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〈第十話 愚王子ゼノム=ユリウス〉

 


 トイレには、私とミレイしかいなかった。



 だから、訊こうと思うと訊けた。

 でも、私は訊けなかった。



 ーーもし、ミレイがあの王子の血縁者だったとしても。



 それが何だ。ミレイには関係がないことだ。ミレイに罪は一切ないんだから。例え、私がそう思っていたとしても、ミレイ自身がどう思ってるか分からない。



 ましてや、全く関係なかったら、反対に不快な気持ちにさせるかもしれない。そう思うと訊けなかった。



 何故、タオルを持ってたのか分からないけど。私はミレイから手渡されたタオルで顔を拭いながら、頭の中でミレイのことを考えていた。じっとしたまま黙っている私を、ミレイはまだ気持ち悪いからだと思い、すごく心配そうな顔で私を見詰める。



 そんな表情を私に見せるミレイを、私は悲しませたくない。そして、大切にしたいと心から思った。



「大丈夫。心配掛けてごめんね」



 だから私は、微笑んで答える。 ミレイから元気をもらった私は、皆のところに戻った。









「大丈夫か?」

「無理しなくていいから。少し、横になったらどうだ?」



 戻ってきた私を、ジェイとケイは気遣う。



「大丈夫。で、どこまで話が進んだの?」

 私は尋ねる。



「全然、進んでないよ。ムツキが戻ってくるのを待ってたから」



 ココが私を見上げ、サス君は小さくなり、私の膝の上に飛び乗った。私はその小さな銀色の頭を撫でる。



(癒される~~)



 シュリナは何も言わない。目さえ合わせようとしない。だけど……伝わってくる。波紋のように、シュリナの揺れる気持ちが。



『シュリナ。私は大丈夫。だから、そんなに辛そうにしないで』

『…………』

『私はシュリナのこと大好きだよ。今も、昔も……』

『……分かっておる』



 ボソッと呟く、シュリナ。



(今すぐ、抱き締めたい!! シュリナのそういう所が可愛いんだよね。マジで!!)



 そう思ったと同時に、シュリナがビクッと体を強張らせ、そっぽを向く。照れてるのが、丸分かり。私の口元に笑みが浮かんだ。



『僕もスザク様のこと好きです』

『私もスザク様のことを尊敬しています』



 ココとサス君が畳みかける。



(ココもサス君も本音だけど……ココは、半分面白がってるよね)



 シュリナの体が小刻みに震えている。



(怒鳴りたいけど、ジェイとケイがいるから怒鳴れないんだよね~)



 これ以上は、反対にシュリナが壊れてしまう。和やかな雰囲気はここまで。私は深く息を吸い込むと、吐き出す。気持ちを切り換えて、目の前にいるギルマス二人に対峙する。その一人は、この大陸の王陛下だ。



「……それで、ゼノム=ユリアスが黒紫の契約紋の持ち主なんですね、ジェイさん。ーー嘗て、シュリナの、いえ、この世界を護りし聖獣、五聖獣の一角であられるスザク様の神殿を血で穢し、その眷族を殺戮し、里に火をつけて燃やした、あの愚かな馬鹿王子で間違いないと。ーーそうそう、知ってます? あの馬鹿王子がどうやって、結界を越えたか。騙して、唆したんですよ。か弱い女性をね。おそらく、【ステータス】で勝手に見たんでしょうね。彼女が、スザク様の眷族だと。その女性を甘い言葉で騙し、わざわざ目の前で怪我をして里に案内させる。そして後日、結界が脆くなった場所から、城の兵士とハンターたちと共に奇襲をかける。なかなか、卑劣なやり方だとは思いませんか? ーー愚王子が眷族を殺戮した理由、それは、力なき者が眷族にいるのはおかしいから。愚王子は〈護りて〉になりたかったそうですよ。笑えますよね」



 私が言葉を紡ぐ度に、段々、部屋の温度が下がっていく。



「「…………」」

 ジェイとケイは言葉を発せない。発せれるわけない。



 末端とはいえ、民を護るべき王家の人間が。

 民を護るべき、兵士が。

 ーーその剣を、極悪卑劣な殺戮のために振るった事実を知っていたならば。



「そうそう。……その殺戮者の中に、大柄なハンターがいてね。そのハンターにとって、眷族たちは人でなく、モンスターだったそうですよ。平気で、戦う術を持たない母親や子供を殺してましたから。それも、本当に楽しそうに。でも、私から見ると、彼らの方がモンスターだと思うんですけど、間違ってますか?」



「…………いや、間違っていない」

 ケイの口から白い息が吐き出される。



「ギルマスの一人にそう思って頂けて、本当によかったです」

 私は微笑みながら答えた。



 部屋の床は霜で白くなっている。



 ゴールドクラスのギルマスたちだからこそ、耐えれるが、ブロンズクラスなら昏睡状態に陥っている。シルバークラスでさえ、卒倒しているだろう。それほどの魔力が漏れでていた。



「それでは、話は戻りますが。……その愚王子で間違いないんですね?」

「奴は、もう王子ではない」



 シュリナが訂正する。



「そうだったよね。彼は、伊織さんに【呪い】を掛けられてから、〈永久奴隷〉に堕とされたんだった~。彼に加担した者全員だったよね」



 にこやかな私に対して、ジェイは慌てだす。そして、私とシュリナに割って入った。



「ちょっと待て! そもそも、おかしいじゃないか!? ゼノム=ユリアスが生きていたのは、二百年以上前の話だぞ! それに、〈永久奴隷〉が【呪い】じゃないのか? ムツキの言い方だと別のように聞こえるが。……ゼノム=ユリアスに【呪い】を掛けたのは、シュリ様か長老たちではないのか? イオリって、あの大賢者のイオリ様のことか?」



 矢継ぎ早に繰り出される、ジェイからの質問。



(ん? どういうこと? っていうか、伊織さん、大賢者だったんだ。納得)



 ジェイの様子に半ば呆れている私と、シュリナ。



「……冗談だよね?」

「まさか!? 冗談に決まってるだろ?」



 ずっと黙っていたココとサス君が、思わず声を上げる。しかし、真剣な顔のジェイを見て、冗談じゃないことを私たちは知った。ジェイが知らないとなると、ケイも勿論知らないだろう。仕方ない。



「それじゃ、一から説明するね」





 お待たせしました("⌒∇⌒")


 今回、ムツキが黒くなってしまいました。仕方ないですよね(;・ω・)


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪


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