〈第五十一話 神託〉
ミレイと別行動をとって、一週間。
その間、全体魔法がスムーズに発動出来るようにするための、訓練を繰り返しやった。
魔法の先生が二人。
シュリナとヒスイがいるから、訓練は滞りなく進む。
始めは、動かないものを対象にして。
次に、魔物を相手に。
最初は後衛から。慣れてきたら、前衛に移動する。
スパルタだった……マジで。
何度、胃から酸っぱいものが込み上がってきたことかーー。
怒鳴られ、叩かれ、何度も何度も同じことを繰り返す。
魔力が測定不可能だからか、一日中練習してでも、それほど魔力には変動がなかった。
体は疲れているけど、前みたいに熱をだす程じゃない。
レベルが上がったからかな。少しだるい程度だ。こういう時は、お手製の薬湯が肌身に沁みる。
「フゥ~~。気持ちいい……」
レンとの約束を明日に控え、私たちは訓練を早めに切り上げた。
セッカとナナが用意してくれたお風呂に浸かりながら、手足をゆっくり伸ばす。
少し沁みたが、すぐに沁みなくなった。よく見ると、体についていた小さな切り傷や擦り傷が綺麗になくなっていた。
どうやら、ポーションの効果らしい。
下級ポーションじゃなくて、上級ポーションを使ったから?
それとも、私が作ったから?
どっちにせよ、一日中魔法の訓練をしても平気なことといい、ほんとチートだよね。私……
つくづくそう思う。まぁ、亜神だから仕方ないんだけどね。
浴室から出て体をタオルで拭っていると、鏡越しに、背中に赤と緑の契約紋が刻まれているのが見えた。
赤の契約紋は、シュリナの封印を解除した時。
緑の契約紋は、ヒスイの封印を解除した時に刻まれた。
五聖獣全ての封印を解いた時、始めて本当の形になるらしい。
「「ムツキ様。モモスの炭酸水をお持ち致しました」」
ダイニングに戻ってきた私に、タイミングよく、セッカとナナが冷えたモモスの炭酸水と、同じくよく冷えたグラスを運んでくる。
一か月で、ここまで変わるもんだね~~。
ミレイがいなくても、テキパキと動く二人を見ながら、心底感心する。
「「ありがとう。セッカ、ナナ」」
お礼を言うと、セッカとナナは照れて顔を赤らめる。
何、この可愛い生き物は!!
思わず、私はセッカとナナをギュッと抱き締めた。
シュリナたちはまた始まったかと……、呆れた顔をした。
いつもはそこで少しムッとするのだが、今はそれよりも気になることがあった。
どう言ったらいいのかな?
こういう時、いつもみたいに考えを読んでくれたら助かるんだけど……
明確な考えや思い以外は読み取りにくいらしい。グダグダ言ってて伝わりにくいのと同じ様なものかな。
だから、悩みながらも声にだす。
「あのさ……。シュリナ、ヒスイ」
「何だ?」
「どうした?」
う~ん。どう言おう。
取り合えず、訊きたいことから聞こう。でもその前に、
「サス君。よそに漏れたくない話だから、念のために結界張ってくれる?」
「これでいいですか?」
サス君は嬉しそうに尻尾を振りながら、結界を張ってくれた。
結界は敵から身を守るもの。
それ以外に、別な使い道があることを、ついこの前知った。知るの遅すぎだよ。まぁ、知ったのも偶然だけど。
「ありがとう」
「それで、結界を張ってまで、我らに訊きたいこととは何だ?」
シュリナが尋ねる。
「……この世界を覆っている結界が解けるまで、後十か月ぐらいあるけど、今回の黒の大陸の件って、それが関わってる訳じゃないよね」
「ムツキが言いたいこととは、こういうことか? ……世界の終末を無意識のうちに感じ取って、狂ってしまったのではないか、と」
さすが、シュリナ!
私が訊きたいことを、ズバリと言い当てる。
「その可能性は低いな」
代わりに答えたのは、ヒスイだった。
「どうして、そう思うの?」
「今でこそ、周知の事実だが、そもそも切っ掛けは、五年以上前から始まってるからな」
五年前?
「……五年前といえば、先代の鬼王が病気で臥した頃でしたよね、ビャッコ様」
ココが確認するように、ヒスイに訊く。ヒスイは頷いた。
鬼王? 黒の王のことか。
「先代の鬼王が病に臥した時、玄武は次代の王の選定を行った」
「今の偽王じゃないよね」
「当たり前じゃねーか! あいつは、先代の鬼王の一人息子だが、あいつじゃねー」
ヒスイはきっぱりと否定する。
王を継ぐのは、直系の血をひく息子とは限らない。
「ということは、別にいたってこと? その人はどうなったの?」
「偽王に排除されたのだ。偽王の一派が、その選定は出鱈目だと言い出して、退けたと聞いておる」
「はぁ~~」
シュリナの答えに、思わず私は低い声を放った。
ありえない!! ありえないわ~~。
五聖獣の神託を無視するなんて、マジ、信じられない。恩恵を失って当然だよ。
神様は慈善事業じゃない。
そんなことも分からない者が王を名乗ろうとしたなんて、呆れてものが言えない。だけど、何か引っ掛かる。
「……だとしたら、ヒスイの言う通り、可能性は低いよね」
「まだ、何か引っ掛かってるようだな?」
ヒスイが私の顔を覗き込む。
「……う~ん。偽王が思い込むのは、まだ納得出来るけど、宰相や重鎮たちが、どうして賛同したのかな? そもそも、玄武様の神託を出鱈目だと信じ込ませる何かがあったのなら、それは何?」
シュリナもヒスイも息を飲む。勿論、サス君とココもだ。その場にいる全員、私の問いに答えることは出来なかった。
私の脳裏の片隅に、ある人物の影が過る。
黒いローブを着た男の姿がーー。
お待たせしましたm(__)m




