〈第十四話 検問所〉
ーー翠の大陸。
獣人が支配する大陸だ。
朱の大陸の王は、勇者から〈勇王〉と呼ばれた。
翠の大陸の王は、獣を統べる者として〈獣王〉と呼ばれている。
国境近くになると、流石に獣人の数が目立ってくる。
整備された国道には、色々な姿をした獣人が通り過ぎて行く。
全身、獣の姿をした獣人。顔や体の一部が獣の獣人。耳や尻尾を除き、他は人間と大差ない容姿をした獣人。本当、様々だ。でも、どれも魅力的だ。
検問の最後尾に並んだ私は、行き交う獣人たちの姿を、目を輝かせて見ていた。
「キャーーーー!! ウサギ、ウサギ!! あそこには、虎の獣人が!! 熊さんもいる!!」
興奮マックスではしゃぎ回る私に、若干引き気味のジェイ。ミレイは引いているのをおくびにもださず、傍観している。
「また、ムツキの病気が発症したよ」
「ムツキさんは、モフモフが大好きですよね」
「……はぁ~~」
諦め気味のココとサス君。シュリナに至っては、大きな溜め息をついた。
普段は念話だが、今は普通に喋っている。小声だけどね。街中じゃないし、検問所では従魔トリオも審査対象だ。ハンターと獣(竜含む)。その組み合わせで、従魔って周囲は分かっているから、隠す必要がないらしい。現に、不思議そうに見られ距離をおかれてるが、特に何も言われない。言えないだけかもしれないけど。
「耳とか、尻尾とか触らせてくれないかな~~」
自然に漏れた声に、隣でジェイとミレイがギョッとする。二人は勿論知っていた。小さな声で呟いたのに、何人かの獣人たちが振り返る。流石、獣人。振り返った中に、顔を赤らめた獣人がいたことに、私以外の皆は気付いていた。従魔トリオも。
「…………ムツキ。それが、どういう行為か分かって言ってる?」
「前に、揉めかけたこと忘れたんですか?」
「学習能力、皆無だぞ」
従魔トリオの容赦ない突っ込み。
(勿論、覚えてるよ。耳と尻尾を触る行為が求愛だって!!)
「何かあったのか?」
口をつぐんだ私に、ジェイが訊いてきた。
「知らなかったんです! 耳と尻尾を触る行為が求愛だって!」
「知らなくて触ったんだよね。熊の丸い尻尾と耳に。それも、女の子の!」
「だって、男の人に触らせて、なんて言えないじゃん! それに向こうから、触っていいよって言ってくれたからーー」
「両想いだって勘違いされて、ムツキさんはそれに気付かず、結局、それにいち早く気付いたホムロ村のギルマスのお陰で、事なきをえたんでしたよね」
「まさか、同性にそう思われるなんて、思ってもみなかったんだよ!!」
ココとサス君の言葉がグサグサと刺さる。今思い出しても、恥ずかしい行為だ。顔が熱くなる。
この世界の恋愛観が同性OKだなんて、思ってもみなかった。実際、同性婚は珍しくなく、広く認知されているらしい。もし知ってたら、流石の私も「触っていいよ」と言われても触らない。……必死で我慢する。必死でね。
「そう思っていなくても、はしたない行為だと自覚しろ」
(自覚してますよ。ちゃんと)
「自覚してたら、そんな言葉が出るはずなかろう」
シュリナの言葉にムッとする、私。でも、反論出来ない。シュリナたちの言う通りだから。
「ブッハ! クックックッ……悪い……」
ジェイが隣で吹きだす。ミレイも必死で笑いを堪えている。
(ミレイ……ここも傍観しててよ)
「お若いの、愉快そうだね。両手に花かい」
笑っているジェイに声を掛けてきたのは、自家用の馬車に乗っていた商売人風のおじさんだった。
「まぁな」
一言しか返さないジェイ。その声に感情はない。顔には笑みを浮かべているが。
「羨ましいことで。それじゃ、お先に」
男を乗せた馬車は検問所に向かった。
乗合馬車や個人の馬車のような乗り物に乗った人と、私たちのように乗らない者とは、違う検問所から入国する。
馬車とかとの接触による怪我や、入国審査に漏れが起きないため、そして審査を円滑に進めるために分けられてると、ジェイが教えてくれた。
遠ざかって行く馬車を睨み付けてから、私はココを抱き上げ、抱き締める。重い空気が、私とシュリナたちを包み込んだ。
「……ムツキ様、どうかしましたか?」
黙り込んで、眉を寄せ険しい顔をする私に、ミレイが心配そうな顔を見せる。
「……あの男、ココを気持ち悪い目で見てた」
ハ虫類のような、猛禽類のような、言い様のないとても気持ち悪い目だった。にこやかな雰囲気を纏いながら、目だけは違っていた。サス君もシュリナも頷く。
「確かに見ていたな……」
ジェイも私と同意見だった。
お待たせしました("⌒∇⌒")
前話は従魔トリオの会話がなかったので、今回はたくさん喋ってもらいました!!
お楽しみ頂けると嬉しいです("⌒∇⌒")
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




