不安と動揺
何がどうなっているのか。話がよく見えないまま僕は、その場に座り込んでしまった。
相変わらず雨はシトシトと降り続いていて、僕の身体から体温を奪っていく。
「そんなとこ座ってると風邪引くぞ、汐」
宝稀が手を差し出してくるのが視界に入る。
「汐?」
何も反応を示さない僕に、宝稀はかがみ込んで顔を覗いてきた。
「な、ちょ、お前!どうした!?どっか痛いのか!?」
宝稀が慌て出すのも無理はない。僕の顔は涙と鼻水にまみれて、史上最強のブサイクに仕上がっているのだから。
「……ふぇ……宝稀ぇ」
幸い化粧をしていなかったので、マスカラだのが崩れてパンダ顔になるという惨事は避けられた。
「……何で僕だけ何も知らないのぉ」
あいつらも宝稀も飯綱も知っていて、そして僕だけが知らないことがたくさんあるようで。それが何だかとても寂しくて無力で。
何も関係ない中学生とか近所の人たちも被害に巻き込んで、それでいて渦中の僕が何も知らないってそんな話ないじゃないか。責任は僕にあるのに。
僕は一体何者で、何で敵なんか作っちゃってて、何の恨みを買ってて、そして宝稀は僕のことをどう思って一緒にいるのか。
僕は、どうしたらいいのか。何をしたら正解なのか。
考えたら考えるほど、頭の中はグチャグチャになって、涙が止まらなくなった。
「おいで、汐」
宝稀が、腕を広げて目の前にいる。僕の視界は雨と涙で歪んで、宝稀がどんな表情なのかわからない。
僕は大人しく宝稀の胸に飛びついた。人間じゃないのに、宝稀の身体はほんのりと温かくて。
いつもは憎まれ口を叩くだけの僕たちの関係が、少しずつ崩れ始めた気がした。
「帰ろう、社に。帰ったらあったかい風呂に入って、飯食ってさ。落ち着いたら、俺が知ってること話すから」
宝稀の腕の中で僕は声もなく頷いた。