スライム
スライムと初エンカウントです!
フィールドは巨大な岩を彫刻刀でザクザク削り取ったような、隆起した岩場地帯である。
右手は谷になっていて、川が流れている。
何か食べれそうな植物は? と周りを散策しながら進むが、サボテンしかない。
「こう岩場ばっかりじゃ、面白くねーな」
ただひたすら歩く、という行為に早くも俺は飽きていた。
誰かが倒れてるとか、魔物に遭遇するとか、そういうイベントはないものか。
「そういや、スライムなんて見当たらねーな。 この暑さで干上がったか?」
あれだけスライムスライム言っておきながら、まさかエンカウントしないで終わるのか?
3000円も払って買ったこの棒の意義は一体……
「もしかしたら先に出発した者に狩り尽されたのかもしれんな」
雑魚狩りをして金を稼ぐ者は多いのだろうか?
おっさんは、戦士みたいな脳筋タイプはそうやって金を稼ぐという考えだ。
残念ながらゲームと違ってレベルは上がらない為、雑魚を狩り尽したらバイトをしなければならないが。
「ここは道がぬかるんでいるから気をつけるんだ!」
おっさんが先頭に立って先を進む。
雨が上がった後のような、ドロドロした道を進まなければならない。
「歩きにきーな……」
その時だった。
ズボ……
おっさんの体の半分が地面に埋まった。
「な、なんだこれはっ」
おっさんの体が徐々に地面に飲まれていく。
底なし沼か!?
「これに捕まれっ!」
俺はひのきの棒をおっさんの手の届く所に持って行った。
掴んだのを確認すると、足を踏ん張って少しずつ体を引き上げていく。
渾身の力を込めるも、中々引き上げられない。
そして、俺は目を疑った。
「なんだこりゃっ!」
透明な液体がおっさんの体にまとわりついて、泥の中に引き戻そうとしているのだ。
「まさか…… こいつがスライムの正体か!」
地面に擬態して、旅人を飲み込む。
もっとかわいらしいのを想像していた俺は軽くショックを受けた。
「くっそおおおっ、何て力だっ!」
しかも、かなりの力で引っ張られる。
このままでは、こっちまで沼地に引きずられてしまう。
「真っすぐ引っ張ってもダメだ! ねじりながら抜け出すしかない!」
ねじりながら?
そうか、おっさんを中心に時計の針みたいに回っていけば、スライムをねじ切れるって算段か!
俺は棒を掴んだまま沼を回り始めた。
そして……
ブチン!
スライムはねじ切れ、おっさんは抜け出すことに成功した。
「ふう…… 助かったぞ、ヒロキ」
「はあ、はあ…… めちゃくちゃ疲れた……」
ひのきの棒ってこうやって使うのかよ……
俺たちはひのきの棒で地面をつつきながら進むことにした。
これならスライムトラップを事前に察知しながら進める。
そして、日が暮れ始めた。
「ライトを買うのを忘れたな」
「……俺もそれ思ってたわ」
ライトが無ければ、こんなスライム地帯を進むことはできない。
更に火をつけるには火種が必要で、松明を作ることもできない。
ここに来て準備不足が露呈してしまった。
「ここって、夜に襲ってくる魔物とかいねーよな?」
「……そんなこと私が知るわけがないだろう」
「何不機嫌になってんだよ……」
ライトに気づかなかったのはお互いさまだっての……
あー、腹も減ったし、何か買っておくんだったぜ。
寝袋に入って目をつぶると、あっと言う間に眠りについてしまった。
「おいっ! 起きろ!」
もう朝か?
しかし、目を開けるとまだ辺りは暗い。
大して寝た感じもしないし、数時間で起こされたに違いない。
「何なんだよ……」
「周りを見ろ、かなりまずいことになっているぞ」
おっさんはかなり焦っていた。
ぼやけた目で周りを伺う。
「……は?」
わけのわからないことが起こっていた。
サボテンに取り囲まれているのだ。
「おいおい! 何でこんなことになってんだよ!」
「分からん、カサカサ音がしてるから目が覚めたんだ。 そしたらこの状況だった」
確かにこの一帯は妙にサボテンが多かった。
まさか、夜中に襲ってくる魔物だったとは……
「どうする? 棒で強引に押しやりながら逃げるか?」
「危険だ。 反撃を食らったらハチの巣になってしまう。 ここは火を放つしかない」
恐らくサボテンは火に弱い。
松明を作れば、火を嫌がるサボテンは道を開けるに違いない。
おっさんはそう踏んだ。
しかし、どうやって火をつける?
「ヒロキ! ブックカバーは?」
「必要ないと思ってかけてもらわなかった……」
「くそっ、何てやつだっ!」
ズズズ、ズズズ、とサボテンが迫ってくる。
「地図を燃やすしかない」
「……! マジか」
「命には代えられんだろう」
おっさんは地図と火打石、ナイフを取り出した。
火打ち石にナイフを当てがい、ジャッと刃を走らせると、火花が散った。
それを何度か繰り返すと、地図に火が付いた。
「よし、これを棒に移すぞ」
棒の先端に火を移し、松明を作る。
それを持ってサボテンの方に近づけると、思った通り道を開けた。
俺たちは荷物を抱えて、その場から離れることに成功した。