〈第三十話 薬の意外な使いみち〉
翠の大陸に来て三日目の早朝、私たちはボルンの街を出発した。
通常なら、リーンの森までは王都マラカイトを経由して、最低三か月以上掛かる。乗合馬車の乗り換えが上手くいってそれだ。でも、私たちにそんな時間はない。短縮して、巻いて進まないと。
と、いう訳で、私たちは今、ビャッコ様の薬草園、蘇生草の栽培地に来ていた。
「……ムツキ様、ジェイ様を待たなくてよかったのですか?」
「いいんじゃない。一応、言伝は、宿屋とザイールさんにしてるし。まぁ、ジェイさんに待つよう言われたけど、頷いてないから大丈夫だよ」
先日、私はリクのことをまるっと、ジェイに丸投げした。
今のゼノムの顔を唯一知ってる人物として、ジェイはリクを王都に連行した。強度な結界と、厳重な警備の元、リクは今尋問を受けている。人族の手で。尋問が終わった後も、最悪命は取られないだろう。人として裁かれるのなら。
「でも、ゼノムの手の者が、ムツキ様を襲う可能性がある以上、安全のためにも、ジェイ様をお待ちしたほうが……」
ミレイの心配はごもっとも。
「ミレイは、僕たちじゃ、役不足だって思ってるんだね……」
「引けを取らないように、日々精進しているのに……」
明らかにショックを受ける、ココとサス君。
「違います! 決して、ココ様とサスケ様が弱いとは思っておりません!!」
慌てて弁明するミレイに、私は吹き出す。
「……からかわれているだけだから。サス君もココも、そんなこと思ってないよ」
久し振りに、大声で笑った。
「そこまでだ。……そろそろ、行くぞ」
「分かった。シュリナ」
私は右手を前に伸ばし、掌を開く。深呼吸をしてから唱えた。
「護りての名において命ずる。開門せよ!」
私の声に共鳴するように、私たちの目の前に真っ暗な空間が現われた。
「これが通路。……それじゃ、行きますか」
私は皆を促す。
「「はい!」」
「そうだね!」
「ふむ」
それぞれ、特徴のある返事が返ってくる。
私たちは迷うことなく、その空間に足を踏み入れた。
(あれ?)
真っ暗な空間に足を踏み入れたはずなのに、靴底に固いものが触れた瞬間、周囲の風景が変わった。
見渡す限り、木々と岩と苔で覆われた中に、私たちは立っていた。
「ここが、リーンの森……」
「ドーンの森と同じ匂いがする」
ココが鼻をピクピクと動かす。
「…………」
反対にサス君は無言のまま、周囲を気にしていた。耳がやけに動かしている。
シュリナは「無事、通れたようだな」と、ポツリと呟く。
(無事?)
「……どうしたの!? ミレイ、大丈夫!?」
ミレイが真っ青な顔で、口元を押さえ座り込んでいた。
「……大丈夫です」
声に力が全くない。
「サス君、周囲に結界を張って! 少し、ここで休もう。ミレイ、荷物下ろして」
「……すみません」
戸惑いながらも、ミレイは荷物を下ろし横になる。私は寝やすいように、タオルを頭の下に差し込む。水魔法でタオルを濡らし、ミレイの額に置いた。
「魔力酔いだな」
「魔力酔い?」
「我らが今通ったのは、転移門だ。転移魔法とは違い、転移門の中は濃度が高い魔力で満たされている。魔力の耐性が低い者は、ミレイのように魔力酔いを起こすのだ」
「それで、ミレイは大丈夫なの?」
「馬車酔いと同じだ。寝てれば治る」
「寝てればって……」
いつまでも、この場所で寝ているわけにはいかない。
護りてである私は、ビャッコ様の加護を自動的に受けている。とはいえ、魔物と絶対遭遇しないとは断言出来ない。断言出来ない以上、同じ場所に居続けることは危険だ。
「…………大丈夫です」
なんとか起き上がろうとするが、体はミレイの意思に反して動かない。それでも、か細い声を上げる。
(どうしたらいいんだろう?)
「ムツキ。ムツキが作ったポーション、飲ませてみれば」
ココが、アドバイスをくれる。
(ポーションを?)
「…………そうだね」
鞄の中から小瓶を取り出すと、ミレイの上半身を支えながら起こし、口元に小瓶をあてがう。吐き気が込み上げてきたのだろう。必死で我慢している。
「ミレイ。気持ち悪いかもしれないけど、我慢して飲んでみて」
小さく、ミレイは頷くと、コクコクと飲み干す。すると、不思議なことに、みるみるうちに顔色が良くなっていった。
「大丈夫?」
「この薬凄いです!! ムツキ様、吐き気も目眩も治まりました」
(マジで……)
傷や怪我を治すポーションに、意外な効能があったようです。
お待たせしました("⌒∇⌒")
予定通り、〈リーンの森編〉始まりました!!
楽しんで頂けたでしょうか?
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




