魔族
ネズミを話し相手に時間をつぶしていると、巡回の兵士が飯を運びに降りてきた。
「来たか、出ろ」
そう言うと、霊魂が指輪から飛び出した。
それを近くに転がっているガイコツに憑依させると、兵士がこちらにやって来た。
「お前にとっては最後の飯だ。 良く味わって食えよ」
差し出されたのはパン一切れだ。
こんなのが最後の晩餐だなんて、ぜってーお断りだ。
「行け」
「ん? なんか言ったか?」
ゴン……
ガイコツが背後から兵士を殴り倒し、気絶させた。
ドサリ、と崩れた体を牢屋の外から手を伸ばしてまさぐる。
腰にぶら下がっていた鍵を奪取し、牢屋を開けた。
兵士が起きる前に牢屋を抜け出し、階段を上る。
幸いここに駐屯する兵士はさっきの見回り一人だけのようだ。
日差しを浴び、目を細める。
時刻は朝のようだ。
「シャバの空気はうめえなーっ」
俺は何日かぶりに出所して来たヤクザかよ。
そんなことより、魔族に会いに行く約束だったな。
「じゃあ、案内してくれよ」
いつの間にか俺の胸ポケットに入り込んでいたネズミが顔を出す。
「ここから見える森がありますよね? あそこにご主人が住んでいますので、向かいましょう」
歩いて30分ほどでその森に到着し、中に踏み入った。
道はほとんど無いようなもので、すこぶる歩きにくい。
「道はこっちで合ってんのか?」
「ええ、そのまま進んでください」
何か目印になるようなものは見当たらないが、ネズミってやつは人間と違って優れた方向感覚があるのだろうか。
しばらく進んで、俺は足を止めた。
「おい! ちょっと待てよ……」
そこには、ゴブリンが3匹、固まって何やら話をしている光景が現れた。
相手はこちらには気づいていないようだが。
「こっちはダメだ。 ゴブリンがいやがる」
「安心してください。 ここのゴブリンはご主人の支配下に置かれていますので。 むやみやたらと人間は襲いません」
「……」
ゴブリンの手下がいるだって?
まさか……
俺はこのネズミの言うことに疑問を持った。
レンガの街を襲った魔族とは違うやつが主人と言ったが、どうも信じがたい。
むしろ逆で、今から会いに行くやつこそ、街を襲撃した黒幕じゃないのか?
それならばちょうどいい。
会ってぶちのめしてやるだけだ。
森の中を進む。
途中、川で水分補給をし、軽く休憩を取る。
森に自生している木の実を口にするが、果肉はほとんどない。
「しかもすっぺーし、全然うまくねーよこれ」
「砂糖を加えてジャムにするといいかも知れませんね」
「……タッパー持ってくりゃ良かったな」
ピクニック気分になりつつあったその時、小屋が見えた。
「あれです! あそこにご主人が住んでいます」
「……!」
小屋の目の前まで来ると、脇でスコーンという音がした。
ゴブリンが薪を割っている。
こちらに気付いたが、気にせず薪を割り続ける。
「……マジで飼いならしてんのか」
俺が扉をノックすると、奥から声がした。
「……どちら様でしょう?」
「ご主人、連れてきましたよ」
すると、扉が開いた。
中から顔を出したのは、30代半ばくらいの、優しそうな感じの男だった。
こいつが魔族? と一瞬疑うくらい、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
しかし、明らかに人間とは違う特徴、頭から角が生えていた。
「……始めまして。 あなたが光の剣を取ったというヒロキさんですね」
「ああ、牢屋から出してくれてありがとうよ。 で、あんたがレンガの街を襲った黒幕か?」
「……その通りです」
ドガッ……
俺は思いっきり相手の顔面を殴りつけた。
しかし……
「気が晴れましたか?」
まったく表情を変えず、俺の方に向き直った。
1ミリも効いてねーのか?
「私にどんな恨みがあるかは分かりませんが、あなたは2つの理由から私に協力しなければならない。 1つ目は、死者の指輪を貸した時の条件、そして2つ目はそれを破棄した際、報復としてあなたの大事な人間をゴブリンをけしかけて殺します。 名前はおっさんでしたか」
……いや、違うけど。
てか、何でおっさんのことを知ってやがる!?
「我々は常にあなた方の最新情報を持っています。 どういうルートで入手しているかは秘密ですが」
「ネズミか?」
「……」
図星かよ。
しかし、これでは相手の言うことを聞かざるを得ないじゃねーか。
「……おっさんには手を出すな。 それが約束できるなら、協力してやってもいい」
「ありがとうございます。 あなたには4つの秘宝の1つ「異空間トンネル」を手に入れて欲しい」
異空間トンネル……
確か、ドラゴンの住んでる島にあるって話の秘宝だ。
「ドラゴンアイランド、秘宝はそこにあるという話ですが、具体的にどこに隠したかは分かっていません。 手がかりは、魔の三角地帯に現れる幽霊船」
今度は幽霊船かよ。
補足
なんで最後の飯なのか?→死刑になる予定だった。
なぜ相手が嘘をついたのにこちらは約束を守る必要があるのか?→人質を取られ、協力せざるを得なくなった。




