〈第二十八話 再会〉
エルフの少年のことが気になって、目が冴えて眠れない私に、シュリナが、「とことん気にして疲れたら、我らを頼れ。遠慮するな」と、頬に手を添え、男前な台詞を言ってくれた。
その直後だった。
カタン。
テラスの方から物音がした。
カーテンを開けて横になっていたから、テラスと室内を隔てるものはガラスだけだ。
テラスの隅の方で、黒い服を着た男が蹲っていた。私と従魔トリオに緊張が走る。
男が顔を少し上げた。影に遮られ、半分くらいしか顔が見えない。だがそれだけで、十分だった。その場に蹲っているのが誰か分かった。私だけじゃない。シュリナも、サス君も、ココも、男のことを知っている。
「リード……」
リクの兄であり、次期長老候補だった青年だ。彼と初めて会ったのは、私とサス君たちをシュリナの所まで導いてくれた時だ。弟が誰よりも大切で、その愛故に、里を裏切った人物でもあった。
(リクと共に行方不明だと聞いていたけど……)
その行方不明だった青年が、今テラスにいる。
ベットから下りて、取っ手に手を掛けようとする私を、鋭い声を上げシュリナが止めた。
「開けるな!!」と。
「…………申し訳ありません。スザク様にも、護りて様にも、顔を合わすことが出来ないことは、重々承知しております。……分かった上で、お願い致します。弟を……リクを助けて下さい」
苦しそうな声だ。
「随分、偉くなったものだ。五聖獣の我を私用で動かそうとはな。何故、我が助けなければならない。さっさと、立ち去れ!」
シュリナは始めから聞く耳を持たない。リードを切り捨てる。
(シュリナが怒る気持ちも分かるけど……)
だからといって、私までもが、リードを切り捨てる気持ちにはなれなかった。それこそ、目覚めが悪過ぎる。仕方ない。
「ムツキ!!!!」
深い溜め息をついてから、私は窓を開けた。
開けた途端、鼻につく、鉄分の独特な匂い。
ーーこれは血の匂いだ。
「リード!!」
慌ててしゃがみ込み、リードの肩を掴もうとした。掴めた。右手は……しかし、左手は……
「ココ、サス君!! 今すぐ、ミレイとジェイさんを呼んできて! 急いで!!」
直ぐに、ココとサス君は行動に移す。シュリナは呆然と浮かんだままだ。
私の力じゃ、ベットまで運べない。
「リード、私に凭れ掛かって。大丈夫。怪我を治すだけだから。……そう、そのまま動かないで」
私は目を閉じ、心の中で【治癒魔法】を唱える。橙色の魔法陣が、私とリードの足下に浮かび上がった。今まで以上の魔力を込める。橙色の光りが、次第に白に近い色へと変わっていった。同時に、魔法陣が発光しだす。
「ウッ~~~~!!」
リードの苦しげな呻き声が耳元でする。相当痛いのか、呼吸をするのを忘れるほど、息を詰め、必死で我慢している。時間にしては一分程だ。だけど、リードと私にとっては長い時間だった。勿論、側にいるシュリナにとっても……
痛みで強ばっていた体から、力が抜けたところで、私は大きく息を吐き出した。
「…………ムツキさん、腕……」
「えっ!?」
サス君の呟く声につられるように見ると、さっきまでなかったリードの片腕が、そこに確かにあった。
「…………腕がある」
力なくぐったりしているリードの手首に、恐る恐るソッと触れてみたが、ちゃんと体温があった。私は心からホッと胸を撫で下ろす。
「……ムツキ様」
「あっ、ミレイ。悪いけど、リードをベットに寝かすの手伝ってくれる」
「畏まりました。でもその前に、血で汚れた服を脱がさないと。ムツキ様もお着替えを。ここは私にお任せ下さい」
「うん、分かった。頼むね。……あれ? ココ、ジェイさんは?」
ミレイから視線を外すと、ココが直ぐ側にいるのに気付いた。しかし、肝心のジェイの姿が見えない。
「いなかったよ。もぬけの殻だった」
「こんな時間にいないの?」
自然と語尾がきつくなる。
「もしかして、あのエルフの所に行ったかも」
(あのエルフの所!? 考えられるわ)
「ムツキさん!?」
急に立ち上がった私は、慌てて血に染まったパシャマを脱ぎ捨てると、普段着に着替えた。
「ミレイ、ちょっと出掛けてくる。ここはお願い。念のために、サス君もココも残って。……シュリナ行くよ」
「……我は行かぬ」
シュリナは頑として首を縦に振らない。行きたくない気持ちは理解出来るけど、認めることは出来ない。といって、シュリナを説得する時間もない。
私はシュリナの腕を掴み、半ば強引に抱き締めると、あの変態双子の住む屋敷に飛んだ。
お待たせしました("⌒∇⌒")
やっと……主人公が、帰ってきました!!
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪




