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〈第四十四話 確かに触りたくない〉

 再開しましたm(__)m

 


 私とサス君は、奥からゆっくりと姿を現した魔狼と対峙する。



『【ステータス】』



 魔狼を見据えたまま唱える。声を出さずに。



 ーー魔狼〈ランクA 物理攻撃の耐性プラス〉



(物理攻撃に耐性があるタイプね……)



『サス君、【風牙】の攻撃で宜しく。着地点で決める!』



 念話で指示を出しながら、五歩ほど後ろに下がって距離をとる。



『分かりました』



 サス君が【風牙】を放つ。威力は抑えてある。避ける魔狼。避けるだろう位置を予想し、その箇所に的確に二打目を放つ。咄嗟に魔狼は高くジャンプし、上に逃げた。いや、魔狼は上から攻撃するつもりで、ジャンプしたのだ。



 単純な攻撃。

 だが、その攻撃は物理攻撃の耐性がある魔狼にとっては、最良な戦い方だ。



 サス君が左に避ける。と同時に、魔狼の視線がサス君に向けられた。首ごとサス君の姿を追っている。着地した瞬間、そのまま、サス君を襲うためにだ。



「魔法攻撃にも耐性があったらよかったのにね」



 独り言のように、私は呟く。



『【ウォーターボール】』



 幾つもの水滴が宙を浮かび、停止している。その水滴一つ一つが、弾丸となって、一斉に魔狼に向かって発射した。弾丸となった水滴は、魔狼を貫き、その体は瞬時に無数の穴が開いた肉塊へと変えた。ドサッと音をたて、肉体は地面に落ちる。地面に落ちた肉塊は青白く光り、魔石へと姿を変えた。



「ムツキ、サスケ。お疲れ様」

「双方とも、怪我はないか?」



 振り返ると、ココとシュリナがすぐ後ろにいた。



「私は大丈夫。サス君は?」

「私が怪我ですか?」



 サス君は問いかけに、冷ややかな声で問い返す。はい。訊いてすみませんでした。



 見た目に相反して、サス君は意外に好戦的なのだ。事実、とても強いし、その分誇りもあった。最高位霊獣の分身だしね。ランクAの魔狼如きに遅れをとるわけないのに、「大丈夫?」と訊く私にプライドが刺激されたのだ。普段はそんなことないんだけどね。



 急いで地面に転がっている七個の魔石を拾うと、私は鞄にしまった。



「それじゃ、おじさん連れて、臨時のセーブポイントに行こうっか!」

 離れたところで身を守っていたミレイに、声を掛けた。



「…………はい」



 少しの間があいた後、ミレイはそう返事すると、まだ気絶している汚れたハンターの襟首を掴む。そして一切、躊躇ためらうことなく引き摺る。



「……ミレイ。せめて、人間として扱おうよ」

「これをですか?」



 ……確かに、触りたくない。










 ミレイの案内通り、通路を抜けた先に、簡易のセーブポイントが設置されていた。



 十メートル程の広さだ。決して広くはないが、体を休めるだけなら十分の広さだった。魔石を用いて人工的に作られた場所のようだ。ホムロ山の源泉の応用版かなぁと思いながら、下げていた荷物を地面に置く。ミレイも背負っていたリュックを下ろした。汚れたハンターは隅の方に転がされている。ほんと、ミレイは容赦ない。



「う~~ん。やっぱり、ミレイのお茶は最高だよね」



 今飲んでいるのはミルクティーだ。濃いめに淹れた紅茶の苦みとミルク。砂糖を多めにいれてあるから、疲れた体には最高だ。体の調子に合わせて、濃度や飲み物を変えてくれる。メイドってすごいと、私は尊敬の眼差しをミレイに送った。



