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第十話 憧れの種族に出会う



 この世界に来て、三日目。


 今日も快晴だ。


 色々お世話になっているジュンさんの食堂(宿屋じゃなかった)を二時間程手伝った後、私とサス君は新しく従魔登録したココに連れられて、町の中心にある大広場に来ていた。



 そこは、グリーンメドウに住む人にとって、憩いの場所になっている。家族連れやカップルとかで一番賑わっている場所だ。因みに、一番活気があるのは市場かな。


 大広場が憩いの場所になってるだけあって、多くの屋台が出店している。日用品やお花を売ってるお店もあるが、やっぱり一番多いのは食べ物関係の屋台だ。あっちこっちから、美味しそうな匂いがする。


 甘いお菓子の匂い。ソースか醤油が焦げたような香ばしい匂い。さっき、おやつを食べて来たのにお腹がなりそう。


 余談だけど、この世界にソースや醤油はなかった。


 元日本人にとって、それはまさに死活問題だ。因みに常世にはあったよ。でも幸いな事に、近い調味料はあったんだよね。異世界生活で最も大切なのは食事だって、二日で痛感したよ。万能調味料があって、本当に助かった~。



 家族連れやカップルも多いけど、英雄が一番最初に訪れた町で、ハンターギルドの本部がある町だからか、明らかにハンターだなって分かる格好をした人も多い。そして、くわを持った農民や町人も行き交う。


 ほんと、様々だ。日本や常世とは全く違う光景を見て、やっぱり異世界なんだなぁって、しみじみ思う。 


 そんな事を考えながら、噴水の前に設置された木のベンチに座って、行き交う人たちを観察していた。屋台で買ったカコアを飲みながら。


 カコアはね、ココアに似た飲み物だよ。子供から大人まで親しまれている、ポピュラーな飲み物だ。子供は砂糖とミルクを淹れて飲むが、大人はお酒を淹れて飲む人が多い。


 ポピュラーな飲み物のせいか、各々のお店で特徴を出すために色々な工夫をしてるんだって。時間があれば飲み比べをしてみたいなぁって、密かに考えている。



「ココ、これから何処に行くの?」


 私の横で欠伸をしているココに視線を移す。


「ハンターに必要な物を買いに行くんだよ」


「魔法?」


「魔法よりも、先に揃えなければならない物があるでしょ」

「そんなに魔法を覚えたいの」


 ですよね~。思わず、反射的に願望が口から出たよ。


「武器?」


「違います」

「ハズレ」


「防具?」


「「正解だよ(です)」」


 ほんと、仲いいよね。息ぴったりだし。一見、子犬と黒猫しか見えないサス君とココ。それもとても可愛いから、さっきからちらほら、通行人がこっちを見てるんだよね。その気持ちすっごく分かるよ。分かるけど、休憩は終わり。


「早く行こう!!」


 少し残っていたカコアを一気に飲み干し、勢いよく立ち上がった。サス君とココを急かす。


 防具かぁ~。いよいよ、ハンターの第一歩を踏み出すんだよね。何か、ワクワクしてきたよ。



 大広場を中心に四方に延びる大通りの中で、一番広い通りを少し進んでから脇道にそれる。そしてまた、一本外れた。人がギリギリ擦れ違う事が出来る程の細い道を、ココは進んで行く。途中三度程角を曲がった。右、左と。


 これって、道案内がないと永久に辿り着けないよね。地図があったとしても絶対無理だなと思いながら、ココとサス君の後ろを付いて行く。


 そんな入り組んだ道の先に、その防具屋はあった。


 少し小さめな木製のドア。ドアのすぐ脇に、盾が貼り付けられた小さな木製の看板がなければ、ここが防具屋だとは誰も気付かないだろう。一軒のごじんまりとした民家にしか見えない。



「ムツキ、ドアを開けて」


 足下からココの声がした。私は「うん」と答えるとドアを開けた。


 今日、定休日なの?


