〈第十五話 分からせてあげる。骨の髄までね〉
(あれ? こんなに簡単でいいの?)
思わず首を傾げてしまうほど、簡単な審査だった。王都や主要な街に入る時と同じくらいかな。簡単過ぎて、拍子抜けしてしまった。
「当然です。ムツキ様やジェイ様はゴールドカード保持者ですよ。無条件に他の大陸に入れます。旅券も必要ありませんし」
そう。実際、私は何も用意していなかった。
本来なら、他の大陸に渡るためには、ミレイが言った旅券が必要だった。日本でいうところ、パスポート的なものかな。それをとるには、出生証明書とか色々な書類が必要で、かなりの時間とお金が必要なんだって。
でも、ゴールドカード保持者は特権として、旅券なしに国境を渡ることが出来た。有事が起きた時、真っ先に召集されるのはゴールドクラス。そんな時に、わざわざ旅券をとったりしてたら、絶対に間に合わない。故に、ゴールドカード保持者は旅券が必要ないのだ。
因みに、ミレイはちゃんと旅券を騎士(ブチ柄の猫耳と黒色の犬耳)に見せた。
「それで、どうする?」
検問所から少しだけ移動すると、国道の端で立ち止まる。シュリナが口を開いた。
「たぶん、待ち構えてるよね。ここだったら、隠れ放題じゃない?」
私の目の前には、森が広がっている。朱の大陸側が森の入り口だったようだ。
整備された石畳の国道が、森の中を一直線にのび、陽の光りが木々の隙間から零れ落ちてきて、それはとても美しい光景だった。美しい光景なのに、今はココのことが心配で、その光景の美しさも半減する。
「隠れるとしたら、もっと先だろう」
「私もそう思う。何人ぐらい隠れてるかな?」
「いても、十人くらいだろうな」
「十人ね……フッフッフ」
自然と、私の顔に笑みが浮かぶ。
「捕らえますか?」
ミレイは捕まえる気満々だ。
(まぁ、捕まえるのは簡単だよね)
だけど、それだけじゃ物足りない。
「分からせてあげましょうか。誰を敵に回したのかをね……」
(分からせてあげる。骨の髄までね)
◇◆◇◆◇
ーーあの猫は間違いない。あれは〈妖精猫〉だ。伝説級の生き物の。
噂では聞いていた。新人ハンターの一人が、妖精猫を従魔にしていると。
正直いえば、その噂は眉唾だと思っていた。あの希少価値のある妖精猫を、戦闘に使用しているだと。ありえない。妖精猫が持つ知識は、この大陸において、いや、この世界において、至上の宝なのだ。それが、従魔として登録されてるなぞ、誰が信じられるか!! だから、ワシは鼻で笑って、噂を一蹴していた。
しかし、ワシはその目で見た。話す声を聞いた。
どうやら、あの幼い少女が契約主のようだ。
目を疑った。あんな子供が、至上の宝を手に入れているのか。それだけじゃない。あの子供の側には、子竜とフェンリルが寄り添っていた。
それを見た時、ワシは全身の血が沸いた。猛烈に欲しいと思った。
妖精猫も。
子竜も。
フェンリルも。
ーーそして、伝説級の生き物たちを魅了する、あの子供もだ。
なぁに、大丈夫だろう。今、ワシの手元には、【魔眼石】がある。大枚を叩いて買ったからな。あのローブの男から。これさえあれば、あの子供は意のままに操れる。男の方は手の者に殺らせるとして、あのメイドはワシの愛人にでもしようか。楽しみだ。実に楽しみだ……
「クックック……アッハハハ!!!!」
男の下品な笑い声が、馬車内に響いた。
「奴等は、この国道を通る。速攻で仕掛けるぞ! よいな! クレオ。失敗は許さぬ」
男の顔から笑みが消える。窓を少し開けると、隣で馬車警備する私兵に低く、小声で命じた。
「畏まりました」
クレオと呼ばれた青年は、列から離れ、主の願いを叶えるために動き出した。
お待たせしました("⌒∇⌒")
今回も、少し黒いムツキの登場!!
お楽しみ頂けましたでしょうか?
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




