ハロワ神殿
「……もう少しのはずだ」
すでに到着予定時刻をとっくに過ぎている。
いい加減、街と思しきものが見えてもいいころだろう。
俺たちにとって、今日の日が出ている内がラストチャンスだった。
なぜなら、松明は燃え尽き、最後の棒はトラップを探すために取っておかなければならないからだ。
「……ヒロキ、このまま夜になったらおしまいだ。 ついてこれるか?」
体力は限界。
水分も補給してない。
下手したら熱中症で死ぬかもしれない。
それでも、俺は黙って頷いた。
俺とおっさんは走り始めた。
「はあっ、はあっ」
速攻で息が上がり、足がもつれそうになる。
耳鳴りで音が遠くに聞こえる。
そんな中、おっさんが何か叫んでいた。
「見えたぞっ! 街の城壁だっ!」
顔を上げると、街の城壁が視界に入った。
こうして、夜になったと同時に城壁の前に到着した。
憲兵がこちらに気付き、声をかけてきた。
「始まりの街から来た者か?」
だが俺もおっさんも息が上がってすぐに返事できない。
辛うじておっさんが頷いて答えた。
「……相当疲れているようだな。 まあいい、中に入れ」
中に入ったと同時に倒れ込んだ。
「はあっ、はあっ、もうダメだ…… 宿屋に行こうぜ」
「そうしたい所だが…… 金がない」
おっさんの所持金は0。
だが、俺は道具類を買っていなかったため、わずかな手持ちが残っていた。
「1500円あるぜ。 ここの宿代次第で泊まれるんじゃねえか?」
「……ナイスだ」
宿屋は一泊500円。
朝食付きで、始まりの街と同じだった。
俺とおっさんの宿代を払い、部屋に入ると即座に眠りに着いた。
起きたのは昼間の8時。
10時間以上寝ていたことになる。
朝食を取りに一階に向かうと、おっさんとばったり会った。
飯を食べながら、今日の予定を決める。
「ハロワ神殿に行って説明を聞きに行こう。 あと、すぐに金が必要になる。 働き口も調べないとな」
金はもうない。
朝食を平らげると、すぐに出発した。
街の中央にそびえ立つ塔。
これがハロワ神殿だ。
始まりの街とは打って変わって、この街は活気にあふれている。
鎧を着た兵士や、駆け出しの冒険者、魔法使い、などなど。
色々な職種の人間がここに集まっていた。
神殿の中に入って、正面がインフォメーションセンターとなっており、ここで説明を受けることができる。
「ここで転職できるって聞いたんだけど」
すると、受付嬢が説明を始めた。
「初めての方ですね? 転職をするには、まず冒険者協会に加盟していただく必要がございます」
冒険者協会。
それは、この世界の冒険者をサポートする機関であり、国が運営している。
これに加入すれば、タダで宿屋が利用でき、武器も供給されるらしい。
協会の目的は、未開の地を切り開くことと、魔物の討伐。
魔物を討伐すれば国から資金がもらえるが、それをカウントするための人間が旅に同行する。
この付き人は転送魔法を使えるため、危険な状況に陥ったら逃げ帰って来ることもできるらしい。
しかしメリットばかりでない。
協会の補助を受ける代わりに、魔族が街に攻めてきた場合、強制的に兵士として戦わなければならない。
「手続きはここでできんのか?」
「はい、書類にサインしていただければ」
「じゃあ……」
加入します、と言いかけて、おっさんに止められた。
「ちょっと待て」
「なんだよ! 加入すれば今日もベッドで寝れんだぞ!」
「……最後の条件が気になった」
おっさんは今年で43になる。
この年で満足に戦える自信はないと言った。
「加入するのは少し待ってほしい。 もしお前が絶対に入りたいと言うのなら、私は止めないが」
「じゃあ、どうする気だよ?」
「仕事を探してみる。 日雇いでも何でもいい」
どうやら協会に加入しない方向で、自分なりに生活していく気らしい。
「分かったよ。 見るだけ見てみようぜ」
ハロワ神殿には、仕事を斡旋する所もある。
掲示板が設置され、そこに仕事が張り出されている。
「……年齢で結構はじかれるなぁ」
俺は25だから、それに引っかかることはなかったが、おっさんの方が結構キツい。
35まで、とか、40までってのがほとんどだ。
「年齢を問わない場合はスキル必須というのが多いな。 この仕事の場合は、力アップ必須、だそうだ」
「何なんだ? スキルって」
「……分からん」
もう一度インフォメーションで尋ねる。
「スキルについて知りたいんだけど」
「スキルとは、特殊な装備やアクセサリー、職に就いた際付加されるものです。 種類によって、能力が上昇したり、熟練する必要なく技能が身に着きます。 スキルは一人につき一つしか付加しません」
横で聞いていたおっさんが何かひらめいたらしい。
「ヒロキ、スキルを習得するぞ」