 そう思うぐらい、店内は薄暗かった。


 だが、ココが入った途端、店内がパッと明るくなった。


 至る所に防具が掛けられている。無造作に置かれているようで、そうでもない。手入れされてるし、防具に埃一つ付いていなかった。


 物珍しくて、私は店内をキョロキョロと見回す。


「彼らは手先が器用だからね。防具や武器の製造は得意分野なんだよ。それに、魔法具の製造もずば抜けてるから、お金に余裕があったら揃えた方がいいよ。仕事がうんと楽になるからね」


「へぇ~。じゃ、ジュンさんとこの魔法具も彼らが作ったの?」


「そうだよ。性能が良いからね。まぁその分、高いけどね」


(魔法具かぁ……面白そう)


「魔法具は後ですよ。先に防具を決めないと」


 魔法具に興味を持ち始めた私に、サス君がタイミングよく声を掛ける。



「サス君はここに来た事があるの?」


「一度、()()の時に。良い仕事をしてますね。どの防具を見ても、匠の仕事ですよ」


 感心したように、サス君は呟く。


 匠の仕事か。武器や防具とか全く分かんないけど、ここに置かれている商品一つ一つに、存在感があるように感じた。


「ココ、ありがとう」


「……うん。……イオリ?」


 ココはサス君の台詞に引っ掛かっていた。呟きをサス君は無視する。



 先代が亡くなって師匠が本屋を継いだ時、先代、伊織さんの名前も一緒に引き継いだ事をココは知らなかったようだ。


 サス君はココではなく私を見上げている。


 その視線の強さに、私は居たたまれなくなった。伊織さんから、会った事を黙ってるようにお願いされていたからだ。


(もしかして、バレてる?)


 居たたまれなくて、思わず視線を逸らせた。


 この時点でアウト! 後でしまった~~と思ったけど、後の祭りだ。伊織さん、ごめん。


「……伊織さんが亡くなって、師匠が店を継いだ時に、名前も一緒に引き継いだんだよ。だから、サス君は間違ってない」


「どうして、知ってるんですか?」


 厳しい声だった。


 まぁ、そうなるよね。素直に話すしかないよね。でも、どう切り出していいか迷っていた時だった。



「うっせーぞ、お前ら!!!! 買うつもりがねーなら、さっさと出ていけ!!!!!!」


 反射的に耳を塞いだよ。それ程、でかい声だった。窓震えてない? っていうか、


「サス君!! ココ大丈夫!?」


 心配になってしゃがみ込む。


「「……大丈夫」」


 少しフラフラしてるよね。声も小さいし。本当に大丈夫?


「「……ダン。五月蝿うるさい」」


「ああ!? お前らがピーチクパーチク騒いでるからだろうが!!」


 元々地声が大きいのか、少し声を張り上げたくらいで凄い迫力だ。にしても、ガラ悪くない。


 でも、体の割りにはでかい声が出せるよね。


 …………体の割りには。

 ……ん? 小さくない? 足のサイズ子供だよね……。



「ドワーフだよ。ムツキ」


 サス君とココの後ろに、顎髭あごひげを胸のあたりまで伸ばし髪をぼうぼうと生やした、小太りのおじさんが立っていた。身長は一メートルを少し越えるぐらい。


 これって、ファンタジーの世界で必須のあの種族。


「ドワーフきた~~~~!!!!」


 思わず、叫んでしまったよ。サス君、ココごめんね。でもね、あのドワーフだよ!! ってことは、エルフもいるのかな?


「……嬢ちゃん、大丈夫か?」


 そんな残念なものを見るような目で、皆見なくても。……ここって興奮するところだよね。



「すっ、すみません!! 初めてドワーフを見たので、興奮してしまいました」


「別に頭を下げなくていいそ、嬢ちゃん。何で、ドワーフを見て興奮するのか分からんが、冷やかしじゃねーよな」


「違います!! 冷やかしじゃないです。防具を買いに来ました」


「(ほぉ~~。この嬢ちゃん、かなりの魔力を持ってるな)……どんな防具が欲しいんだ?」


「そうですね。……第一条件は、強度があって軽いもの。デザインはシンプルなものがいいです。後は、ローブも欲しいです」


「守る箇所は?」


「胸が守れればいいです」


「腰当てはいらんのか?」


「戦士じゃないので、腰当ては必要ないです。それに、あまり体力がないので」


「ふむ。胸当てとローブか……(嬢ちゃんなら使えるかもしんねーな)ちょっと待ってろ。良いのがあった」


 そう言うと、ダンさんは店の奥に消えた。そして、五分程して戻って来た。



「だったら、これはどうだ?」


 ダンさんが持ってきてくれたのは、銀色の胸当てと薄緑色のローブだった。


「軽い!?」


 あまりの軽さに、思わず感嘆の声を上げた。ほんとに軽かった。正直、数キロ単位の重さだと考えてたから。ローブと合わせて持ってみても、一キロ弱ぐらいの重さじゃないかな。厚手のコート一着分ぐらいの重さだ。


