元の世界へ
俺はさっき見せた作業を繰り返し、身の丈ほどのはしごを組んだ。
しかし、すぐに問題が発生した。
次は、はしごに上りながら延長していくという作業になるが、片手が塞がってしまうために木を持ちながら剣で斬りつけるという作業ができないのである。
「原始人、お前手伝えるか? 俺が木を支えてるから剣で切れ目を入れて欲しいんだよ」
「ワカッタ」
俺が木を支え、原始人がつなぎ部分に切れ目を入れる。
「おお、いい感じじゃねーか! だんだん高くなってくけど頑張れよ」
作業は快調に進み、とうとう地上20メーターの所までやって来た。
「くっ…… 早く固定してくれ」
さすがにこの高さで片手を離すのは怖い。
原始人は高いところは平気なようで、俺が何とかここを耐え、最後の木を取りに一旦地上に降りた。
「いよいよ最後だ。 お前とはここでお別れだ」
「オレモ、イク」
「おいおい、お前はここの人間だろ?」
しかし、原始人は下を向いたまま返事をしなかった。
何でここにいたくないのだろうか。
「ココニイテモ、オレ、ヒトリ」
……そういうことか。
だが、上の世界で順応することができるだろうか?
まあ、できるか。
元の世界の頃の話になるが、片言しかしゃべれない外人だってコンビニでレジやってんだ。
それに、こっちの世界ならこいつの得意分野が生かせる仕事がある。
「……お前、ずっと狩猟生活やってたんだよな? 槍は使えるか?」
「ヤリ、トクイ」
槍が得意ってんなら、一個仕事を紹介してやれる。
俺が以前やった捕鯨の仕事だ。
地上に上がったらハロワ神殿に行かなきゃいけない用ができちまうが……
「ついて来いよ」
俺と原始人ははしごを上り始めた。
そして、穴から這い出すことに成功した。
後は来た道を足元に注意しながら引き返し、どうにか外に出ることができた。
「あっちいな!」
時刻は昼頃で、太陽の照り返しが一番きつい時間だ。
俺たちはジェイムズの方向感覚を頼りに、始まりの街に帰るため歩き始めた。
始まりの街の宿で、俺と原始人、ジェイムズの3人でこれからどうするか話合うことになった。
「先にこいつに仕事を紹介しに行くか」
「先にご主人を探すのがいいかと」
「サキニ、メシダ」
全く意見がまとまらない。
「……飯にすっか?」
結局、すぐに実行に移せる飯を優先することになった。
食堂で何を食べようか思案していると、俺は見慣れた後ろ姿を確認した。
「あれっ、あいつは……」
そこにいたのは、魔族の男だった。
ジェイムズがご主人! と呼びかけると、魔族の男が振り向いた。
「帰ってこられたということは、氷の剣を手に入れたのでしょうか?」
「おうよ!」
俺は剣を掲げて見せた。
どうやら、魔族の男は俺が帰って来るのを宿で待っていたらしい。
角は長い帽子をかぶって隠していたが、ジェイムズの言っていた通り片腕を失っていた。
「では、始まりの祠に向かいましょう」
始まりの祠。
それはこの街にあり、元の世界からこっちにやって来る人間は必ずここで目覚める。
街の外れにある祠の在処に俺たちはやって来た。
俺は薄々勘付いていた。
ここに元の世界に戻る扉があるんじゃないか? と。
祠の中は松明で照らされており、進むと奥のやや広めの円形の空間にたどり着いた。
「確かこの辺りだ」
簡易松明を取り出し、脇に置かれていた松明から火を貰う。
それで足元を照らし、何かを探している。
「あったぞ……」
そこには鍵穴があった。
魔族の男は松明を脇に置いて、懐から鍵を取り出し、差し込んだ。
「ヒロキさん、氷の剣を用意しておいてください」
「……分かった」
鍵を回すと、ゴゴゴゴ、と地響きがし、地面が割れ始めた。
「ここがあなた方の世界と、この世界をつなぐ入り口です」
まさか、こんな唐突にゴールにたどり着いちまうとは。
俺は決断を迫られた。
このまま元の世界に帰るのか、まだやり残したことをやるのか……
その時、地面から炎が螺旋を描きながら噴き出してきた。
「うおわああああっ」
「氷の剣の出番です!」
そ、そうだ!
俺は剣でその炎を斬りつけた。
たちまち炎は凍り付き、螺旋の階段へと姿を変えた。
これを降りれば帰れるのか……
その時、背中に激痛が走った。
まるでグリズリーの爪で引き裂かれたかのような痛みに、俺は叫び声を上げた。
「うぎゃあああああああああああああっ」
倒れざまに後ろを振り向くと、魔族の男が返り血で染まっていた。
「何をする…… 貴様……」
俺は息絶え絶えに、そうつぶやくのがやっとだった。
「魔族が人間の協力を得た、などと知れれば一族の恥ですから」
ジェイムズが俺のポケットから這い出て、魔族の男の元に戻って行った。
更にとどめの一撃を貰い、俺の体は氷の彫刻と化した。
このシーンはガラハドがモデルになってます。




