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第二話 出発



 一歩足を踏み入れただけで、まとわりつく空気が一変した。


 大地は乾き、空気は淀んでいる。


 さっきまでカラーの世界にいたのに、白黒の世界に迷い込んだような錯覚を感じてしまう程、色がなかった。


 グレーの空に、薄茶色の乾いた大地。草は殆ど生えていない。


 まさに、灰色と茶色の世界ーー。


 それが、目の前に永遠と広がっている。


 あまりの悲惨さに、私は思わず息を飲む。そして、顔を歪めた。


 魔物から逃げるために国境沿いに避難していた鬼人たちが、私たちを正気のない目で見上げる。口元が声にならない声を発する。


 これ以上耐え切れなくて、彼らから視線を外した。


「えっ!? 西? 北東じゃないの?」


 黒の大陸に入った私は、西の方角に向かうよう、手綱を握っているゼロに指示した。


 てっきり、北東の方角に進むのだと思っていたゼロは、不思議そうな顔して訊いてくる。ゼロの疑問はもっともだ。普通、そう思うよね。


「ヤーンの森は、ゼロの言う通り北東の方角にあるんだけど、ここからはかなり遠いし、凶暴な魔物が出没する中、進むのは危険でしょ。だから、中継地点に向かおうと思って」


 ヤーンの森は、黒の大陸の端の端に位置している。


 今私たちは、黒の大陸の南にいるから、ここからだと、急いでも二か月以上有に掛かる筈だ。あくまで、通常の移動で。


 どう考えても、無理だよね。そんなに、時間を掛けれない。


「中継地点?」


 そう訊きながら、ゼロは西に方向転換する。


「そう。実は、森に直接行ける場所があるんだよ。あっ、これは内緒ね」


 ゼロに口止めする。


 そういう場所が点在することを、出来れば、あまり人には知られたくない。利用されたくないからだ。ゼロだからこそ、私は明かした。


 ゼロには悪いが、五聖獣が棲む神殿へと通ずる森に、簡単に立ち入ってもらいたくないと、私は考えている。


 まぁ、結界が張られているから、神殿には入れないとは思うけど、絶対はないからね。


 ドーンの森は、眷族の里の一部が森の外にあるため、比較的に簡単に森に入れるようになっていたけど、それでも、立ち入れる範囲は決まっていた。


 悪意のない者なら遺跡の入口まで行けるが、その奥までは結界が張られて進む事は出来ない。


 その先は聖域だからだ。


 基本、聖域内には五聖獣が認めた者しか入れない。


 因みに、ゼロはその事を知らない。


 でも、同行を認めた以上、全てではないが、森の秘密に触れることになると思う。聖域内に入るし。


 薄々気付いているとは思うけどね。シュリナやヒスイを近くで見ているから。ゼロは勘が鋭いからね。だから、訊かれたら答えられる範囲で答えるつもり。あくまで、訊かれたならね。


「なるほど。だから、リーンの森の攻略が早かった訳か……。ああ。勿論、内緒にしとくよ」


「そうしてくれると、助かるよ」


 それ以上、その件についてゼロは触れてこない。


 納得したのか、消化したのか、その横顔からは判別がつかない。私はゼロの横顔を見ながら、何故訊いてこないのか、少し不思議に感じていた。


「……それで、後ろの二人どうする?」


 前方を向いたまま、ゼロが違うことを訊いてきた。


 国境から、一定の距離をおいて、馬に乗ってついて来る二人組。


 さすがに、ゼロも気付いていたようだ。まぁ、隠れるような場所はどこにもないからね。気付いて当然かな。彼らも隠れるつもりもないようだし。


「決まってるでしょ。放置。私は彼らの同行を認めてないから」


 そう。後ろからついてくる二人組は、鬼人族のリックとクロードだった。


 彼らがあのまま諦めるとは、正直思っていなかった。全員。たぶん、ついてくるだろうと内心思ってたけど、本当についてくるとはね……。せめて、直接、ヤーンの森に向かう気概が欲しかった。そう思うのは、私だけかな。


「へ~~。ムツキが同行を拒否するなんて、何したの? 彼らは?」


「別に。他力本願の上に、自分たちの事しか考えない、無神経な人とは一緒にいたくない」


 少し怒った表情で答える私に、ゼロは呆れ顔で一瞬黙り込む。


「……ムツキ。中継地点まで、何日掛かる?」


「何もなくて、五日ぐらいかな。魔物を倒しながらだと、二、三日余分に掛かるかも」


(転移機能がいきてればいいけど……)


 心の中で呟く。


 万一、機能してなければ、ケイたちを送った村からの再出発になる。それだと、二十日は余分に掛かるよね……。出来れば、早くゲンブの元に行きたい。でも、現実はそんなに簡単にはいかない。まどろっこしさに、私は苛立つ。


 私でもそうだ。だったら……シュリナとヒスイは……。


『我らの事は気にしなくてよいぞ』


『ムツキが頑張ってるのは、俺たちが一番分かってるんだからな』


 シュリナとヒスイが後ろの荷台から出て来た。


 久し振りに、シュリナが私の肩に乗ってくる。ヒスイは私の太ももの上に座った。


(重たいんですけど……)


 子竜の姿とはいえ、豆柴ぐらいの大きさだからね。


 それでも、私はシュリナとヒスイを押し退けることはしなかった。ヒスイのお腹に手を回す。ヒンヤリとした感触が伝わる。反対に、私の胸の中は熱くなった。 





 お待たせしましたm(__)m

 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m



〈おさらい〉

 ドーンの森/朱の大陸

 リーンの森/翠の大陸

 ヤーンの森/黒の大陸


 シュリナとヒスイは豆柴サイズ。

 体重は六キロから八キロぐらい。結構重いので、ムツキは肩車を嫌がってます。


 

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