「そうだろ!! 体力がない嬢ちゃんにもってこいだろ」


 うん。確かに私向きだ。


「試着してみていいですか?」


「構わんぞ」


 ダンさんの許可が出たので、早速鞄を下ろして試着してみる。


 これって、頭から被るんだよね。それで、脇の下のホックを留めるのか。邪魔な肩当てが付いてないので、これならローブを上から羽織っても肩が目立たないだろう。


 受け取った時は大きく感じたけど、実際装着してみると、オーダーメードのようにしっくり体に馴染む。試しに、上からローブを羽織ってみた。鏡で全身を確認したけど、肩当てがないから変な感じがしない。


 それに、手に取るだけで素材の良さに気付いた。とても肌触りがいい。高価な品だと。それによく見たら、ラメのように銀色に光っている。


「強度は?」


 ココが代わりに訊いてくれた。見た目より実質重視。


「通常の移動なら、ローブだけでも十分いけるぞ。何せ、ブラッドスパイダーの糸に、魔石を細かく擂り潰したのを染料に混ぜて作った薬液に、染めた糸を織り込んで作った一着だ。次に胸当てだが、ロンズデーライト、メテオライト、アマダンに魔石を細かく砕いてから銀を混ぜて作ったものだ。炎系の攻撃に強いぞ」


 自分が作った防具の説明に熱が入る。興奮すると、怒ってないのに怒っているように聞こえる。そんな癖だ。でも反面、まさに職人って感じがした。


 そんな性格だからこそ、ダンさんは自分が作った防具に絶対的な自信を持っているのだ。そんな人が、質が落ちるような材料を使いはしない。



「凄い!! 最高だよ!!」

「最高の素材ですよ!!」


 今度はココとサス君が感嘆の声を上げた。


 へぇ~~そうなんだ。

 ココとサス君の興奮した様子を見て、とても高価で貴重な材料が使われているんだと分かる。


 ましてや、炎系の攻撃に耐性まで付与している逸品だ。


「ムツキ。ブラッドスパイダーは小型の蜘蛛の魔物で、ランクはC級だけどね、その口から吐き出される糸は、とても細くて頑丈なんだ。その頑丈さは五大陸でも三本の指に入るぐらいだよ。だから、昔乱獲されてね、今は確認されてる個体数は一桁って言われてる程の希少種だよ。分かる!? ムツキ。その糸を使ってるんだよ!! ダンじゃなかったら、信じてなかったよ」


「睦月さん! ロンズデーライトは、この世界で二番目に硬い金属で、メテオライトとアマダンもそれぞれ硬い鉱石なんですが、メテオライトは炎の耐性があります。どれも希少価値のあるものなんですよ!!」


 ココとサス君が興奮しながら、分かり易く教えてくれた。


 テンションが高いサス君とココとは逆に、私は段々静かになる。だって、そうでしょ。そんなに高価で貴重な材料を使ってるなら、当然、代金もそれに応じた金額になる筈だ。


 ギルドで支給されたお金で買えるかな? 結構な額だったけど、それでもこれだけの逸品なら不安になる。



 私の今の所持金は、銀貨が九十六枚、銅貨が五枚、青銅貨が三枚だ。因みに、この世界には紙幣の文化はない(※手引き書)。


 硬貨の種類は全部で五種類。


 白金貨、金貨、銀貨、銅貨、青銅貨だ。


 主に市場で使用されているのが、銀貨以下のコイン。


 余談だが、白金貨は庶民の間で見ることはまずない。金貨は商売柄持っている人もいるだろう。


 そこで、お金の単位なんだけど……こうすれば、分かり易いかな。




 青銅貨(日本円で十円ぐらい)×十枚=銅貨(日本円で百円くらい)

 銅貨×十枚=銀貨(日本円で千円ぐらい)

 銀貨×十枚=金貨(日本円で一万円くらい)

 金貨×十枚=白金貨(日本円で十万くらい)




