〈第二十四話 最終通告〉
ーー十四回。
黒の大陸に足を踏み入れて、昼過ぎの休憩までの間に襲ってきた魔物の回数だ。
レベルが高いのでAランク。低いのでFランク。
一時間に一、二回襲ってきた。
「……はぁ~~」
覚悟していたとはいえ、その数の多さにうんざりする。
大きな溜め息をつきながら、地面に転がっている魔石を拾っていた時だった。
「ーー!! ムツキ、後ろ!!」
ココが叫んだ。
その鋭い声に、私は反射的に臨戦状態をとった。サス君は私の隣で体勢を低くする。
ーーまだ、魔物残ってたの!!
いや、周囲の魔物は一掃した筈だ。荷馬車の周囲に魔物の気配はしない。
しかし、土煙が後方で立ち上がっているのが見えた。金属音が幽かに聞こえる。
そこで何が起きているのか、瞬時に理解した。
「「「ムツキ(さん)」」」
シュリナとヒスイ。そしてサス君が、私の名を呼ぶ。
「シュリナとヒスイは荷馬車に戻ってて。サス君、行くよ!」
そう言うと、私は走りだす。
普通に走ってたら間に合わない!!
私は両足に魔力を流した。グンッとスピードが上がる。私の隣にサス君がピタリとつく。
「あの土煙が邪魔ね」
私は風魔法の威力を最大限まで落とし放つ。突風で土煙が吹き飛ばされた。
邪魔な土煙がなくなった場所に、ハイエナに似た魔物に取り囲まれている、リックとクロードがいた。リックとクロードは背中合わせに、魔物と対峙している。
ーー魔灰犬。
C級ランクの魔物だが、集団で狩りをする。
確か、十頭以上の群れでだ。一個体のレベルは低くても、群れでの攻撃は厄介だ。ハンターがパーティーを組んでいるのは、こういう魔物が多いからだった。
でも相手は、リックとクロードだ。
何もなかった状態で戦ったのなら、十分退治出来る筈だが、続けての攻撃に、さすがの二人も疲れたようだ。明らかに苦戦していた。
「「ムツキ!!」」
いきなり土煙が消え、私の登場に、リックとクロードは一瞬頬を緩める。だが直ぐに、厳しいものへと変わった。
大きな怪我は無さそうね。
チラッと見た限りは大丈夫そうだ。瞬時にそう判断した私は、ホッと胸を撫で下ろしてから、魔灰犬を見据える。
私の登場に、魔灰犬はリックとクロードから離れ、一定の距離をとった。間合いの外に出た魔灰犬は唸り声を上げ、私とサス君との距離を推し量っているようだった。
訂正しなくちゃいけないようね。疲れてなくても苦戦しそう。間合いの外に出るなんて、意外に頭がいい。それとも、獣の本能がさせてるのかな。
私は冷静に魔灰犬を観察する。
魔灰犬が攻撃を加えてこない限り、私から攻撃を加えるつもりは元からなかった。
「苦戦しているようね」
魔灰犬に視線を向けたまま、そう呼び掛ける。少し、嫌味ぽかったかな。
リックとクロードを見なくても、悔しそうな表情をしているのが、手に取るように分かった。
私の影に身を潜めていたシロタマが出てくる。
「「ーー!! 邪眼玉!?」」
驚愕の声を上げている、リックとクロードは無視だ。
群れから離れた場所にいた魔灰犬が、「ガウッ!!」と短く吠えた。すると、一斉に魔灰犬は踵を返し逃げ出した。明らかに、一回り以上大きいだろう魔灰犬の側に駆け寄る。
あれが、リーダー犬ね。
一瞬だが、視線がかち合ったような気がした。リーダー犬は私を見ていた。いや、観察していた。
「……魔灰犬が逃げていく」
「おい! 攻撃しないのか!!」
リックはホッとしたのに対し、クロードは私に対し怒鳴り付ける。
気付いてないの!? あのリーダー犬がかなりの強さだって。
クロードのセリフに、私は呆れた。
【ステータス】で確認しなくても、一目で分かったのに。勿論、一個体の強さもずば抜けているだろう。だがそれよりも、判断能力がずば抜けている。
そんな厄介な相手を、彼らのテリトリー内にいるのに、わざわざ相手にするのは愚かでしょ。旅は長いのに。まぁ、それを教えてあげる義理はないけどね。
私に対し攻撃を加えようとしていると感じたシロタマの目(?)が、キラリと光る。
瞬時に、リックとクロードは臨戦態勢をとった。
「シロタマ。大丈夫、おいで」
シロタマに微笑むと、シロタマは「キュ~~」と小さな声で鳴き、白い体を私に押し付けてきた。
見た目に反して、可愛いよね~~。
前に回って来たシロタマを、軽く抱き締めた。赤くなるシロタマに癒される。
すっかり、私たちの仲間だ。若干、ミレイは引いてたけど。そのうち慣れると思う。私は手放すつもりはないから。そんなことを思っていたら、
「お前たち。それが、わざわざ助けに来た、我が主に対しての第一声か?」
私の隣にいたサス君が、唸り声を上げながら低い声で恫喝した。静かに、サス君はキレていたようだ。普段とは全く違う、高圧的な口調に、私は驚愕する。
人(犬)格変わってませんか!?
シロタマといい、サス君といい、私に代わって怒ってくれたことが嬉しかった。頬が緩くなりそうになるのを我慢する。
サス君に言われたからか、先に頭を下げたのはリックだった。
「サスケ殿の言う通りだ。本当に助かった。ありがとう」
「……怒鳴って悪かった。助けてくれて、感謝する」
続けて、クロードが頭を下げる。
私としては、別にお礼なんて必要ないんだけどね。目覚めが悪いから来ただけだから。
「……別にお礼はいいよ。何にもしてないからね。……ところで、知ってる? 群れで移動する草食動物の中で、一番先に肉食動物に襲われるのって、群れから離れたものなんだって」
そんなことを言い出した私の意図が分からずに、リックとクロードは不審そうな顔をした。私は言葉を続ける。
「だから、これから先、二人とも狙われるでしょうね。それで、どうするの? ……このまま、私たちの荷馬車についてくるか? それとも、ベースキャンプに戻るか? 因みに言っとくけど、助けに来るのは今回限り。次はないよ」
リックとクロードを見据え、私は最終通告を告げた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




