〈第十五話 魔物に支配された村(1)〉
「…………この状況って……どうなの?」
「あれ? もしかして、出ちゃった?」
「一人、十頭ノルマな!」
目の前の状況に引きつった笑みを浮かべ、引いている私に対して、ケイとシオンはやけに陽気な声だ。シオンは勝手にノルマとかほざいている。全然慌ててない。寧ろ、楽しんでる? 背中合わせだから、二人の表情は見えないが、絶対に笑ってる。それも満面な笑みだ。絶対に。
それにしても、まさか、魔狼の群れの中に出るなんて思っても見なかったよ……
明日、転移魔法の往復してからの出発だろうから、今日、王都に近い村に転移魔法で飛んで来た。ここが、ケイとシオンの出発点になる。
だけど、飛んで来た途端これだ。魔狼はジリジリと間合いを詰めて来てるし。私たちを食べる気満々だし。
「人の気配はしないね?」
間合いを詰めてくる魔狼の群れから視線を外さずに、ケイとシオンに話し掛ける。
「おそらく、この村には生存者は一人もいない」
ーー生存者がいない。
ケイのその言葉が、重く私の心にのし掛かる。
これが現実なんだ。熱いものが込み上げてくる。無意識のうちに、唇を噛み締めていた。
「ムツキ」
ケイの静かな声で、私はハッと我に返る。今私がいるのは、敵のど真ん中だ。
「ありがとう、ケイさん」
私は素直に礼を述べた。
「ケイの言う通りだ。生きた人間の気配はしない」
「魔物の気配はするけどな」
私の隣にいたシュリナとヒスイが、ケイのセリフを裏付ける。竜は鼻がとても利く。魔狼の群れ以外に、まだこの村に魔物がいるようだ。たぶん、二人のことだから、全部狩ると言い出すんだろうな。はぁ~~溜め息が出る。
「思いっきり、暴れられるぜ!!」
溜め息を吐く私に対して、シオンは完全に楽しんでいる。でもまぁ、派手に暴れても、被害が出ないのは救いだ。
『シュリナ、ヒスイ、ココは私の後ろに。サス君は前衛に。ここは正攻法で行くよ』
念話で指示を出す。
『『分かった』』(シュリナ、ヒスイ)
『頑張ってね、ムツキ』(ココ)
『承知しました』(サス君)
皆の返事に頷く。サス君が前に出た。これで、いつでも攻撃に移れる。
サス君が前に出たことで、魔狼の足が止まる。縦に伸びていた群れが、横に並ぶ。一斉に飛び掛かるつもりか。魔狼はサス君に狙いを定めたようだ。マズルに深い皺を寄せ、低い唸り声を上げる。緊張感が一気に高まった。
「では、そろそろ始めようか?」
ケイのセリフを合図に、私は魔狼を見据えたまま頷く。
同時に、全体魔法を放った。
練習の成果か、スムーズに魔法を展開することが出来た。無数の風の刃が魔狼の群れを襲う。突然の魔法攻撃に、魔狼たちは回避のタイミングを外した。単体攻撃に比べて、全体魔法の威力は若干だが落ちる。だが、タイミングを外せば、その攻撃は十分致命傷を与えることが出来た。念のために、私は二回全体魔法を放った。
その攻撃を持ち堪えたのは、僅か一頭だった。
その一頭も、体のあちこちが切り裂かれ、大量の血が地面を汚している。それでも、狼らしく、敵に背を向けたりはしない。前衛にいたサス君の【風牙】で切り裂かれるまで、最後の一頭は唸り続けていた。
「さすが、瞬殺だな」
シオンが感心したように、声を掛けてきた。
「そういう、シオンさんこそ」
「二人とも早いね」
ケイも戻ってきた。
「お前が一番遅かったな」
「君たちが規格外過ぎるんだよ」
いやいや、ゴールドであるケイさんには言われたくないよ。
「ムツキ。何で、俺と愛し合った時、全体魔法を使わなかった?」
突然、何?
愛し合ったって……剣を交えただけでしょ。相変わらず、誤解されるような言い方をするな、この人は。
でも、反対側にいた私の攻撃を、ちゃんと把握している。視野が広い。残念な変態だけど、戦いに関してはさすがだと感心する。
「……あの時は、自信がなかったから。全体魔法が使えるようになったのは、つい最近だし。いくら洞窟のダンジョンで練習してきたとはいえ、今一自信がない攻撃を選んでいたら、シオンさんに間違いなく瞬殺されてたと思う」
私の答えに納得したシオンは、ニヤッと笑う。
「今度愛し合う時は、新たなアプローチを期待してるぜ」
「……この件が片付いたら、お願いします」
私は頭を軽く下げ、承諾した。
意外だった? だって、戦闘の天才であるシオンとの手合わせは、私にとって色々習う所が多かったからね。
「それで、これからどうする?」
ケイが訊いてきた。
「三か所に分かれて狩って行くのが、無難じゃねーか?」
狩るか、狩らないかの「どうする?」じゃないんだね。狩る方法の、「どうする?」なんだ……。たぶん、そうなるだろうなって、覚悟してたけどさ……。
「それが一番だな」
そう言うと、ケイはしゃがみ、簡単な村の見取り図を地面に描き始めた。
今回、ミレイさんはお休み(お留守番)です。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