 この世界の物価は、金貨一枚で、一か月宿屋に泊まって三食付きで暮らせる。


 つまり、ギルドから九か月間は楽に暮らせる金額を支給された事になる。マジ、驚いたよ~~。それだけのお金を支給されながら不安になるって……。


「……そんなに良い品なら、高いんじゃない?」


 実際試着してみて、私の中でこれだって決めていた。


 武器や魔法、後はポーション等の雑費の分も残しておかないと。だとしたら、防具で使えるのは……金貨三枚が限度だよね。もしお金が足りなければ、取り合えずローブだけ今回買って、後はお金が貯まったら、胸当てを買ったらいいかな。


「金貨三枚で構わん」


「えっ!? ほんとに?」


 思わず、反射的に出てしまった。ダンさんに睨まれちゃった。


「何か文句あるのか」


「いえいえ! 文句なんかありません!! でも、本当にこの値段でいいんですか? ほんとはもっと高いんじゃ……」


「新米から巻き上げようとは思わん。それに、ジュンの紹介だしな、便宜しとかないと後で五月蝿い」


(ジュンさんありがとう~~!! ちゃんとしたハンターになるからね!!)


「勿論、買うよな?」


 ニヤリとダンさんが笑う。


 ダンさん男前です。ドワーフだけど。


「買います!! この胸当てとローブ下さい!!」


 即決だ。ダンさんは頷くと手早く包装した。


 私は鞄に手を入れると、声を出さずに固定スキルを発動させた。


 ーー【銀行】。


 目の前に文字と数字が浮かび上がる。因みに、この画面は隠匿の魔法が自動的に掛かってるみたいで、私しか見えない。形式は通帳みたいなもんかな。


 文字と数字が浮かび上がると同時に、無機質な機械の声に似た女性の声が頭に響いた。


【受諾。固定スキル、銀行開示。どれを選びますか?】


 ーー引き出し。


【幾ら下ろしますか?】


 ーー金貨三枚と銀貨三枚。


【畏まりました】


 ギルドで貰った革袋の中を確認すると、確かに下ろした分入っていた。


 ほんと、便利なスキルだ。お金を持ち歩くのは危険だからね。


 代金、金貨三枚と銀貨三枚をダンさんに渡す。銀貨三枚はチップだ。


「確かに」


 ダンさんから防具を受け取ると、私はサス君とココと一緒に気分上々のまま帰路に着いた。



 ホクホク顔でうみねこ亭に戻った私たちは、丁度休憩中だったジュンさんに、買ってきたばかりの防具を早速着て見せた。


 ジュンさんは自分事のように嬉しそうに笑っている。


「良い店を紹介して頂いて、本当にありがとうございます!!」


 それだけじゃない。ジュンさんのおかげで、かなりまけて貰った。ここはきちんと頭を下げてお礼を言わないと。


「気に入ってもらって嬉しいよ。ダンは癖はあるが、腕は超一流だからね」


 少し苦笑いするジュンさん。


 癖って、ちょっと声が大きいだけだよね。他にあったかな?


「ジュンさん。これ、ダンさんに選んでもらったんですよ!!」


「あの、ダンが!?」


 私の台詞が意外すぎたジュンさんは、驚きの声を上げた。


「そう!! 僕も目を丸くしたよ!」


 ココが興奮しながら、ジュンさんに報告する。


「……雨でも降るかな」


 ジュンさんがそう言えば、ココが「ひょうが降るかも」と答えた。


 ダンさんが接客をするのは、それ程珍しい事だったみたいだ。




 何か忘れてるって?

 勿論覚えてるよ。伊織さん(先代)の事だよね。


 晩ご飯を食べた後、サス君から容赦ない尋問を受けました。


 でも、私が言える事は限られてる。っていうか、私自身本当のところよく分からない。


 だって、私が伊織さんと会ったのは夢の中か意識がなかった時だけだ。だけどそれが、想像の世界だとは言えない程のリアルさがあった。


 それに……それが、想像じゃない証拠もあった。


 最後に会った時、伊織さんから()を貰った。


 夢の中で貰った鍵が現実の世界に存在する。それって、何よりの証拠でしょ。その鍵は今は常世にある。


 私が体験した不思議な話を、サス君とココは何も言わず黙って聞いていた。

 


 

 


 書き直しました。


 固定スキルの使用場面などを追加してます。


 お楽しみ頂けると嬉しいです("⌒∇⌒")


 最後まで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m

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