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鬼のやしろ  作者: 浅岡真夏
第一章
16/23

熱に浮かされて

その後、自力で神社まで戻ったものの、自宅の玄関まで来たところで僕は意識を飛ばした。過度の疲労に加えて、雨に濡れたおかげで風邪を引いたらしい。高熱が出ていたようだ。



倒れた僕は宝稀に抱えられて寝室まで運ばれたらしい。

そんな意識のない中で、僕は夢を見ていた。













――その夢の中で、僕は森の中にいた。

暗い木々に囲まれて、立ち尽くしていた。ふとそこで気付いたのは、自分の髪が赤いこと。腰まで伸びたその髪は、燻った赤色をしていた。

まるで血の色だ、と思った。鮮やかではないからこそ、毒々しくそして生々しい色。



森には僕1人だった。

誰の気配もなく、淡々とした空気。

この森を僕は知っている気がする。左の方角へこのまま進めば、少しひらけた場所に出るはずだ。そこにきっと、宝稀がいる。

妙な既視感にとらわれながら、僕はその知識に従った。



獣道を道なりに歩いていくと、少し先の方に明かりがぼんやりと見えた。幾人かの人影と声も聞こえる。



「そこに誰かいるのか」

ふと、背後から男の声がした。先程まで誰の気配も感じなかったその場所に、いつの間にか宝稀は立っていた。



いや、僕が実際に知っている宝稀ではない。

僕が知っている宝稀は、肩くらいまでしか髪を伸ばしていなかったはずだ。



そこに立っていたのは、宝稀の顔をして、僕と同じように腰まで髪を伸ばした『酒呑童子』だった。

妖怪の頃の宝稀。僕が知りうるはずはないのに、何故かすぐにそうとわかった。



「なんだ、真瀬か」

嬉しそうにはにかむ宝稀に、僕はどう見えているのだろうか。



――真瀬。

宝稀は僕をそう呼んだ。

ちがう、ちがうよ宝稀。僕は――





「ぼくは、汐だ」

と。自分の掠れた寝言で目が覚めた。



「ん、知ってる」

僕が寝ている布団のすぐ近くから、宝稀の声がした。

被っていた布団から顔を出して声のする方向を見ると、宝稀は壁にもたれて座っていた。



「気分はどうだ?まだ熱下がらないから、何か食えるようなら食って薬飲んどけ」

僕の汗ばんだ額に宝稀のひんやりした手が乗っかる。気持ちいいけど、触られると少し緊張する。多分、昨日一緒の布団で寝ていた夢を見たからだと思う。



「宝稀、ごめん。迷惑かけたよね」

ボーッとする頭と気怠い身体に鞭打つように無理矢理起き上がる。

「汐、命令。横になってなさい」

宝稀は僕のオカーサンか。

でもなんだか『命令』なんて表現を使う宝稀が可愛く思えてしまって、大人しく横になることにした。



「粥とかなら食えるか?今あっためてくるから待ってろ」

キッチンへ足を向けようとした宝稀を、僕はまわらない頭と口調であわてて引き止めた。



「ほまれ!もうすこし、そばにいて」

舌っ足らずな子どもみたいな口調になってしまって、恥ずかしくなる。

「……汐、そんな顔でそんなこと言うな。なんかいろいろたまんなくなるから」



どういう意味だろう。宝稀は赤面しながらも元の位置に座り直してくれた。





ゴホン、とひとつわざとらしく咳払いをして、宝稀は

「腹減ったら話の途中でぶった切ってでもいいから言えよ?それまで少しだけ、お前に隠していた『昔話』でも聞かせてやるから」

と言い、ある話を聞かせてくれた。


昔々の、妖怪たちのお話である。

宝稀は懐かしそうに目を細めながら、穏やかな声で話し始めた。

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