〈第二十九話 人族として〉
祝!! 140話目です("⌒∇⌒")
「もう終わりなんだ。つまんな~い」
「もう少し、遊べると思ってたのに、ほんと残念だよ」
繰り出される攻撃に為す術もなく、地面に叩きつけられた黒い獣を、ミカとロイは冷たい目で見下ろす。
「「これくらいの実力で、ムツキより秀でてるって思ってるなんて、愚か(だ)よね」」
ムツキという名前に、ピクリと反応する黒い獣に、ロイはたたみ掛ける。
「言っとくけど、ムツキは僕たちより強いからね。リク君」
リクに抗う力はもう残っていない。肉体面も精神面も。全てを、獣人たちに簡単にへし折られた。
黒い笑みを満面に浮かべるロイが、抗う力のないリクに、止めを刺そうと剣を振りかざした時だった。
「そこまでにしろ、ロイ。殺したら、話が聞けないだろ」
突然、男性の低い声が話って入った。
「は~あ。何もしないで、いいところ持っていくのは、許せないんだけど」
「ジェイ、邪魔」
深みを増す黒い笑みと同時に、ロイとミカは殺気を放つ。二人の殺気に当てられても、ジェイは平然としている。
「十分、遊んだだろ?」
ジェイの問い掛けに答えたのは、年端もいかない少女だった。
「……そうみたいね。でもその前に、私に言うことがあるんじゃない? ジェイさん」
「「「ムツキ!!」」」
思いもしなかった私の登場に、ロイとミカ、ジェイの三人は驚愕する。セシリアは私を見て軽く頭を下げる。
「なっ! ……何で、ここに?」
珍しく焦り、吃りながら問うジェイを、私は無視した。そのまま、私はリクの側まで歩み寄る。
「…………ひ……きょう……者」
卑怯者ねぇ~。
その言い様に、私は苦笑する。
だが、三人は違った。吐き出されたその一言に、ミカとロイ、そしてジェイまでもが殺気立つ。シュリナは、今まさに殺しそうな勢いだった。
「シュリナ、抑えて」
もしかしたらリクは、シュリナの手に掛かることを望んでいたのかもしれない。だけど、私はそれを叶えてあげるほど優しくない。
私は軽く【回復魔法】を掛け、リクを少しだけ回復させる。
黒い獣は人の姿に戻った。
素早く、セシリアが両手、両足を拘束した。力のある獣人族でも壊せない、腕輪と足輪だ。
「……施しのつもりか!!」
リクは唇を噛み締め、私を睨み付ける。
「施し? 施しなら、シュリナを止めたりしなかったけどね」
「……なら、どうして、俺を助けた!?」
リクが息巻くほどに、私のテンションは下がっていく。
「嘆願されたからよ。リードにね」
「……余計なことーー」
最後まで言わせなかった。
私は魔力を右足に集め、リクの腹を蹴り上げる。
リクの体は簡単に弾き飛ばされた。背中を激しく打ち付け、咳き込むリク。私はその姿を、冷めた目で見下ろす。
「長老候補まであった青年の人生を潰しておいて、よくそんな台詞が吐けたものね。それとも、貴方にとったら、それも余計なことだった?
貴方の命を助ける為に、片腕を失った状態で嘆願しに来た兄さんなのに。薄情よね」
淡々と、だが怒りを含んだ声に、その場は完全に凍り付く。
「…………」
リードが怪我をしたことを知り、弾かれるように顔を上げ、私を見詰める。無事かどうか知りたいはずなのに、リクは口を閉ざす。
私はそこまで親切じゃない。だから、教えない。
「私はここに来たのは、貴方の為じゃない。リードの気持ちに答えたからよ。どんな形でも、貴方には生きてて欲しかったんでしょうね」
「…………」
「リク。貴方はもう、シュリナの眷族じゃない。
知らなかったとはいえ、眷族たちの仇に手を貸した貴方に、戻る場所はないわ。
だから貴方を裁くのは、シュリナやシュリ様じゃない。勿論、私でもない。朱の大陸の出身者である貴方を裁くのは、朱の大陸を統治している、勇王よ。
……リク、貴方は侮蔑しきっていた人として裁かれるのよ」
みるみる、リクの瞳から光りが消えていく。私はそれを無慈悲に見下ろしていた。
◇◆◇◆◇
「お帰りなさいませ。ムツキ様、スザク様」
戻って来た私に、ミレイは笑みを浮かべ労う。私は、シュリナの呼び方が変わっていることに気付いた。
……サス君たちが話してくれたんだ。
ほんと、助けられてる。皆に。心が疲れている時は、特に皆の優しさが身にしみた。
「……ただいま。寝る前に、甘いカコアが飲みたいかな」
「直ぐに、ご用意致しますね」
ミレイはカコアを淹れに、主寝室を出て行く。
「ありがとう。サス君、ココ。私の代わりに、話してくれて。……それで、リードは?」
「出て行きました」
「いずれ、この恩は返す、って言ってたよ」
「そう……」
「…………」
私は驚かない。目が覚めたら出ていくと思っていたから。私がそう思うぐらいだから、サス君もココもそう考えていただろう。だから、引き留めなかった。にしても……
恩を返すねって……
リードらしい言い方だ。
また何処かで会えるかもしれない。もし会えたのなら、その時は色々話してみたい。
許されるのなら……
お待たせしました("⌒∇⌒")
今回は少しシリアスでした。リクとリードの一件も片付き、次はいよいよ、リーンの森攻略がはじまります(たぶん)!!
因みに、エルフの少年はまだ目が覚めてません。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




