第十二話 武器屋
大通りに出た私たちは、広場の中央にある噴水の前を通り過ぎ、裏通りに入る。
裏通りを更に進むと、水路の近くにでた。人ひとりがやっと通れる幅しかない狭い通路だ。その通路を水路沿いに北上すると、一軒の民家に辿り着く。
ダンさんの防具屋とどこか似ていた。短剣のレリーフが貼り付けられた木製の看板がドアの脇に置かれている。
ドアに手を当てた私に、ココが声を掛けてきた。
「ムツキ。最初に言っとくけど、デンさんの前でダンの話をしたら、絶対に駄目だよ! 分かった? 絶対に駄目だからね!!」
路地に入ってから、ココから何度も、何度も繰り返し念を押された。最後にもう一度念を押す。
「分かってるって」
苦笑する。
何でも、二人とも自分が作ったものが一番だって豪語しているそうだ。なので、仲が悪い。だから、デンさんさんの前でダンさんの話をしたらいけないんだって。前にポロっとダンさんの名前を出したハンターは店を追い出されて、以後、デンさんさんの武器を買う事が出来なくなったらしい。それって、もしかして師匠?
ドアを開けると、ココとサス君が先に店内に入った。
店内の造りは、ダンさんのお店とよく似ていた。
防具が武器に代わっただけのような気がする。ぞんざいに置いてあるようでそうじゃない。それに、手入れが行き届いていた。刃の部分に指紋一つ付いていない。埃も被っていない。そういう所も、ダンさんのお店とよく似ている。
お店の雰囲気も似てるし、名前もよく似ているよね……まさか、兄弟?
「デンさんいる? お客連れてきたよ」
返事がない。ココはもう一度、声のボリュームを上げてデンさんを呼ぶ。「デンさんいないの?」と。
いいのかな。もしダンさんとデンさんさんが兄弟だったら、返って来るのは当然、
「五月蝿いわ!! もっと静かに入って来れなんのか!!」
声デカ!! でも、そうなるよね。
「悪かったね。デンさんの方が大きいだろ!」
ココが文句を言う。予想していたのか、ダンさんの時と比べてサス君とココは平気そうだ。
「ああ? 何か言ったか!?」
更にデカイ声で怒鳴ってきた。
うん。やっぱり、顎髭を胸元まで伸ばしたぼさぼさ頭のドワーフが、サス君とココを挟んで立っていた。デジャブー。
どこからどう見ても、目の前のドワーフは、昨日会った防具屋のダンさんとそっくりだった。いや、そっくりどころじゃない。全く同一人物だったと言ってもおかしくないほど、よく似ていた。
兄弟っていうより、双子?
まじまじと見詰める私に、デンさんさんが顔をしかめながら尋ねてきた。
「嬢ちゃん、どんな武器を探しとる?」
呼び方も一緒だね。双子決定。
ココの目が昨日と同様丸くなり、開いた口のまま硬直している。サス君もココ程ではないが、唖然としている。
どうやらデンさんさんも、接客が苦手なようだ。私は気にならないけど、デンさんさんも相当口が悪い。
「そうですね……」
私は少し考え込む。
力もないし、握力も強くないから、まず剣は無理。といって、小型のナイフだと、魔物の間合いに入り込まなければならない。当然、接近戦が主になるよね。敏捷性が高いからといって、戦いにド素人の自分では、かなり危険度が高い。うん。間違いなく死亡プラグが立つよね。そう考えると、使える武器は限られてくる。
「……出来れば、小型のナイフより、少し刃の長い中型のナイフがいいです。接近戦は出来る限り避けたいんで」
接近戦を避けたいのなら、弓が一番だけど扱えないし。杖では止めを刺せない。いや……止めは刺せるけど、撲殺だよね。それは絶対に嫌! となると、中型のナイフが妥当だよね。
デンさんさんは私の希望を聞くと、私を上から下までじっくり観察した後、「ふむ(魔力持ちか。それもかなりのものだとみた。これなら、扱えるかもしれんな)」と頷く。そして何も言わず、店内の奥へと消えて行った。
数分後、戻ってきたデンさんの手には、二本のシルバーの中型ナイフが握られていた。
柄の長さをいれて、三十センチぐらいかな。左右に一本ずつ握る、いわば二刀流のナイフだ。剣先が少し湾曲している。湾曲している分、余分な力は要らなさそう。
デンさんはナイフを鞘から抜くと、私に一枚の紙を渡した。上から落とすように言う。私はその通りにした。
紙はひらひらと宙を舞い、ナイフの上に落ちた。下に落ちた紙は、倍の枚数に増えていた。触れただけなのに、凄い切れ味!! 匠の仕事だけど、ちょっと怖いな。そう思ってた私に、
「握ってみろ!」
デンさんは私にナイフを握るように促す。
私は恐る恐るナイフを受け取る。握ってみて気付く。見た目よりかなり軽いって。ダンさんの防具もそうだったけど。でも、私には重く感じた。気持ちの分だけ。
柄を握ると、金属のひんやりとした冷たさが掌に伝わる。滑ることなく、手にしっとりと馴染む。ナイフの刃は鏡のように、私の顔を映した。柄の端には赤い魔石と青い魔石が埋め込まれている。それだけでも、かなり高価な品だと、素人の私でも容易に想像出来た。
私でも買えるかな?
