襲撃
燃え盛る炎が夜空を煌々と照らし出す。
異変に気付いた魔族の男も外に出てきて、その光景を眺めている。
「……どうやら、後をつけられたようですね。 恐らく冒険者たちが打って出たのでしょう」
後をつけられた?
道中で会った3人の冒険者はゴブリンが殺したし、それ以外では誰にも遭遇していない。
こちらが気づいていなかっただけか?
すると、ジェイムズが足元でつぶやいた。
「……殺しきれてない冒険者がいました。 やつが生きていたのかも知れません」
……そういや、あの鎧の戦士だけは直接とどめを刺したわけじゃなかった。
鎧を脱いで沈むのを免れたってことか。
「どうするんだよ?」
「まだ人間と戦争をするには早い。 しかし、もし逃げ出せば魔族など恐れるに足らないという印象を与えてしまいます。 ここは応じなければなりません。 刺し違えてでも……」
……戦う気か。
だけど、今の言い方じゃ死ぬのも覚悟してるみたいだ。
「私もお供します」
ジェイムズが魔族の体を伝ってポケットに入る。
「……」
正直、魔族の味方をするわけにはいかない。
かと言って、冒険者たちに加勢することもできない。
俺は今、どっちつかずな立場に置かれている。
「ヒロキさん、あなたには魔族に加勢する道理がない。 ここから立ち去りなさい」
……加勢した所で役に立ちそうもねーけどな。
「鍵はどうすんだよ、俺が預かっておこうか?」
「あなたが魔族の味方をするのであれば預けても構いませんが、そんなつもりはないのでしょう? 鍵は私が死守します」
今、俺の唯一の希望は元の世界に戻ることだ。
もし鍵を奪われたら、その目も消える。
「氷の剣を取って来てやるから、後で合流するぞ」
「……分かりました」
俺は小屋を後にした。
目指すは、始まりの街だ。
この森の川を伝って北に向かえば始まりの街にたどり着く。
もはやそこに行く以外に手はなかった。
この付近の荒野では食べるものもなく、生きていくことはできない。
俺は森から手頃な枝を探し、荒野に出た。
荒野にはスライムがいるため、この棒で地面をつつきながら進まなければならない。
そうやって、川伝いに北に向かっていくと、半日ほどで始まりの街に到着した。
時刻は早朝を過ぎた頃だ。
俺は着ていたTシャツを破って顔に巻き付けた。
顔を晒さないようにするためだ。
「腹減ったな……」
最初に来た頃より状況が悪くて、思わず失笑した。
所持金は0。
殺人の疑いまでかけられている。
このまま飢え死にする可能性もあり、氷の剣を探す余裕なんてない。
というか、手がかりがない。
半日歩きっぱなしで足が棒になっていた俺は、道端にへたり込んだ。
「何をやってもダメだな……」
思わず弱音が出た。
その言葉が引き金となり、どんどんネガティブな考えが溢れてくる。
「ほんの少しいいことがあったかと思ったら、すぐに悪いことが起こる」
光の剣を手に入れて、初めて冒険者として名を上げれたかと思えば、殺人の容疑をかけられ全て水の泡になり、鍵を手に入れて、元の世界に戻れるかと思えば、すぐに冒険者に追われてそれも遠のいていく。
「元にいた頃と何もかわらねーよ。 何一つ面白いことなんてなかった…… くそつまんねぇ人生だった」
俺はそういう運命なんだ。
今周りには、俺を励ましてくれる人間もいない。
俺はいよいよふて腐れてその場から動けなくなった。
どれくらい経ったか。
道端で横になって眠ってしまったらしい。
少し気分が良くなっていた。
寝不足でネガティブになってたってのもあったかも知れない。
顔を上げると、この世界に来たばかりと思われる若い女性がウロウロしていた。
不安そうな表情をして、挙動不審にあっちに行ったり、こっちに来たりを繰り返している。
「あいつ、金持ってねーのかな……」
金が少しでもあれば、何日か宿でしのげる。
もし1円も持ってないとなると、かなりたくましくなければ生きていけない。
俺は不安気にうろちょろしている女性が見るに耐えなくなり、声をかけた。
「なあ、お前、元の世界から来たばっかだろ?」
突然声をかけられ、恐る恐るこちらを伺ってくる。
俺の怪しい恰好も問題があるかも知れない。
どうせ何も知らないだろうと、俺はTシャツを顔から外した。
「俺も元の世界からこっちに来た。 お前と同じだ」
すると、安堵した女性はこちらにやって来た。
「気が付いたらこんな所にいて…… 何をどうしたらいいのか分からなくて」
「金持ってねーの?」
「あ、あります」
すると、ポケットから財布を取り出した。
どうやら1万円程度ならあるらしい。
「ここを抜け出す方法を教えてやるよ」
俺は、まず似たような仲間を見つけるのがいいと言った。
仲間を募って、所持金が3万もあれば必要なものが揃う。
後はスライムの対処と、外道サボテンの対処の方法。
中央に着いてから金を稼ぐ方法も教えてやった。
「ずっと心細かったんです…… ほんとにありがとうございます。 これ、気持ちなんですけど……」
そう言って、女性は1000円を渡してきた。
「……いいのか? もらっちまうけど」
死者の指輪は魔族に返却しました。




