異空間トンネル
「やべえっ! 逃げるぞっ!」
俺は魔導書を小脇に抱えて、来た道を猛ダッシュで駆け出した。
草をかわしてる余裕なんてない。
バキバキバキ、と枝をへし折りながら全力で疾走していると、前から地響きが聞こえた。
「……やばい気がする」
俺は急ブレーキをかけて止まり、前の様子を伺った。
ズウウウウウン…… と足音が聞こえ、見上げると木よりも背の高い緑色のドラゴンが前方を塞いでいた。
「前はダメかっ」
そう思って反転しようとした時、後方からゴブリンの悲鳴が聞こえた。
すぐ後ろにもさっきのドラゴンが迫っていたのである。
「くっそ……」
このままではどちらかのドラゴンにやられる。
だが、うまくいけば……
「賭けだな……」
2匹に挟まれてるこの状況が逆にチャンスかもしれなかった。
もし俺を狙った攻撃が相手のドラゴンに誤爆するようなことがあれば、ターゲットが変わるかも知れない。
俺は植物の茎を手にとって、お互いのドラゴンが近づくのを待った。
「ヒロキさん! 何してるんですか!」
「まあ見てろ」
ドラゴンがお互いの間合いに入り込んだ瞬間を俺は狙った。
「今だっ!」
思いっきり植物を根っこから引き抜いた。
「ギャアアアアアアアアアッ」
物凄い絶叫が響き渡り、フォレストドラゴンが尻尾を振り回して来た。
攻撃が来ると分かっていた俺は、うつ伏せになってそれをかわす。
そして、その尻尾がスカイドラゴンの胴体に直撃した。
「ウギャアアアアアアアッ」
攻撃を受けたドラゴンは、怒り狂って反撃し、組み合うようにして争い始めた。
「うまくいったか……」
俺はその2匹の脇を通り抜けて、急いで船に戻って行った。
「ここら辺に生えてる植物はフォレストドラゴンとつながれている。 それを引っこ抜けば当然痛い為、相手はびっくりして尻尾を振り回したと、そういうことですか」
「人間だって自分の毛を抜かれたら涙が出るほどいてーからな」
船に乗り込むと、全速力でオールを漕いで入り江から脱出した。
波に揺られながら2日後、浜辺に到着した。
帰り道、俺はどうにか魔族を出し抜く方法はないかと考えたが、結局妙案は浮かばなかった。
ネズミを海に捨てて、冒険者協会に鍵を献上するという手もあったが、殺人犯の疑いがかけられている以上、見つかった瞬間捕まりかねない。
交渉に応じて、後は隠れて生きていくしかないのかもな、と憂鬱な気分でいた。
小屋に戻って扉をノックすると、部屋で休んでいた魔族が外に出て来た。
「取って来たぜ」
「……素晴らしい、あなたは人間の中でも特に見込みがありますね」
大人しく鍵を渡し、約束は守れよな、と言う。
そして、小屋を後にしようと歩き始めた時だった。
「どこへ帰るつもりですか? あなたに帰る場所は無いはずだ」
……バレてやがる。
「この鍵だけではまだ意味はありません。 魔王の城までたどり着くためには氷の剣が必要です」
氷の剣。
それも秘宝の一つだったはずだ。
「もう取引の材料はないハズだぜ?」
「氷の剣さえあれば、元の世界に戻れますよ」
……な、なんて?
「お前、何で俺が元の世界から来たって知ってんだ!? てか、戻る方法なんてあるのか?」
「秘宝について記述した書物によれば、異空間トンネルは魔王の城までの果てしない道のりを短縮する穴を作り、氷の剣は魔王の城までの道を作るとあります。 そして、魔王の城とは我々の住処ではなく、あなた方の世界のことを指します」
……!
魔王の城は俺の住んでいた元の世界……
そういえば、以前中央の街で光の剣の在処を教えてもらった時、あの幽霊のじいさんも似たようなことを言っていた……
人間の中から、魔王の後継者が現れると……
「私がそちらの世界に向かう理由は、あなた方の世界から魔王を連れて帰って来るためです。 もし元の世界に戻れるのであれば、こちらの世界がどうなろうと知ったことではないでしょう」
確かに……
俺は犯罪者に仕立て上げられちまったし、それだったらいっそ元の世界に帰った方がマシかもしれない。
そしたら、また1からやり直せるんだ。
しかし、こっちの世界に何もないのかといったら違う。
おっさん、ドーモ君、スラムの少年、オオカミたち。
あいつらだって住んでんだ。
「一晩考えて、協力するか決める」
「分かりました」
俺は夜、星を眺めながら考えていた。
一体どうしたらいいのか。
氷の剣を見つけるのに協力して、元の世界に戻るべきか……
それとも協力せず、隠れて生きていくべきか……
「……いっそ、あいつらみんな元の世界に連れて帰るか?」
そうすればこの世界に俺が守りたいものはなくなる。
後はどうなったって構わない。
……翌日になって気が変わらなかったらそれでいこう、そう思い、俺は眠りについた。
「火事です! 起きてください!」
小屋のすぐ隣で眠っていた俺は、ジェイムズに起こされた。
「なんだよ……」
「森が、焼かれています!」




