〈第十七話 魔物に支配された村(3)〉
ケイとシオンは自分の持ち場へと散って行った。
勿論その前に、魔法、物理、両方の防壁魔法は、しっかり皆に掛けてあげた。
さて、私も持ち場に移動しないと。とりあえず、出入口の方向に足を進める。
「ヒスイ、シュリナ。魔物の気配がしたら教えてね」
「「分かった!」」
魔物の存在が目視で確認出来ない以上、ドラゴンの鼻は最高級の防犯ベルだ。
「ムツキ、どう攻めるつもり?」
サス君の背中に、ちょこんと乗っているココが訊いてきた。その様は、すっごく可愛い。殺伐としていた空気が柔らかくなる。癒されるよ、ほんと。
「そうだね……。村の中にいる魔物に集中したいから、とりあえず、出入口を土魔法で塞ごうかなって、思ってる。どうかな?」
我がチームの頭脳に伺いをたてる。
「それが、一番安全だね」
「OK!! それじゃ、出入口に向かいますか」
どうか、アンデッドが出ませんように!!
声に出さずに、私は心の中で必死に祈る。出来れば会いたくない。心からそう願う。
ーー正直怖い。怖くて仕方ない。
アンデッドは魔物。
人じゃない。最早、人ではない存在。
頭では分かってる。教材にはそう書かれていた。
だけど……それは、嘗て人であったものだ。それに手を掛けた時、私は人として(神族だけど)、越えてはいけない線を越えることになるような気がする。
それでも、姿を現せば、倒さなければならない。
それが、ハンターなのだから。本当にケイが言っていた通り、ハンターは因果な商売だよ。
ふと……思う。
召集を受けたシルバークラスとゴールドクラス、召集を受けなかったブロンズクラス。
その差は、アンデッドに対峙出来るか、出来ないか、なのかもしれない。多くの戦闘経験を積み、ブロンズからのしあがったシルバークラスにとって、アンデッドの戦闘経験は多くはないがあった筈だ。
故に、シルバークラス以上は、プレッシャーに耐えられる精神力を持っていると判断出来る。
しかし私には、彼らが持つ戦闘経験は持ち合わせていない。それこそ、小指の先ほどもない。
それに、出来れば戦いたくないと、心のどこかで思っている。元は日本人だ。武器を持った戦いには程遠い、正反対の生活を送ってきた。例え魔物でも、殺すことに戸惑いを感じている。もし、魔物が死んだ後、無惨な死体が残ったのなら、果たして私はハンターを続けていられたか。
もしかして、ケイとシオンに見透かされていたのかもしれない。
自分の心の弱さをーー。
そして、甘えを。
そんな事を考えていた私は、皆が複雑な表情を浮かべ、見ていることに気付かなかった。
心の中で自問自答している私を現実に戻したのは、ヒスイだった。
「……アンデッド系の魔物は独特な匂いだからな。すぐに分かるぞ」
「臭いのだ。乳製品の腐った、何とも言えない匂いがする」
ヒスイのセリフに、シュリナは説明を足す。
乳製品の腐った匂いって……最悪……
思わず、顔をしかめてしまう。
「近くにいる?」
「いや、この近くにはいないな」
鼻をヒクヒクしながら、シュリナは答える。その答えに、私はホッと胸を撫で下ろす。
「ホッとしている暇ねーぞ! ムツキ!」
ヒスイの鋭い声が、魔物が近くにいることを知らせた。私たちは立ち止まる。周囲に神経を張り巡らせた。
『『主様! 右、一時方向に魔物の気配がします!!』』
セッカとナナのセンサーに引っ掛かったようだ。ほんと皆、優秀だよね。
「魔狼?」
姿は確認出来ない。だが、意識の一部を、セッカとナナが教えてくれた方向に向けている。ここは、魔物のテリトリー内だ。周囲の警戒を完全に解く訳にはいかない。
「いや、この匂いは魔狼じゃないよ。獣臭くないし」
サス君の背中から下りたココが答える。
「臭いな」
シュリナが一言、ポツリと呟く。
「臭いって、もしかして……」
アンデッド!? さっき、この近くにはいないって言ったばかりじゃん!!
内心、超焦る。
「その臭さではない。この匂いはーー」
「デーモン系だな」
シュリナのセリフをヒスイが奪う。
「デーモン系って、悪魔系ってこと?」
「ムツキがイメージする悪魔とは、少し違うがな」(シュリナ)
人間を堕落させないってこと?
「堕落しないかどうかは、本人の気の持ちようでは。デーモン系は一切関係ないです。……簡単に言えば、どこにも属していない魔物のことを、称して、デーモン系と言いますね」(サス君)
「まぁ、見たら分かるよ。独特な容姿をしている魔物が多いから」(ココ)
結果から言うと、確かにその通りだった。
「キモッ!!」
姿を現した魔物を見て、発した第一声はそれだ。
そこには、バレーボールぐらいの大きさの目玉のお化けがウヨウヨと浮かんでいた。
これは、どこにも属さないよね……
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