 ミレイは頬を赤らめ、はにかんだように微笑む。



 従魔トリオも美味しそうに飲んでいる。一気に飲み干した従魔トリオは、さっそく、おかわりを催促していた。ほのぼのとした光景だ。



 まったりとしていると、男の呻き声が聞こえてきた。どうやら、男が目を覚ましたようだ。



「…………うっ……痛……ここは?」



 男はゆっくりと呻きながら上体を起こす。額に片手を添えると、座り込んだ。



「ーー!! 魔物!!」

「私の従魔たちだけど、何か?」



 サス君たちの姿を見て、一瞬短い悲鳴を上げるが、従魔だと理解し落ち着きを取り戻す。



「今いるのは、十九階層のセーブポイントだよ」

 私は答える。



「ーー!! あの魔狼の群れを倒したのか!?」



 魔狼がいたことを知ってるってことは、彼のパーティーは十八階層まで到達したのか。



 命からがら辿りついたのか、どうかは分からないが、彼のパーティーはここで壊滅的な止めをくらったようだ。魔狼に狙われて生き残ったことは奇跡に等しいが、果たしてその奇跡は…… 



「倒したけど、七頭」

 余計なことを考えずに、訊かれたことだけを答えた。



「嘘だろ!? あの魔狼を倒すなんて……ありえない…………」



 呆然と呟く男。「ありえない」と、ブツブツと呟き続けている。



(もしかして、壊れたの?)



 精神がーー



 極限の状況に追い込まれたことで、精神に過度な負担が掛かって異常をきたす人がいることは、聞いたことがある。実際は目にしたことはないけど。だとしても、今は関係ない。



「ありえないことなんてないでしょ。二十三階層まで攻略されてるんだから。……ミレイ、彼に飲み物を。飲み終えたら、出発するよ」

「畏まりました」



 ミレイは水がはいった水筒を男に手渡そうとした。



 だが男は、「俺に構うな!!!!」とミレイを怒鳴り付け、乱暴にその手を払いのける。水筒が地面をコロコロと転がった。



(馬鹿なの?)



 ダンジョン内で水や食料が如何に貴重で、大切なものか、ハンターなら分かっているはずだ。ハンターになって間もない私でも分かる。



 それに、セーブポイントにいるこの瞬間は、確かに安全かもしれない。しかし、一歩出たら安全ではないのだ。大きな声を上げて、魔物を呼び寄せるような真似をするなんて、それこそ、ハンターならまずありえない。



「煩い。ムツキ様のご好意を無下にするなど、キサマは生ゴミ以下ですね」



 キレたのは、私ではなくミレイだった。ミレイが男の腹を蹴る。男は地面に這いつくばった。



(怒るとこ、そこ!?)



 突っ込みをいれようと思ったが、ミレイを見て止めた。何故か、触れたらいけないような気がする。そんなことより、今は無様に転がっている男のことの方を優先すべきだ。



「ここが、魔物のテリトリー内だって理解してる? してないよね。大声で怒鳴り付けるぐらいだし。それに、貴重な飲み水を捨てるなんて。あぁ、そっかぁ~。ハンターじゃないから分かんないんだ。だったら、こんな所まで来たらいけないでしょ」



 明らかに年下の子供に馬鹿にされてるのが分かったのか、瞬時に顔を赤らめ私を睨み付ける。真っ黒に汚れているから、赤黒いんだけど。



「あなた、死にたいの?」



 私は這いつくばったままの男を、感情のない目で見下ろしながら尋ねた。



「……仲間を死なせてしまった。俺だけ生き残るなんて……」



 ーーだったら、何故今、貴方はここにいるの?



 魔物から逃げ回っていたのは誰?



「じゃあ、死ねば」



 相手を凍り付かしてしまいそうなほどの冷たい目で、男を見下ろすと、低い声で私は言い放った。





 

 お待たせしました。

 最後まで読んで頂き、本当にありがとうございますm(__)m

 夏のホラー2017に参加したいという、私の我が儘のせいで、更新がストップしてしまい、本当にすみませんでしたm(__)m



 

 

 

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