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開戦

「こいつをどうすっかな……」


 飲み会の翌日、俺は荒野に出て試しにイフリートを本から出してみた。

ところが、パラレルワールドの勇者に氷の剣で凍らされた状態で出てきたため、解凍しなければ役に立たない。


「しばらく太陽に当てて自然解凍するっきゃねーか」


 そう思ってあぐらをかいていたら、背後から声をかけられた。


「これを使え」


 そこにいたのは、以前会ったことのある植村隊の植村だった。

手渡されたのは粉のようなものの入った袋である。


「粉? どうやって使うんだよ」


「これは塩化カルシウムだ。 除雪剤として、元の世界では広く使われている。 登山家があまり持ち歩くことはないが、アルプスの攻略に役に立つかも、と持ってきていた。 こんな形で役に立つとは思わなかったがな」


 ……なるほど。

こいつを振りかけてれば、簡単に解凍できるってわけだ。

俺はその塩化カルシウムとやらをありがたく貰い、イフリートによじ登って頭からかけてやった。

すると、効果はてきめんで、みるみる氷が溶けていく。


「うごおおおおおおおおおっ」


 雄叫びと共に、イフリートが目を覚ました。


「ココハ…… ドコダ?」


「よお、ちょっと魔王討伐に協力して欲しいんだけどよ」


 突然そんなことを言われ、イフリートは眉間にしわを寄せてこちらを睨んできた。


「フザケルナ、魔王ハ俺ダ」


 ……そういや、そうだった。

めんどくさいことになって来たが、俺は何とか説得することにした。


「あんたは確かに魔王だけど、もう一人魔王がいんだよ。 そいつが今度攻めてくんだ。 魔王が2人もいたら、人間を排除してもまた争いにならねーか? だったら、今回は俺らに協力した方が賢いと思うぜ?」


「……一理アルナ」


 おっ、中々に理解のある魔王じゃねーか。


「今回ハ貴様ラニ協力シテ、後デユックリ世界ヲ頂クトシヨウ」


「おっけーおっけー、それでいーぜ」


 うまいこと同士討ちさせることができれば最高だが、もう一度氷の剣を使えば何とかなるだろう。

今は手元にないけど。






 そして、いよいよその日がやって来た。

中央の街の外で、魔王と交戦する冒険者たちと、イフリートが待機していた。

時刻は昼。

冒険者の内の一人が何かを確認した。


「おい! 変なのがいるぞ!」


 そこにいたのは、魔族によって姿を変えられた元人間、今回の魔王であった。

見た目は闘牛のようだが、首が長く、目が一つしかない。

更に、背中にドラのようなものを背負っており、尻尾にバチを巻き付けている。


「アレハ、カトプレパスダ……!」


  カトプレパス、それは神話に登場し、睨んだものを石化するという力を持つ。

 カトプレパスは、尻尾に巻き付けていたバチを振り上げ、思いっきりドラを打ち鳴らした。


「グオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 ビリビリと衝撃波が伝い、冒険者たちの体を痺れさせる。

そのドラを立て続けに打ち鳴らし続けると、とうとう周りの岩にヒビが入り、砕けた。


「うるせーーーーっ」


 耳を塞いでいなければとても耐えられない音だ。

その時、イフリートが炎のマントに身を包んで、叫び声を上げた。


「逃ゲロッ! 城壁ニ向カッテ走レッ!」

 

 しかし、遅かった。

カトプレパスの瞳が光ったかと思うと、荒野にいた冒険者たちは全員石と化してしまった。

そして……


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 とどめのドラが鳴った。

ビシ、とヒビが入り、冒険者たちは粉々に砕け散った。

イフリートは再度炎のマントをまとい、炎の槍を手に持ってカトプレパスに突進した。






「一体何の音だよ?」


 俺は神殿の中で待機していた。


「戦いの合図か?」

 

 索敵スキルのナイフを装備して、地図を開く。

2つの点がこちらに移動してくるのが分かる。


「このまま突っ切って来る気か…… でも、絶対足止めを食らうハズだ」


 荒野には冒険者と、何よりイフリートが待ち構えている。

1つの点は立ち止まった。

ところが、もう1つの点はスピードを緩めずこちらを目指してくる。


「……」


 おかしい……

そろそろ冒険者の誰かと接触するはずだ。

しかし、その点は冒険者たちをあざ笑うかのごとくかわし、あろうことか城壁をも越えて真っすぐ進んで来た。


「……おいおい、ありえねーぞ!」


 空でも飛んでこない限り、この軌道はありえない。

俺は一つの考えに至った。

もしかしたら、ドラゴンみたいな空を飛べる生き物に捕まってここを目指しているのかも知れない。

俺は外に飛び出して空を仰いだ。


「……何もいねえ」


 空にはそんなものはいない。

地図を見ると、赤い点はとうとう神殿の中に到達していた。

そして、神殿の中から悲鳴が聞こえてきた。


「くそっ、何なんだよ!」


 魔族の男が、市民の輪の中心に立っていた。

首飾りを掴み、投げ捨てる。


「冒険者は誰一人として、土竜(もぐら)のスキルは知らなかったようだな」





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