今、残金は、確か……金貨六枚と銀貨と銅貨が少し。魔法を買うお金とポーション等の雑費を引いても、使えるのは金貨三枚が限度だよね。魔法の値段が分からないから、ちょっと多めに見積もってた方がいいと思うし。そんな事を考えなから訊いてみる。
「……すみません。これ幾らですか?」
「銀貨二十枚と言いたいところだが、ジュンの紹介だしな、銀貨十五枚でどうだ?」
(銀貨十五枚!!)
「ありがとうございます!!」
即買いだよ! 即買い!! 限度額の半分の値段だよ!!
「おう。じゃ、早速嬢ちゃん、手を出せ!」
手?
言われるまま、手を出す。デンさんは私の手を掴むと、持っていた小型ナイフの剣先を人差し指に押し当てる。
「痛っ!」
ピリッとした鋭い痛みと共に血が出てきた。デンさんはその血を、二刀の柄にそれぞれ嵌め込まれている赤い魔石と青い魔石に垂らした。
魔石に吸い込まれていく私の血。
完全に吸い込まれた途端、ナイフが軽く発光した。直ぐにその光は治まる。
私は痛みを忘れて、ナイフを見詰める。その間に、デンさんは私に回復魔法を掛けてくれた。
「これで契約終了だ。嬢ちゃんしか、このナイフは使えないし、言う事を聞かない」
使えない? 言う事を聞かない? まるで、人に対しての言い方だよね?
不思議に思いながらも、私はこの時、それほど深く受け止めていなかった。魔法が存在する世界だし、こういうものなんだって思っていたからだ。それが間違いだって知ったのは、もう少し後の事。
私はデンさんに銀貨十五枚。そしてチップとして、銀貨を五枚渡した。多いって。だって、ナイフを収納する鞘付きベルトも、おまけで付けてくれたからだ。このナイフに、そこら辺にあるベルトなど似合わないというのが理由だった。ほんと、職人愛だよね。でも、私も同意見。
防具も武器も、ジュンさんのおかげで安く手に入れる事が出来た。戻ったら、お礼言わないと。
後、必要なのは魔法だ。
とりあえず、ハンターの仕事を始める前に、最低限、炎系とコールド系の攻撃魔法と、回復系は覚えておきたい。それから、浄化系の魔法があれば習っときたい。だって、仕事の後汚れた体とかそのままにしときたくないでしょ。後は……魔法についても勉強しときたいし。やることは沢山ある。
残金でポーションも買わなきゃ。お金に余裕があれば……何かあった時のために、最低限の貯蓄は残しておきたいよね。怪我した時のために。現実的過ぎるかな。
お待たせしました。
少し書き直しました("⌒∇⌒")
前話の「覚悟」と引っ付けようと思いましたが、敢えて別にしました。短めです。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございますm(__)m
お楽しみ頂けたでしょうか?
それでは、次回をお楽しみ!!




