第六話 初バトル※
殺気が半端ない。
結構距離があるのに、ヒシヒシと伝わってくる。
冷気っていうのかな、細かい氷がチクチクと皮膚を刺すような感覚に近いかな。それに、威圧感もある。
ただ……威圧感を感じるのは、視線の先にいる魔犬からじゃない。違う方向からだ。襲ってくる気配はないが……。
(隠れて、私たちの様子を観察してるようね……)
だとすると、かなりの知能があるって事になる。
明らかに、最初に出会ったあの魔犬とは違った。本能よりも知能が勝ってる時点でね。それに、視線の先にいる魔犬たちは私たちを喰う気満々だ。
「睦月さん」
「サス君、手伝ってくれるの?」
魔犬を見据えたまま尋ねる。
「今回は後方で。危なくなったら、助けに行くのでご安心を」
「…………(危なくなるまで放置か!!)」
サス君もココに劣らず、意外にスパルタだ。
「確か、【鑑定】の固定スキルを持ってましたよね。それって、物だけではなく生きている生物にも有効なスキルですよ」
はっきりとは口にはしないが、そのニアンスだけで、サス君が何を言おうとしていたのか理解出来た。自然とニヤリと口角が上がる。
「へぇ~~そうなんだぁ」
早速使ってみますか。
ーー【鑑定】
頭の中で詠唱する。すると、魔犬の【ステータス】が目の前に表示される。
【魔犬 ランクC】
HP 76/83
MP 0/0
物理、魔法攻撃有効。
他の三頭の魔犬も皆似たような【ステータス】だった。
至ってシンプルだが、これから戦う魔物の【ステータス】(情報)を得られるのは、戦いにおいて何よりも武器になる。
物理攻撃が有効なのか。それとも魔法攻撃が有効なのか。両方有効なのか。それさえ分かれば、戦闘はとても有利に運べる。戦いながら探る必要がないからね。
(【鑑定】のスキルに、こんな使い道があったなんて……)
「……さて、始めますか」
何時までも睨み会いをしてても埒があかないしね。こっちから仕掛けますか。
「サス君の二番煎じだけど」
そう言いながら、魔犬がいる上空に手を伸ばす。
ーー【ライトボール】
上空に描かれた魔法陣から、雷が降り注ぐ。ボールというより槍のようだ。
魔力をほんの少し多めに流して、魔法陣の大きさをやや大きくしたから、その分降り注ぐ刃の量は多い。一応、単体魔法だけどね。
魔法陣の大きさを変えずに魔力を多く流せば、それだけ殺傷能力は高くなる。反対に、魔法陣を大きくした場合、殺傷能力は低くなる。まぁそれでも、直撃したら、かなりのダメージを受けるけどね。
始めから、時間を掛けるつもりはなかった。
いくら魔犬が魔法攻撃に有効だったとしても、群れで襲ってくる魔犬に対して、魔法オンリーの戦い方は到底ベストとは思えなかった。本来なら、魔法と物理攻撃を交互に行うのがベストだ。
だけど、今回は魔法のみ。
それも、私一人で対処するしかない。
だとしたら、短期決戦しか有効手段は考えられなかった。分散されたら面倒だからね。そう考えると、使える魔法は限られる。
思惑通り、二頭が雷の槍に体を衝かれ戦闘不能状態。残り一頭は感電し、痙攣していた。動けるのは一頭のみ。ほぼ無傷だ。襲い掛かってくるかと身構えたが、さっきまでの殺気は完全に消えていた。尻尾が股の間に入り、プルプルと震えている。
(少し可愛いかも)
魔犬とはいえ、見た目は真っ黒な大型犬だからね。目は真っ赤だけど。
にっこり笑い掛けたら、ちびりながら逃げて行った。そんなに私の笑顔って怖いの? 少しショックだよ。
戦闘不能になっていた魔犬は魔石に変化していた。そして、感電して動けないでいる魔犬には、苦しまないように、風の刃【ウィンドボール】で止めを刺した。
「……消えたね」
「ああ、消えた」
確かに消えた。生き残った魔犬がちびりながら逃げる前に、ずっと感じていた威圧感が消えた。それはおそらく、威圧感を放っていた何かが立ち去ったからだ。
「リーダー格の魔犬かな?」
そう考えるのが一番無難だ。
「それはどうかな?」
しかし、ココは難しい顔をする。まるでその言い方だと、違う存在を示唆しているように聞こえる。
「一概には断言出来ませんよ。あれ程の威圧感を放てるのは、ここら辺にいる魔物では到底無理です」
サス君もココと同意見だった。
(魔犬じゃなかったら、別の魔物……? でもサス君は、この辺にそんな危険な魔物は存在しないって言ってるし)
私がどうこう判断出来る内容じゃない。
それに明日、大きな討伐が入る。その前にギルマスに伝えておく必要があるだろう。でもその前に、
「ギルマスに報告する前に行ってみないとね……」
現場に何かが残ってる可能性は低いと思うけど、それでも足を運んでおく必要はある。僅かに匂いでも残っていてくれれば、サス君が覚えてくれるだろう。
一頭逃げたが、取り合えず、初バトル終了ーー。
魔犬三頭駆除。
今時点で、魔犬八頭(半分サス君)、ゴブリン四頭駆除成功。
魔石、十二個。ドロップアイテム、牙二本ゲット。
レベル5から2ランクアップ。レベル7になった。
【ムツキ=チバ 14歳(女) 出身 トコヨ】
レベル 7
HP 956
体力 495
敏捷 662
知力 943
魔力 1120
魔耐 1050
運 164
職業 冒険者
(S級ランクの職業に就ける可能性大)
〈スキル〉
初級炎魔法〈42/100〉
初級水魔法〈35/100〉
初級風魔法〈39/100〉
初級土魔法〈38/100〉
初級雷魔法〈30/100〉
初級回復魔法〈1/100〉
初級浄化魔法〈2/100〉
やっぱり、体力だけは低かった……。
話を大幅に書き直したので、追加しました!!
〈初クエスト編〉
後三話程増える予定です。
 




