だと宣言した!! 王宮でな!!!!」」
私のセリフを遮るように、クロードが声を荒げ言い放つ。
「「「王宮で(か)……」」」
私とシュリナ、ヒスイは、そう呟くと黙り込む。
「…………だとしたら、それは巫女長じゃない。それこそ、偽者だよ。そもそも、巫女長が王宮に来ること自体、あり得ないことだから。……もし、仮定として、その人物が巫女長だったとしても、偽の宣言をしようとした時点で、その人物は巫女長ではなくなった筈」
私は固い表情のまま、それでも力強く断言した。
「それで、その偽巫女長は今どうしている?」
黙って、私たちとリックたちとのやり取りを聞いていたケイが、厳しい表情でリックに尋ねた。
「偽鬼王の王妃として王宮にいる」
「……王宮に」
静かな声で呟く。
その小さな口から吐き出される息は白い。周囲の空気がピシッと音をたて凍っていく。
「シオン、ケイ。ヤーンの森が片付いたら、必ずそっちに行く。それまで、直接手を出すことは許さない」
「……了解した」
「……ああ。拘束だけにしとくぞ(マジ、ゾクゾクする。今すぐ愛し合いたいぜ)」
ケイとシオンを一瞥し頷くと、私たちは転移魔法で皆の所に戻った。
ムツキが戻った後、ケイとシオンは大きく息を吐き出す。
リックとクロードはその場で腰を抜かし、出発は一時間程遅れたのだった。
お待たせしましたm(__)m
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




