〈第十六話 魔眼石〉
「…………ありえん……なうての傭兵たちだぞ……それを一瞬で…………」
男の口から呆然とした声が漏れる。
男の目の前には、呻きながら転がる傭兵たち。
ジェイは十人ぐらいって言ったけど、実際は六人だった。それを一瞬で、正確にいえば一振りで、ジェイは全員を倒した。
「凄っ!!」
初めて、ジェイの剣捌きを見た。それを間近で。線が縦に走ったように見えた。そう見えたと同時に、傭兵は何かに弾き飛ばされた。
しかし、ジェイは剣を抜いていない。鞘をしたまま振り下ろしただけだった。
「流石、ジェイ様です。〈剣聖〉はだてではありませんね」
「剣聖?」
「はい。ジェイ様は〈剣聖〉の職業に就いておられます」
「勇者じゃなくて?」
「勇者は称号だよ」
私の質問に答えたのは、ココだった。ココは今、私の腕の中にいる。見上げる顔が、すっごく可愛い。
「ムツキさんも、職業と称号は違うでしょう」
サス君の指摘通り。
(確かに違ってたね)
ハンターカードに書かれている職業は、冒険者。
でも、ステータスに記載されている称号は、古い順で、神獣森羅の化身。魔法使いの弟子。五聖獣の護りて(魔王)。獣の王を倒せし者。魔狼を討伐する者。この五つだ。
前の二つは、クエストをする前からあった。後の三つはクエストを始めてから付いたものだ。称号が付く度に、色々な付加がステータスに加算されている。ましてや、称号に付随したスキルも自動的に習得出来る仕組みだ。……正直、魔王のスキルはいらないけどね。
「前に、我は言ったぞ」
(言ってたっけ?)
私の気持ちが読めるシュリナは、聞こえるように、わざと大きな溜め息をつく。
「勇者の職に就いたとしても、称号に記載されていないと無理だと言ったはずだ」
「あーー聞いた気がする」
「するじゃない。しっかり覚えておけ」
シュリナはまた私の両肩に座ると、私のこめかみをペシペシと軽く叩いた。マジで意外に痛い。
「は~い。……で、ジェイさん、その男どうしますか?」
腹が出た中年男を、冷たい目で見下ろすジェイに私は尋ねた。
「……終わったみたいだな」
どうやら、待っててくれてたみたいだ。私の方を向くと微笑んだ。
「このまま、兵士か騎士に引き渡した方がいいな」
「……ワシを兵士に引き渡すだとーー許さん!! このワシを地べたに這わしたことを後悔するがいい!!!!」
男は怒鳴ると、聞こえる懐に手を突っ込み、円形の球体を取り出した。
「ムツキ、ミレイ!! 目を閉じろ!!」
ジェイは声を荒げ、目を自分の腕で覆い隠す。隣を見れば、ミレイも同じように、目を隠している
(……えっ!?)
反応を遅れた私は、目を隠すことなく、中年男と謎の球体を見ていた。
「そうだ。それでいい。さぁ、このままワシの元に来い。さぁ……」
中年男が私に手を差し出す。
「何で、私がおじさんの所に行かなくちゃ行けないの? 冗談じゃない。気持ち悪い」
(マジで気持ち悪い。何格好つけてるの? このおじさん)
「ーー!! 何!? 効かないのか!?」
男は一歩近付くと、再度、謎の球体を私に突きだす。さぁ!! もっとよく見ろ、と言うように。
『あれは、魔眼石だな』
シュリナが念話で話しかけてきた。
『魔眼石?』
『魅了の力を持つ石のことだよ』
『魅了のスキルを持つ者の目をくり抜き、作りだした石のことです』
『目をくり抜くって! そんなこと許されるの!?』
『許されるわけなかろう!』
シュリナの声には、明らかに怒りが含まれていた。
『魔眼石は、別名邪眼石と呼ばれ、禁忌の物だとされてるよ』
口調と違って、その声は厳しい。
『禁忌の物に手をだすとは、愚かにも程がある!』
サス君は吐き捨てる。
「そう……よく見るんだ。おいで、その腕に抱いている妖精猫も一緒に、さぁ……」
再度、中年男は私に手を差しだす。どうやら、念話で話している間、黙っていたの勘違いしたようだ。私が魅了に掛かっていると思っているようだ。ジェイとミレイは動けない。
『あの魔眼石、どうやって壊すの?』
『簡単だ。あの魔眼石に神聖魔法を掛ければいい』
『神聖魔法?』
『蘇生魔法を掛けろ。そうすれば、壊れる。あの石は闇魔法で作られているのだ』
『分かった』
私はそう答えると、手を差しだし男に近付く。
「そうだ。良い子だ……もっとこっちにおいで」
中年男は下品な笑みを浮かべながら、気持ち悪い声で囁き、私を見詰める。
「「ムツキ(様)!!!!」」
ジェイとミレイが叫ぶ。
私はその声を聞きながら、男へとゆっくりと近付いたのだった。
お待たせしました("⌒∇⌒")
お楽しみ頂けましたでしょうか。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




