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〈第十三話 それ、皆の前で言える?〉



「……そう。だったら、リック、貴方が鬼王なのね。黒の大陸から逃げ出した、鬼王……」



 私はわざと不敵な笑みを浮かべ、リックの顔を見詰め言った。かなり意地悪な言い方をした。



 ーー逃げ出したと。



 一番言われたくない言葉を、私は選び敢えて言った。確かめたかったからだ。本当に、彼らを弱っているゲンブ様の所に連れて行っていいのかを。



 ゲンブ様の選定に口を挟むつもりはないけど、その選定が、今現在も生きているかどうか、実の所、疑問に思っていた。シュリナやヒスイを見てても分かるが、意外に簡単に選定を覆すことが出来るみたいだし。



 リックは言葉を発せず、ただ……苦しそうな、泣きそうな、色んな負の感情が入り乱れたような表情を浮かべ、私から視線を逸らす。それに対してクロードは、瞬時に険を含んだ目になり、私を鋭く睨み付けた。私の周囲がざわつく。



「……どんな理由があったにせよ、黒の大陸が一番大事な時にいなかった。逃げ出したと、とらえられても仕方ないんじゃない。まぁ、私はどっちでもいいけど」



 関係ないとばかりに、きっぱりと切り捨てる。



「そのまま残れば、リックは間違いなく偽王に殺されていた! 逃げ出したとは心外だ!」



 クロードは自分たちの正当性を訴えた。私に対して。

 リックとクロードは気付かない。私たち全員が、冷めた目で彼らを見ていることに。



「その危険性が大きかった、って話でしょ」



 絶対じゃない。



「何も知らずに、外野が好き勝手にほざくな!!」



 クロードが怒鳴る。僅かな殺気に反応した皆が騒ぎ出す。それを手で制した。

 確かにクロードの言う通り、私は外野だ。そこで何が起きたのかを、私は知らない。知らないから、言えることも見えることもある。



「外野ね~~。その外野に頼み込んでいるのは、貴方たちだけど」



 私のセリフに、クロードは悔しそうに唇を噛み締める。慌てたのは、リックだ。



「すみません、ムツキ。心から謝罪しよう。クロードの暴言は俺から謝ります。だからーー」

「同行させてくれって。他力本願にも程があるんじゃない? リック」



 リックのセリフを遮る。その事は重々承知していたようだ。リックもクロードも黙り込む。その様は対照的だが。



「……逃げ出すことに関して、それが間違いだったとは言わない。時に、逃げ出すことも大切だからね。そのまま突っ込んで死んじゃうなんて、馬鹿がすることだと思うよ。まぁ、一種の自己満足みたいなもん? ……でもね、大事なのはその先だと私は思う」



 一旦言葉を切った。そして、大の大人二人を見据える。リックとクロードは僅かに警戒感を見せた。私はフッと笑い、話を続ける。



「何故、同行を頼んだ時、真実を話そうとはしなかったの? そんな素振りさえ見せなかったよね。私が信用出来なかったから? ……どちらにせよ、貴方たちは私が詰め寄るまで話そうとはしなかった。もし、私が詰め寄らなければ、最後まで真実を話すつもりはなかったんじゃない?」



「ムツキ。貴女の気持ちを不愉快にさせたことは謝ります。しかしこの事は、考えた上で判断したこと。真実を知るものは少ない方がいいと考えたからです」



 リックは逸らせていた視線を戻し、私の目を真っ直ぐ見据え答える。



「考え方の相違ね。私は少なくとも、仲間に対して、真摯な態度でありたいと思ってる。命を掛けてくれる仲間に対して真摯になれない者が、民に対して真摯になれるとは到底思えない。……まぁ、それはいいよ。それぞれの考え方があるから。でもね、これだけは言える。……貴方たちは言ってはいけないことを言った。鬼王……私は、貴方たちの同行を認めない」



 きっぱりと、リックとクロードの要望をはねのけた。

 何だかんだと文句を言っても、最後は認めてくれると、心のどこかで思っていたみたいだ。それとも、子供だから、どうにかなるとでも思っていたのか。否定されるとは考えてなかったリックとクロードは、驚愕し、呆然と立ち尽くす。



 話は終わった。私はミレイに視線を移す。優秀な戦闘メイドのミレイは、私の意図を正しく汲み取り、リックとクロードをテントの外に追いやろうとする。ここにきて、リックとクロードは私の意思が固いことを知った。



「……分かりました。クロード、戻ろう」



 力なく頭を垂れ、リックはクロードと共にテントを出て行こうとする。



「ちょっと待て、リック!! 今ここで引いたら、黒の大陸はどうなる!?」



 クロードは全く納得していない。必死でリックに、そして私に向かって叫ぶ。その腰を、ミレイは容赦なく膝蹴りする。

 叩き出される、リックとクロード。テントの外で、不様に地面に座り込む二人に向かって、私は問い掛けた。



「このまま残っていたら、リックは間違いなく殺されていた。そのセリフ、今、黒の大陸の民の前で立って言える?」



 ビクッと、リックとクロードの体が震える。

 クロードの放ったセリフに、怒らなかったリックも同罪だ。

 クロードが言ったことは事実だと思う。でもそのセリフは、絶対口にしてはいけないものだった。少なくとも、多くの民が不幸になった責任の一旦を、彼らは握っているのだ。その不幸は今も続いている。この瞬間にもーー



 そのセリフを口にした時点で、私の中で答えは決まっていた。



 ミレイが出入口の布を下ろす。リックとクロードがいなくなり、ようやくテント内に静寂が戻った。





 大変、お待たせしましたm(__)m


 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m

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