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鬼のやしろ  作者: 浅岡真夏
第一章
14/23

鬼の敵

「なんで、宝稀がいるの?」



宝稀はチリンと手元にある鈴を鳴らしてみせた。

「俺がやった鈴、切れただろう?今」



あぁ、前髪だけじゃなかったのか、今切れたの。ていうか、どういうシステム?



「この鈴にはな、3つの意味合いがある。1つは、俺が外に出られないから、外にいる汐に要件があるのを伝える役割。汐が買い物行ってるとき、たまに帰り遅いと鳴らすだろう?」



昨日、飯綱と律花が擦れ違ったときにも鳴らしていた。僕にはこの機能が主な役割なのだと思っていたけど。

「そして2つめ。低級霊避けだ。汐は霊や妖怪が見えやすいよな?でも本人が自覚する以上に、寄せ付けやすいし狙われやすい。今みたいにな」



宝稀がチラリと煙々羅、そしていつの間にかその隣に同じようにして跪いてたモケを見遣った。



「汐が自ら遭いにいかない限りは、そういう輩を回避させる効果を発揮出来る。そういうシロモノだったんだが」



あ、これは今僕宝稀に怒られてるのか?お前自分からノコノコ敵の陣中に赴いちゃってんじゃねーよコラ、とそういうことなのか?



「汐。何で俺や飯綱に黙って此処に来た?」

半ば呆れた表情で宝稀は言う。

「こいつらの狙いが汐だっていう話をしたからか?」

そう。最初は宝稀をおびき出したいのだと思っていた。でも宝稀や飯綱が言うには、狙いは僕なんだそうだ。

自分の責任だと思った。

何ら心当たりはないし、狙われるような人生を送ってきたつもりもない。

だけど僕が狙いなら、僕だけでいいだろうと思うんだ。律花というあの女の子や他の被害にあった人たちには関係のない話なんだから、僕が直接話に応じれば済むと。



「ばか。今のお前が来て解決出来るような話じゃねえんだよ。お前は人間で、相手は人外だ」



心配、してくれたのだろうか。少し胸のあたりがチクッと痛んだ。



「そんな予想外の行動を取ることもあるかもしれないと思って最終手段の3つめだ。この鈴が切れた、大きな衝撃で傷がついたなんていうときに発動するとっておきな」



最終手段。

「この鈴に衝撃が与えられるとか、切れるなんてときは大概汐にも同じように危機が迫っているわけだ。で、切れたり潰れたりするとな、神社から外に出られない俺の封印が一時的に解除されるんだよ」



封印が、解除?それってなかなか大変な状況なんじゃないのか?

神が社を留守にするのは好ましくない。



「社は代わりに飯綱が守ってくれてる。俺はあくまで主優先なんだ」

「それで今宝稀がここにいるのだ、と?」

そういうことなのか。僕が勝手に危険な行動とったから、主の危機に対して宝稀が召喚されたと。

「……なんかごめん」



雨に濡れて髪から水滴が滴り落ちる。襟足が濡れて気持ち悪いなあ、なんて。

宝稀に濡れた頭をポンポンと軽く撫でられて、少し涙が出そうになる。







「で、だ。煙々羅、そしてたたりもっけ。俺の封印を解きたいだのなんだの言ってたよな?誰の命令だ?」



僕の肩に手を置きながら、宝稀は鋭く煙たちを一瞥した。



「恐れながら申し上げます。宝稀様、清姫様がお待ちでございますれば、真瀬姫を殺して封印を解き、共に宮までおいで下さい」



ここで新しいワード登場!清姫様って誰やねん。



「断る」

と宝稀の反応は凍てついていた。



「俺が好いているのは真瀬だ。封印を解くつもりも白鬼神社を出るつもりも毛頭ない。それからな、」



んん?好いているのは?聞き間違いだろうか。てか真瀬って僕のことだよね?



「こいつとの話の流れで多少察しただろうが、こいつは真瀬のときの記憶がないんだ。余計なこと吹き込んだら殺す」



宝稀も、僕が真瀬姫の――赤鬼の姫ってやつの生まれ変わりであるということを、知っていたのか。

知っていて隠していたのか。僕に対する不可解な言動の正体は、これだったのか。



「殺すと申されるか、宝稀様。清姫様を敵にまわしたこと、のちに後悔されますぞ?」



「知るかそんなもん。神隠しにあったガキどもを人質としてとるつもりなら無駄だから先に言っとくぞ。巡り神ならここに来る直前にぶん殴って木から吊るしてきたところだ。ガキどもは今頃無事に帰宅してる頃だろうよ」



向かうところ敵無し、というこの言葉がここまで似合うやつは僕のまわりで彼くらいだろう。



「帰って清姫に伝えろよ。『鬼は鬼同士仲良くやってるからお構いなく』ってな。それとも今大人しくここでボコボコにされとくか?今なら漏れなく10分の8殺しくらいで許しといてやるけど」



煙々羅はグッと苦虫を噛み潰すような表情を浮かべた。

「真瀬姫の側に、あくまでつくと、そうおっしゃるのですね?いいでしょう、重畳です。それで後悔されないのでしたら、わたくし清姫様のところにこのお話持ち帰らせて頂きます」



煙々羅はそう言うと煙をまとってそのまま姿を消した。





「それから、たたりもっけ」

言い忘れた、というように宝稀はモケを呼び止めた。



「……なに」

子ども特有のぶっきらぼうな反応に宝稀は少しだけ笑って言う。



「大事なことを教えておこうか。お前を殺したのは、お前が祟るべき相手なのは、清姫だぞ。信じなくていいけどな」





「――っ!?」

モケはその言葉に激しく動揺した様子で、僕らの前から姿を消した。

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