〈第五十二話 さて、狩りの時間です〉
ラッキーなことに向かい風だ。
これなら、近くまで気付かれずに近寄れる。
『気付かれずに近寄れるのは、やはり、十メートルが限度だな』
『十メートルかぁ……厳しいかな』
シュリナの指摘はまず外れない。私は少しだけ、眉間に皺を寄せる。
魔法を放つだけなら、十メートル離れていても全然OKだ。だけど、正確に打ち込むのなら、姿を把握する必要がある。混乱させるだけならいいけど。そうじゃない。せめて。
『地形が把握出来ればいいんだけど』
『任せろ』
シュリナが上空に移動する。木々の間から、朱色の影が小さく見えた。
(シュリナって綺麗だよね)
その姿を見上げながら、ふと……もし、シュリナが大きくなれるんだったら、背中に乗ってみたいなと、私は思った。
『……沼地っていうより、オアシスだな。水中に三頭。三頭の内一頭は、かなりでかいぞ。後、オアシスのすぐ側に拓けた場所がある。残り二頭は、そこで日向ぼっこしてるぞ』
クロコって、変温動物?
『拓けた場所は、私たちがいる方?』
『そうだ』
一通り偵察を終えたシュリナが戻ってくる。上空を竜が飛んでいるのに、クロコは気付かない。念のために、シュリナが認識魔法を自分に掛けていたからだ。この時点で気付かれたら終わりだからね。
『ご苦労様』
私は戻ってきたシュリナを抱き締める。シュリナを抱き締めたまま、私は皆に指示をだす。
『ということは、とりあえず、二頭を先に仕留める。その間、残り三頭は、お寝んねしといてもらおっか。サス君、強めで宜しく。倒してもいいからね』と。
シュリナを離すと、サス君の銀色の頭を撫でた。
『はい! 任せて下さい!』
フワフワの尻尾が、勢いよく左右に振られている。
(あ~~あの尻尾に顔を埋めたら、気持ち良さそう)
尻尾を見詰めながら、よだれが出そうになる私。そんな私を見て、シュリナとココ、そしてシュリナが深い溜め息をつく。私はあえて気付かない振りをした。
(別にいいじゃん。趣味みたいなものなんだし)
『……はぁ~。僕は二頭を撹乱させるね』
『頼むね! ココ』
『分かってる』
素っ気ない言い方。
(ツンデレだよね、猫って。猫じゃないけど。でもまぁ、そこが可愛いんだよね! スリスリしたい!)
『…………してるけど。それから……心の声、駄々漏れだから』
『あっ、ごめん』
無意識に抱き上げ、スリスリしてました。心の声は仕方ないです。
『……時間が惜しい。さっさと始めるぞ!!』
シュリナがやや不機嫌な声で、皆に檄を飛ばした。
『『『はい!!』』』
綺麗にハモった。
私たちは慎重に歩みを進める。
まだ気付かれていない。でも、これ以上進むと、間違いなく気付かれるだろう位置で立ち止まる。屈むと、身を隠した。
木々の隙間から、二頭のクロコが日向ぼっこしている姿が見える。
(でっか!!)
遠目からでも、大きさが伺えるほどの巨体だ。でも、クロコにしては小さい方なのかな、あれでも。五、六メートルぐらいだし。
『【ステータス】』
サス君が足音をたてないように左に移動している間に、スキルを発動する。
ーークロコ〈ランクA 物理攻撃耐性プラス三
炎魔法(弱)/水魔法(強)〉
(やっぱり、ココが言ってた通り、物理攻撃の耐性はかなり高い。でも、弱点が分かっているなら戦いやすい)
私はニヤリと笑った。
左に移動していたサス君が、クロコに気付かれずに無事移動出来たようだ。その場所の方が、オアシス全体を見渡せる。
サス君も移動出来たことだし、そろそろ始めましょうか。
『それじゃ、皆、狩りを始めようか!』
『『『了解!!』』』
サス君はオアシスに向かって、特大級の雷を放った。
ーードン!!!!!!
始まりの合図だ。落雷の衝撃が地響きとなって、私の足下を伝う。既に、ココはシュリナに抱えられている。いつでも、上空に逃げられるように。
「それじゃ、ココお願い」
言い終わらないうちに、私は走り出した。走りながら、私は右手に魔力を集中させていた。
今回はやや短め。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




