〈第五話 再び、ホムロ村へ〉
上空で、一羽の赤い鳥が甲高い声で鳴いた。
その声に導かれるように顔を上げると、赤い鳥は私に向かって飛んでくる。そして、私の肩にとまった。肩はとまりにくかったのか、赤い鳥は頭に移動する。爪が頭皮に少しくい込んで痛いが、可愛いので許す。
「ムツキに郵便だね。それも、魔法便って……」
「わざわざ、魔法郵便を使用するとは……」
「とにかく、早く、確認しましょう」
ココたちの声に、少しだが、緊張感が混じる。
(魔法郵便? 私に?)
ホムロ村で見た青い鳥、キャリアーバードとは違う便のようだ。
ミレイが手早く、赤い鳥の首に掛けられている袋から、何かを取り出す。
私たちは建物の影に移動した。ミレイは私に何かを渡す。反射的に受け取ったそれは、五百円玉ぐらいの大きさの水晶玉だった。
「これどう使うの?」
「ムツキ。水晶を軽く握って、【再生】って言ってみて」
「分かった」
ココが教えてくれた通りにやってみた。すると、水晶が光りだした。私は慌てて手を開くと、誰もいなかった場所に、等身大のジェイが立っていた。うっすらと透けている。どこか緊張した様子のジェイ。
「ーー!! こっ、これって!」
焦る私の頭上から、甲高い鳴き声が上がる。と同時に、映像が再生された。
【ちゃんと撮れてるか? まぁ、いい。洞窟のダンジョンはどうだ? レンには会えたか? ムツキのことだから、怪我はないと思うが。……ムツキ。悪いが執務室でなく、そのまま、ケイのところに向かってくれ。そこで会おう。会うのを楽しみにしているぞ】
軽く微笑したところで映像は消えた。
「ケイって、ホムロ村のギルマスだよね」
「というと、あの件に進展があったということか……」
「今すぐ、向かいましょう!」
「…………」
興奮する、シュリナたち。ミレイは黙っている。険しい顔をして。
当然だと思う。ギルド本部のギルマスと、ホムロ村のギルマスとの密談。それに、シュリナたちが放った言葉を聞いて、険しい顔をしない人はいないだろう。
「そうだね……」
(商業ギルドに顔だそうかなって思ってたけど……帰ってからでもいいかな)
そんなことを考えていると、また赤い鳥が甲高い声で鳴いた。
「ムツキ、返事」
ココが急かす。
「えっ! 返事出来るの?」
「今度は、水晶に向かって【録画】って言ってみて。すると、録画されるから。録画時間は三十秒ほどだから、考えてから喋るんだよ」
「OK! やってみる!! 【録画】」
ココが教えてくれた通りにやると、水晶が光りだした。私は若干緊張しながら、水晶に向かって話し掛ける。
【ジェイさん、一週間ぶりです。無事、レンに会えました。マジックバック作ってくれるそうです。ホムロ村で会えるのを楽しみにしています。……こういうのって、何か、緊張しますね】
照れながら話す。光りが消え、無事録画を済ませると、ミレイが水晶を袋の中に戻した。
すると、赤い鳥はもう一度鳴くと空に舞い上がる。そして、ジェイのいる場所に向かって飛んで行った。
それは、王宮とは正反対の方角だった。どうやら、ジェイは王宮にはいないようだ。
(ホムロ村? それとも、グリーンメドウかな?)
「取り合えず、このままホムロ村に移動しようか」
ここは、あまりにも人目があり過ぎる。物陰に隠れているとはいえ、いつ人に聞かれるか分からない。ここの会話は、人には聞かれたくない内容だった。だから、ここでは話せない。
転移魔法を発動する前に、私はもう一度、ミレイに確認することにした。
「しつこいようだけど。……ミレイ。もう一度、尋ねるね。私たちの旅は危険だよ。それでも、一緒に来る? このまま、ホムロ村に一緒に行ったら、完全に巻き込まれるよ。それでもいいの?」
ミレイは厳しい顔を崩さないまま、「はい」と答え、頷いた。
◇◆◇◆◇
ノックをしてから室内に入ると、ホムロ村のギルマスが書類から顔を上げ、私たちを見た。
「早かったな、ムツキ。王都には顔をだしたのか?」
ケイが言う王都というのは、たぶん、王都のギルドのことだ。ジェイの所ではないはず。だって、ジェイからの手紙で、私たちはホムロ村に戻ってきたからだ。ケイがその事を知らないとは思えなかった。
顔をしかめる私に、ケイは笑いだす。
「その様子じゃ、会ったようだな。あの戦闘狂に。なかなかの変態だっただろ?」
(変態……)
確かに変態だった。
「それで、ムツキ、後ろにいるのは誰かな?」
一緒に入ってきたミレイに視線を移すと、ケイは尋ねる。
「洞窟のダンジョンから、私たちの仲間になった、ミレイ=ユリアス。すっごい、美人でしょ」
「ミレイ=ユリアスと申します」
「あぁ、あの変態の秘蔵っ子か」
((((秘蔵っ子!?))))
思わず、私はミレイを凝視した。シュリナたちも凝視している。そういえば、初めてギルマスに会った時、彼はミレイの名前を呼んでたね。
「訂正を。私はあの変態との繋がりは一切ありませんから」
低い、低い声でケイに訂正を求める。それが、ケイの言動を肯定していることに、ミレイは気付かない。
(((((まぁ、あれじゃあ、否定したい気持ちはよく分かる)))))
ミレイを除く全員、同じことを思っていた。まだ死にたくないから、口には出さないが。
「……それで、ケイさん、ジェイさんは何処に?」
私は話題を変える。
「彼なら、今ドーンの森だよ」
「ドーンの森に? どうして?」
「シュリ様からの書状が届いてね」
思いもよらない名前が、ケイの口から出てきた。
「シュリ様から!? 何で?」
「シュリからか!? 何があった!?」
私とシュリナが同時に声を上げた。私たちはシュリと呼ばれる女性を知っている。特にシュリナは。シュリ様は、五聖獣の一角、スザクの巫女長を務める御方だ。
「……シュリ様からの書状?」
「ああ。何でも、村から少年が一人消えたらしい」
「「「「少年が消えた?」」」」」
(まさか!! ドーンの森に棲む者たちは……)
そこまで考えて、ハッと、息を飲む私とシュリナたち。
「…………リク」
「あ奴か……」
「可能性は大ですね」
「ほっとけば」
リクなら、自分で出て行った可能性が大だ。それが分かっているから、ココは冷たく突き放す。
「リクって誰だい?」
「う~ん。シュリナの眷族だった子かな……」
言葉を濁す私に、ケイはそれ以上突っ込んで聞いてはこなかった。過去形だったのに、気付いてくれたようだ。
まだ、リクと決まった訳じゃない。何かに巻き込まれたのか、それとも、意図していなくなったのか、それさえも分からない。
でも、何かが起きている。それは確かだ。だから……わざわざ、シュリ様がジェイに知らせてきたんだ。言い様のない不安が、私の胸を覆う。
「ケイさん。ちょっと、ドーンの森に行って来ます!! ミレイはここにいて!」
私は二人にそう言うと、すぐさま、ドーンの森に跳んだ。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
ムツキたちが想像した少年、分かるかな? 一度、登場しています("⌒∇⌒")
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




