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〈第八話 黒衣の男〉

 


 ーーホムロ山の【呪い】の件のすぐ後、少年が姿を消した。



 それも小さな村とかではなく、ドーンの森の住人。



 公にされてはいないが、シュリナの、いや、五聖獣の一角であるスザクの保護下にある村でだ。それも、ハンターたちが大勢いる中で。



【呪い】とドーンの森。



 その言葉を聞いた時、私は言い様のない不安が過った。



 神殿でシュリナが見せた映像。



 多くの眷族を殺し、スザクが眠る神殿を血で穢した王子がいた。



 王子は卑劣にも眷族の娘の一人をだぶらかし、わざと怪我をして、眷族が棲む里に入り込んだ。結果、王子は娘共々、里を追放されたが、そのすぐ後、ハンターと城の兵士を伴い、里を襲撃した。王子がわざと怪我をしてまで里に入り込んだ理由。



 ーーそれは、結界の綻びの箇所を調べるためだった。



 彼らが里を襲った理由は、あまりにも身勝手なものだった。



 ーー戦う術を持たない、力なき者が、スザク様の眷族であることがおかしい。



 そんな理不尽な理由で、大勢の住人が無惨にも命を奪われた。



 神殿を血に穢し、大勢の眷族を殺した罪により、彼らは全員、【呪い】を掛けられ、〈永久奴隷〉に落とされた。



 彼らに【呪い】を掛け、〈永久奴隷〉に落としたのは、伊織さん(♀)だった……



 その時の過去の映像を、私とサス君、そしてココはシュリナに見せられた。



 思い過ごしかもしれない。



 しかし、どうしても結び付けてしまう。



 尚更、いなくなったのがリクだとしたら。……彼は、私を恨んでいる。【呪い】を掛けた人物がそれを知って、リクに接触したのなら、犯人は私たちを監視していたことにならないか。



 言い様のない不安が過る。だから私は、ドーンの森に跳んで来たのだ。



「……少年が一人いなくなったって、ケイに聞いたんだけど、それって、もしかして……リクなの?」



 私は単刀直入に、シュリ様とジェイに尋ねた。



「…………はい。ムツキ様のお考え通り、いなくなったのは、リクです」



 言葉を区切るように、シュリ様は答える。その声は、とても険しいものだった。



(やっぱり、リクが……)



 だとしたら、どうしても、確かめないといけないことがある。



「シュリ。あ奴は、己一人の意思で出て行ったのか? それとも、甘い言葉でも囁かれたか?」



 私の代わりに、シュリナがシュリに問う。



 答え次第で、危険度は大きく変わる。そのことは、ここにいる皆分かっていた。



「リクがここを出て行く直前、誰かが接触してきたのは事実です」

「その者の特徴は?」

「それは不明です。ただ……黒のローブを目深に被った男だとしか」



 それだけでは、人物を特定することは不可能だ。大概のハンターはローブを羽織っているし、ローブにはフードが付いているものが多い。夏でもだ。暑いが、肌を守るためには必要な装備だった。流石に、村の中ではローブを着用する者は少ないが、この村に来たばかりだと、着用しててもおかしくない。黒のローブも珍しくなかった。



(唯一、分かっていることは、男だってことだけか……)



「リクはここにいても、態度を改めなかったようだな」

「はい……」



『だろうな』

『そうそう、変わらないよ』

『だね』



 シュリナとシュリの邪魔にならないように、私たちは念話で話す。私たちの会話は、勿論、シュリナにも聞こえているはずだ。



「リードは、リクを追い掛けたと聞いたが」



『いつ聞いたの?』

『さっきの、村人が噂してました』

 サス君が教えてくれた。



 それにしても、シュリナの声はとても冷たい。それもそのはず。リードはシュリナから不興をかったとはいえ、次代の長老候補だった。そのリードが守るべき同族を置いて、弟(リク)を連れ戻すために村を出た。それも、誰にも相談せずにだ。弟が心配なのは分かる。だが、それが許される立場でないことぐらい分かっているはずだ。現に、シュリナの不興をかった原因も、まさにそこにあった。自分の負うべき責任を放棄し、弟を選んだ。



「とことん、愚かだね」



 思わず、ココがポツリと声に出して呟く。



「…………」



 ココの呟きに二句がつけない、シュリ。その時、後ろに控えていた長老の一人が口を開いた。



「申し訳ありません。リードの教育の不備は私たちにあります。シュリ様を責めーー」



 シュリナの一睨みで、長老は口を閉ざす。



「シュリ、このような不手際、二度と起こすな。次は、許さぬぞ」

「「「以後、このようなことが起きないように致します。本当に申し訳ありませんでした」」」



 主(シュリナ)の許しに安堵しながらも、主が発する厳しい口調に、三人は体を強張らせながらも、九十度に頭を下げた。



「……シュリ」

「はい」

「ジェイに知らせたことは褒めてやろう」

「ーー!! ありがたき幸せです」



 シュリナはシュリとの会話をうち切り、ずっと黙って聞いていたジェイに視線を移した。



「ジェイ、続きはホムロ村でだ」

「御意」



 シュリナの一言で、私たちはドーンの森を後にした。




 お待たせしました。


 ドーンの森で起きた悲劇は、第一章の「石碑に刻み込まれた血塗られた過去」に掲載してますので、折り返し読んでみて下さいね("⌒∇⌒")


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪


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