〈第十六話 魔物に支配された村(2)〉
「……今、俺たちがいるのは、村の中央部。この場所だ」
完成した見取り図に、ケイは小石を三個置く。
なるほど、小石が私たちね。
見取り図から見て、この場所は村の広場のようだ。今は閑散とし、見る影もないが。嘗ては、この場所が一番賑わっていた筈だ。
「そして、出入口はここ。一か所しかない」
ケイは棒の先で出入口を指す。
「うん」
「ああ」
返事してから、後ろを振り返る。たぶん、この村道の先が出入口。視線を再び見取り図に戻し、その地図を頭に叩き込む。
「そこでだ。この村を、こういう風に三等分にする」
ケイは見取り図に線を引く。比較的広い村道を中心に範囲を決めている。見取り図では、出入口を含む場所が他の二か所よりも範囲が狭い。
だけど、出入口を常に注意しなければならない分、当然といえば当然か……。出入口を視野に入れなければならない分、ここを攻略するのは意外に骨が折れそうだ。
「ここを、シオンに。出入口までをムツキが担当してくれ」
まさか、私が出入口の担当なの!?
「…………」
「分かった。任せろ!」
シオンは返事をするが、私は返事が出来なかった。村の魔物を討伐しながら、出入口の警戒を視野に入れなければならない。それが難しいことに気付いていた。
「ムツキ?」
返事をしない私を、ケイとシオンが訝しげに見る。
「ケイさん、そこはシオンさんが担当する方がいいと思う」
若造である私が、意見することは生意気に映るかもしれない。それでも言わなければならないと、私は思った。しかし、ケイは嫌な顔をせず、反対に理由を訊いてきた。
「何故、そう思う?」
「私は、そこまで視野が広くない。村の魔物を討伐しながら、出入口の警戒なんて……」
「出来ない?」
「出来なくはないけど、正直、難しいと思う」
私は正直に答える。
「じゃあ、決まりだ。これも勉強だよ、ムツキ」
「…………了解」
ケイにそう言われたら、私はもう何も言えない。了解した私に、ケイは満面な笑みを浮かべた。その後、不意に真顔になったケイはとんでもないことを訊いてきた。
「ところで、ムツキ。ムツキは今まで、アンデッド系の魔物と対峙した経験はある?」
アンデッド!? それって、ゾンビ系や幽霊系の魔物のことだよね!?
勿論、私はブンブンと首を横に振る。
「ない! ない!」
「「あーやっぱりか~~」」
ちょっと待って!?
「いるの!? ここに!?」
仲良くハモるケイとシオンに、私は青い顔をしながら尋ねる。
「おそらく、この村にはアンデッドがいるだろうね。俗に言う、歩く死体」
ゾンビ系か……
「まぁ、当然だろうな。碌な死に方してねーからな。無念な思いが強く残って、間違いなく魔物化してるな。せめて、遺体を荼毘にふしているなら、まず、そんなことは起こらないが、ここでは無理だろ?」
荼毘にふす……
『ムツキ。お前がしたことは正しかった』
ヒスイが念話で話し掛けてくる。ヒスイが何を指して言っているのか分かった。
不意に脳裏に蘇る光景。
滅んだ、緑の民。両目をくり抜かれた、女族長の遺体。
私はその遺体を獣王たちと集め、荼毘にふした。もし荼毘にふさなければ、緑の民は歩く死体になっていた。おそらく……
「当然、人型をしている。この暑さだ。腐ってるかもな。……嘗ては人だったものだ。ムツキ、殺せるか?」
シオンは真っ直ぐ、私を見詰め尋ねる。その声はとても静かで、低かった。
一瞬、私は言葉を失う。シオンの顔が見れなくて、俯く。
ーー嘗て、人だった者をこの手で殺す。
その現実に、吐きそうになった。咄嗟に、口元に手を当てる。
「…………やらなきゃ、いけないんでしょ」
地面を見詰めながら、やっとの思いで言葉を吐き出す。
「そうだ。やらなきゃいけない」
シオンは容赦なく告げる。
「ハンターって、ほんと、因果な商売だと、こういう時つくづく思うよ」
ケイのセリフに、私は小さく頷く。私も心からそう思う。
「ムツキ。アンデッドの退治方法は知ってるか?」
シオンが訊いてきた。
「確か……教本では、炎が効くって書いてあったけど」
「それが一番有効だが、頭を吹っ飛ばしたら、退治出来るぞ」
頭を吹っ飛ばすって……乱暴だな、おい! 想像しちゃったよ……
「……分かった」
小さな声しか出なかった。
「ムツキも覚悟が決まったことだし。それじゃ、そろそろ作戦開始と行こうか?」
いやいや、覚悟は全然出来てないし。出来れば、このまま回れ右したい。切実にそう思う。
そう反論しそうになったけど、それを我慢し、ケイのセリフに私は頷いた。
お待たせしました(〃⌒ー⌒〃)ゞ
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




