氷の剣
「よし、氷の剣よ! ギザギザの形状になれっ」
俺は剣を掲げてそう叫んだ。
ところが、剣はなんの変化も示さない。
「って、おい」
「そういう能力はないみたいですね」
……マジか。
そうなってくると、俺のプランが全部台無しになるんだが……
どうしようと途方に暮れていると、背後からガサ、と音がした。
振り返るとでかいトカゲのような恐竜がいる。
「……あー、何か映画で見たことあるな」
ジュラ〇ックパークに出てきた恐竜に似ている。
確か、えりまきで相手を威嚇して、毒の唾を吐いて来るはずだ。
映画ではそれでデブのおっさんがやられてたシーンが印象的だった。
「なあ、お前を投げて囮にしていいか? ジェイムズ」
「や、やめてください……」
ジリ、とゆっくり後退する。
相手も襲い掛かってこず、様子見をしている。
……待て、このシチュエーションも映画であったな。
確か一匹が引き付け役で、本命が背後から襲ってくるパターンだ。
挟み撃ちにされたら勝ち目はない。
「奇襲だ!」
俺は意を決して前方の肉食恐竜目がけて剣を振り降ろした。
しかし、余裕しゃくしゃくと言った風にバックステップで簡単にかわされ、今度は反撃で唾を吐いてきた。
まずい! そう思ってとっさにリュックサックでガードする。
「ヒロキさん! 後ろっ!」
ジェイムズが叫ぶと、背後に迫っていた同じ種の恐竜が俺にとびかかって来た。
「うるあっ」
俺は振り向きざまに剣を振った。
その適当に放った一撃が恐竜の体をかすめた。
その瞬間、恐竜の体は凍り付き、着地の衝撃で体がバラバラになった。
「こういう能力かっ!」
斬りつけた相手を凍らせる。
それがこの剣の能力らしい。
関心してる暇もなく、残った一匹が馬乗りになって襲ってきた。
剣がやばい、と分かっているのか、片手で剣を押さえつけてくる。
「くそっ…… この野郎っ……!」
どうにか剣で相手を斬りつけたいが、かなりの力で抑え込まれている。
俺は左手で相手の顎を押し上げ、牙と毒の唾を封じる。
が、手がプルプルしてきた。
その時、ジェイムズが俺のポケットから飛び出して、スタタタタ、と素早く相手の体によじ登り、目を噛んだ。
「ギャアアアアアアアアーーーーッ」
抑え込んでいた腕が緩み、俺はその隙に剣を柔らかい腹に突き立てた。
パキパキ…… と瞬く間に体は凍った。
ほんの一瞬の攻防だったが、どっと体力を消耗してしまった。
「はあ、はあ…… これじゃ、木なんて切れねーぞ」
ガサ、とまたしても草がこすれる音がする。
「はあ、またかよっ」
振り向くと、今度は俺の方が凍り付いた。
そこにいたのは、原始人のような男だった。
「な、なんだこいつは……」
ボサボサの長い髪とヒゲ、毛皮を羽織り、手には斧を持っていた。
「お前、言葉分かるか?」
「コ、トバ?」
……どうやら少しは分かるらしい。
「なあ、ここから出るのに協力してくれねーか? 木を切って欲しいんだよ」
「ハラ、ヘッタ」
食べ物かよ。
干し肉でも買っとくんだった……
「今はねーんだよ。 上に戻ったら買ってやるから、それじゃダメか?」
「……ソレ、クエル」
原始人は俺のポケットを指さしてきた。
「ふ、ふざけないでください! 私は死んでもこんなやつに食べられるつもりはありませんよ!」
……ぽろっと本音が出やがったな。
俺だってこんなネズミ、いくらでもくれてやっていいと思ってたが、こいつがいなかったら今頃恐竜に食われてただろう。
「ネズミはうまくねーよ。 ちょっと待ってろよ」
俺は草木を集めて火打石で火をつけた。
そこにさっき仕留めた恐竜の柔らかそうな部位を取ってきて、焼き始めた。
「モウクエルカ?」
「まだ早いって。 中まで火を通した方がいい」
しばらく焼いて、それを原始人に振舞ってやると、めちゃくちゃ喜んでくれた。
「ウマイ! ナカマデ、ヒ、トオッテル」
……中々流暢にしゃべるじゃねーか。
こうして、原始人が木を切るのを手伝ってくれる運びとなった。
俺が指定した木を、斧でスコーンと切っていく。
俺は恐竜が現れても平気なように、氷の剣を持って見張り役だ。
この空間は常に発光ガスで明るいため、時間の感覚が分からなくなる。
しかし、もうかなりの時間働いているハズだ。
材料もかなり揃った。
「よっしゃ、そしたら穴の真下まで持ってくか」
木を移動すると、次に穴を掘ってそこに木を差し込む。
これが土台となるため、穴は深く掘った方がいい。
剣を使って土を掻き出し、全身がすっぽり収まるくらい掘り進めると、木を縦に立てて、土をかぶせていく。
この工程だけでも相当大変なため、休憩を挟みながら行う。
そして、ようやく土台が完成した。
電柱みたいに木が2本、地面から立ち上っている。
「問題は、どうやって足をかける部分をロープなしに固定していくかだが……」
俺は1本木を掴んで、土台にあてがう。
そして、あてがった部分に剣で切れ目を何本か入れた。
すると、その箇所に氷の塊ができて、うまい具合に固定することができた。
試しに体重をかけて、大丈夫なことを確認する。
「うまくいったぜ。 さっき氷の剣で遊んでたらたまたま木と木がくっついたんだよ」




