仲間
「ジェイムズッ!」
ジェイムズは憎しみのこもった目でこちらを睨んでくる。
今にもボタンを押しそうな雰囲気だ。
「大切な人を奪われてしまった! もう、こうするしかないんですっ!」
「ふざけんなっ、お前らこそ、俺の大事な仲間をみんな殺しやがって! でもな、だからやり直そうなんてできねえんだよ! リセットボタンなんて都合のいいもんは世の中にはねえんだ」
もし嫌なことがあるたびにリセットボタンなんて押されたら、周りはたまったもんじゃない。
俺も戦略系のシュミレーションゲームで、仲間が死んだからリセット、なんてよくやったが、その中の人間にしてみたらひどく迷惑な話だ。
だが、今の俺の言葉は本心か?
手元にリセットボタンがあるこの状況で、俺だったらどうしていた?
……押さない、とは言い切れない。
この世界で俺が得たもの、それは仲間だ。
それを失って、一体何が残る?
勇者としてこの世界に呼ばれたのなら、世界を救うことはできたかもしれない。
でも、だからどうした。
俺はこれだけの犠牲を払って、一体何を得たんだ?
「リセットボタンなんてない? ここにあるじゃないですか!」
ジェイムズがいよいよそのボタンを押そうとしている。
「……だったら、お前に任せる」
「……!?」
俺の意外な言葉に、ジェイムズは驚きと困惑の入り混じったような表情になった。
「突然、どうしたんですか……」
「俺が殺人の疑いをかけられて、元の世界に戻れるってなった時、俺は帰ろうと思った。 別に、この世界にそこまで執着しようとは思ってなかった。 心残りと言えば、ここに残した仲間の存在だ。 それが無くなっちまった今、この世界は俺にとってはどうでもいい世界なんだよ」
さあ、押せよ、と言ったが中々ボタンを押そうとしない。
すると、ジェイムズの目から大粒の涙がこぼれ始めた。
「私には…… この世界しかなった。 私のようなしゃべるネズミなんて、生まれ変わっても気味悪がられるだけだ。 リセットした後の世界で、もう一度ご主人に会えるとは限らない……」
こいつにとっては、逆にこの世界しかなかったってことか。
察するに、今まで人間に散々いじめられて生きて来たんだろう。
唯一拾ってくれたのが魔族の男だったってわけだ。
「……悪かった」
気づいたら、俺は謝っていた。
やつの主人を奪ってしまったということに対して、罪悪感が沸いてきたからだ。
「……私の方こそ、すみませんでした」
ジェイムズも頭を下げてきた。
俺の仲間を奪ってしまったということに対してだろう。
「……俺と一緒に来こいよ。 俺がお前の友達になってやるからよ」
「……うううっ」
ジェイムズはその場に泣き崩れた。
もうボタンを押す意味はなくなった。
荒野では、イフリートが石になっていた。
手には槍を持っていて、それが闘牛のような生物に突き刺さっており、そのまま息絶えていた。
一体何が起こったのか、全く想像できなかったが、荒野を守っていた冒険者の姿がなく、最後まで事情を知ることはできなかった。
こうして、戦いは終結した。
あの後、市民に頼んでみんなの亡骸を埋葬してもらうことになった。
俺に、あの遺体を拾い集めて埋葬することはとてもできそうにない。
中央の街の外れにある墓地にやって来た。
墓参りなんてガラじゃなかったが、素直にしておきたいという気持ちになった。
「ゲンジにゃ、世話になったな。 俺も世話してやったけど」
ゲンジの墓の前に、干し肉を置く。
「ドーモ君と一緒に旅ができて良かったぜ」
ドーモ君の墓の前にドッグブリーダーのブレスレットを置く。
「ったく、買った土地どうすんだよ。 死んじまうんならキャバクラにでも行って散財しとくんだったな」
おっさんの墓の前に、防御力アップの指輪を置く。
この後、俺は始まりの街に行く予定だ。
その前に、見送りをさせるために、スラムの少年を呼びに行った。
少年を伴って、始まりの街に到着すると、祠に向かう。
氷の剣を持ち、鍵穴にささったままの異空間トンネルの鍵を回す。
すると、ゲートが開き、炎が噴き出した。
氷の剣でそれを凍らせ、階段を作る。
「俺が元の世界に戻ったら、3つになっちまった秘宝を隠してくれ。 光の剣と、氷の剣と、そこの鍵だ」
「分かったよ! 気を付けてね、ヒロキ兄ちゃん」
ヒロキ兄ちゃんか。
なんか初めて名前呼ばれたような……
「じゃあな」
俺は元の世界に戻って来た。
俺は今、ハローワークにいる。
仕事を紹介してもらい、明日から建築現場で働くことになった。
スキルのないこの世界でうまくやっていけるかは分からない。
それでも、分からない世界の冒険こそが、俺の人生の醍醐味だ!
終わり
終わりましたーーーっ!




