2日目
俺が松明で照らして、おっさんが棒を持って慎重に地面を探りながら進んでいく。
辺りは完全なる闇に包まれ、夜が明けるまでまだかかるだろう。
ペースも上がらない。
「おっさん、休憩しないか? 眠りにつかなきゃ平気だろ?」
朝の10時からほぼ休憩なしで半日以上歩いている。
スライムとのバトルで体力も消耗していたし、もう限界だった。
「そうだな。 私も足が棒だ」
俺たちはその場にドサリと腰を下ろした。
こうして松明を掲げていればサボテンはやってこないだろう。
しかし、火の温かさと疲労から、俺はウトウトしてきた。
おっさんは何やら植物図鑑を読んでいる。
「さっきのサボテン、外道サボテンという名前らしいな。 死者に種を植え付けて繁殖するらしい」
「死者に? ってことは、さっきのサボテンはまさか……」
「始まりの街から出てきた冒険者のなれの果てのようだな」
道中かなりの数のサボテンを見てきたが、全員脱出に失敗したやつらなのか?
もしおっさんがいなければ、やけくそで荒野に飛び出したあげく、野垂れ死んでサボテンになってたに違いない。
「目が覚めただろう?」
「……サボテンにはなりたくねーな」
とにかく眠かった。
俺は何もしてないのに、気づくと松明を落とすという状態。
仕方なくおっさんが松明を持って、地面を探りながら進む。
俺は後をついていくだけだ。
俺は妙なうめき声を上げながら、どうにか歩き続けた。
「大丈夫か?」
「おっさんは眠くねぇのかよ……」
「私は会社で24時間を越えて働くことがザラにあったからな。 慣れていると言えば慣れている。 朝を迎えればまた冴えてくるだろうから頑張れ!」
ふざけんな、そんなのブラックもいいとこだろ……
空が明るくなり始めた。
おっさんに言われたように、確かに眠気のピークは越えた。
歩き続けることができる。
何カ所かスライム地帯に遭遇したが、迂回してどうにか切り抜ける。
そして再び太陽が頭上に達した。
もうこれで丸一日以上歩いている。
それなのに、街の姿は全く確認できない。
その事実が、予想以上に俺の心を削り、気づいたら涙が頬を伝っていた。
「おっさん、俺、もうダメだっ!」
俺は立ち止まってしまった。
おっさんは俺の声を受け、足を止めた。
首だけをこちらに向け、こう言った。
「ヒロキ、お前ならできる」
「……」
涙が溢れて止まらなくなっていた。
俺は今までまともに頑張るという経験をしてこなかった。
せっかく新卒で入社した会社も半年で辞めてしまったし、それ以前に部活やバイトだってまともに続いたことは無かった。
どうせ周りにも俺に期待してるやつはいない。
そう思っていた。
「あいつはダメだ」とか、「何もできないやつ」なんて影で言われてきたのも知ってる。
だから、始めから放棄してきた。
だったら辞めてやるよ!
そんな風に……
だが、おっさんは違う。
俺のことに期待してくれていた。
お前ならできる、そんな言葉生まれて初めて言われた。
不思議な感覚だった。
腹の底から力がわき出てきたのだ。
俺は歩き始めた。