残酷な昔話
――昔々のお話。
ある山に、赤鬼の一族が住んでいた。一族は総勢およそ50名ほどいて、その中で最も強いと畏れられていた者を長として、ヒトでいうところの村のような形態をつくって生きていた。
長の名前は六道という。六道には妻と娘がいた。
娘の名は真瀬。この一族の次期の長となることを約束された、姫と呼ばれる特別な存在であった。
真瀬には、親や一族から決められた許嫁がいた。許嫁の名は薄氷。もちろん薄氷もこの一族の一員である。
真瀬は一族のみんなが嫌いだった。勝手に決められた結婚。そして親からの躾と称した過度な束縛。真瀬をよく思っていない者からは陰口も叩かれた。
ある晩、一族と一緒にいるのが嫌で、真瀬は独りで森を歩いていた。すると、森のはずれの方で賑やかな声と明かりを見つける。
明かりの元へ行くと、そこにいたのは酒呑童子率いる妖怪の集団だった。
『こんな夜更けに姫サマが何の用だ?この場所には旅の途中で今しがた来たところだ。挨拶なら明日おやっさんにするから、宴会ぐらい許しちゃくれねえか?』
酒呑童子――宝稀が真瀬に対して発した最初の言葉だった。
『お頭、誰です?この女ァ』
率いていた妖怪の1人が宝稀に問う。
『赤鬼の一族の姫サマだよ。むかーし遠目から見かけたことがあったが、成長して良い女になったな』
それが真瀬と酒呑童子の邂逅であった。
そこからほぼ毎日、真瀬は宝稀たちの野営地に足を向けた。
真瀬は宝稀を慕い、宝稀も満更でもない様子で、宝稀の手下であった妖怪たちも微笑ましくそれを受け入れていたという。
しかし、その状況を好ましく思わない者たちもいた。赤鬼の一族である。
六道はある日、真瀬を呼び出して、宝稀の野営地へ通うのを禁じた。もし約束を守らなかったら、宝稀たちの集団を全滅させるという脅しをいれて。
真瀬はそこから薄氷に監禁されることになる。もちろん六道や他の一族の者も合意の上で。
2日ほど監禁されたところで、真瀬のストレスは爆発する。
食べ物も満足に与えて貰えず、脳も正常な判断が出来なかったのだろう。
引き金を引いたのは、薄氷の言葉だった。
『酒呑童子とやらの野営地を荒らしに行ってきた。幾人かの手下に見つかったから、そいつら殺してきたけど、お前には関係ないしいいよな?』
その言葉に、真瀬は壊れた。
『私は何をされても構わない。でも、宝稀と手下のみんなは――私を温かく受け入れてくれたあの人たちは、何の罪もないのに!!』
そこから真瀬の狂気に満ちた同族殺しは始まった。
そして、気がつくと真瀬は、一族全員の返り血にまみれて立っていた。
呆然と、何の感情も浮かべず立ち尽くしていた真瀬を宝稀が見つけたのは、真瀬が一族を殺し尽くしてから半日ほど経った頃だった。
死んだような目の色の真瀬を見て、宝稀は酷く心配したらしい。
『父様の、呪いを受けたの』
真瀬は宝稀に、六道を殺したときのことを少しずつ話した。
真瀬が六道から受けた呪いとは、次のようなものだった。
何代かに一度、真瀬自身が記憶をもって生まれてくるのだという。生まれてきたその子には記憶が受け継がれている限り、災いがついてまわるのだという。
宝稀は真瀬をその災いから守るため、真瀬に自らをその地に封印し神として生きることを決める。
宝稀の決断に最初は反対した真瀬だったが、
『生まれ変わっても、俺と一緒にいて欲しいから。これは俺の自己満足だ』
と宝稀に説得され、神主として生きることを決める。
宝稀と真瀬のお話はこういう内容だった。
しかし、宝稀の話には続きがあった。