〈第三話 漆黒の英雄様に誘われました(二)〉
書いてみました。
「遅いぜ。やっと顔を出したか、漆黒の英雄殿。それで、何階層まで進んだんだ?」
意地の悪い笑みを浮かべ、私を見下ろすギルマスを無視するわけにはいかなかった。完全に逃げ道を塞がれた。仕方ない。
「……二十一階層です」
「何日で?」
「一日休みをいれて、六日で」
私たちを取り囲んでいるハンターたちが、ざわめき出す。
「五階層を一日で攻略したってことか……」
ギルマスは腕組みをして、何かを考え込んでいる。
「ちょっと、貴女!! 嘘をつくのは止めなさい!! 恥ずかしいわよ。貴女みたいなお子様が、漆黒の英雄様であるわけないでしょ。ホムロ村から王都まで、最速でも一週間は掛かるのよ。いつ、洞窟のダンジョンを攻略出来るのよ!!」
無視されたハーレムの女性と自称漆黒の英雄様。ハーレムの一人がそう切り出すと、次々に残りの女性も言い出す。
「そうよ! そんな簡単なことも気付かないなんて、ギルマスもギルマスだわ!!」
「こんな子供が漆黒の英雄様だと思うなんて、ほんと笑えるわ」
「貴女、何ボケッとしてるのよ、さっさと謝罪しなさい!!」
キャンキャンと吠える、ハーレムの女性たち。漆黒の英雄と名乗っていた軟派男は、蒼白になっているのに、女性たちは全く気付かない。
(マジ、めんどくさ……)
心の中で悪態をつく。出来れば、こんな面倒事避けたいんだけど、ギルマスまで馬鹿にされて黙っているわけにはいかない。
「謝罪、誰が? 折角、見逃してあげようって思ってたのに、ギルマスまで馬鹿にして。分かってる? 自分たちがどんな馬鹿なことを仕出かしたのか。まぁ、分かってないでしょうね。……ところで、貴女たち知ってる? 漆黒の英雄と呼ばれる前に、もう一つ、二つ名があったことを」
「知ってるわ。父上が仰っていたから、〈黄金の冒険者〉よ」
(結構、広まってるんだ……)
思わず、溜め息が漏れる。だけど今は、彼女たちの対処が先か……
「そう。知ってるなら早いね。なら、手っ取り早く、提示してもらいましょうか。今この場で。互いのハンターカードをね」
まさか私が、そう言い出すとは思ってもみなかったようだ。女は一瞬、驚愕の表情を浮かべる。だが、すぐに苦虫を潰したような渋い表情に変わった。
「無理しなくてもいいわよ」
女はまだそんなことを言っている。
(どこまで強気。ある意味、感心するわ)
軟派男は冷や汗をかいて、細かく震えてるのに。そんなに密着してるんだから、伝わってると思うんだけど。ちょっと、軟派男が可哀想になる。同情はしないけどね。
「無理なんてとんでもない。ただ、見せるだけですから」
私はにっこりと微笑むと、懐からハンターカードを引っ張り出した。ゴールドのカードを見た途端、女たちは顔を強ばらせる。私は、女たちによく見えるように目の前に翳した。
「勿論、文字は読めるわよね。良いところの令嬢のようだし。何て書いてるかな? 職業の項目を声に出して読んでみて」
笑みを崩さないまま、最後まで私に噛みついてきた女に、読むように促す。みるみるうちに、女は表情をなくしていく。
「さあ」
なかなか読まない女に、私は読むよう、再度促す。
「…………冒険者」
どうにか聞こえるぐらいの、小さな声で答える。さっきまでの勢いは、もうどこにもない。
「よく出来ました。さっき、ホムロ村から王都まで、最速一週間掛かるから、偽者だって言ったよね。そんな貴女に一ついいことを教えといてあげる。世の中には、転移魔法っていう便利な魔法があるってことをね」
静まり返っていた周囲がざわめきだす。
「馬鹿だ、こいつら。本物をハーレムに誘いやがった」
「あのメイドの殺気に気付かない時点で、アウトだよな」
「ほんと、ほんと」
(同感)
「あの女たちも馬鹿だぜ。朱の大陸の守護者の一人である、ギルマスを馬鹿呼ばわりしたぜ。あいつら、この街に住みにくくなるだろうな」
(確かに、そうだよね)
「今や、その一角を担ってるって言ってもいい、漆黒の英雄を敵にまわしたしよ」
(ん?)
「世界に影響を持つゴールドクラスに楯突いた。あいつら終わったわ……」
(ん、ん?)
「だったら、漆黒の英雄の従魔はどこに? まさか、あの犬と猫? 竜は?」
取り囲んでいた人たちから漏れる声が、五人の女と軟派男を更に追い詰める。
「…………嘘ですわ。そうよね……嘘に決まってますわ。そうよ! あの歳でゴールドクラスなんてなれるはずがないわ!! それに、従魔を連れてないじゃない!! あの子犬と猫が伝説の従魔!? 馬鹿にしないで!!」
(何言ってるの? この人)
理解に苦しむ。顔を歪めた私が怯んだと勘違いした女たちは、一斉に攻撃しだす。
「貴女が本物なら、従魔たちを見せなさいよ!!」
「「「そうよ!! さぁ、今すぐに!!」」」
ここまで証拠を見せても、まだ騒ぐ女たちに、私は心底うんざりする。
「そんなに、我の姿を見たいのか?」
「なら、見せてやる!」
「ほんとに、馬鹿だね。ムツキが穏便に治めてあげようとしてたのにさ」
口々にそう言い放つ、シュリナたち。サス君は飛び下り、子犬から戦闘モードの大きさに変化する。ココはそのままだ。肩の重みが消えたと同時に、認識魔法を解くシュリナ。伝説級が姿を現す。
鋭い悲鳴が上がった。腰を抜かす女たちと軟派男。
ハンターたちは驚愕し固まる者もいるが、熱い目でシュリナたちを見詰めている者もいる。伝説級だからね……
お待たせしました。
ただ並んでたのに、ハーレムに誘われたムツキとミレイ。ムツキはミレイがいたからだと思っています(;・ω・) 自己評価の低い子なので。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




