転送魔法
真相も分かり、王子も成仏したため、俺たちは転送魔法を使ってハロワ神殿に帰還することにした。
ドーモ君がリュックから杖とマスクを取り出す。
「転送魔法を使うと、体が光に包まれて神殿まで飛んでいくんすけど、その時物凄いスピードが出るんで、マスクがないと息ができなくなるんす」
マスクを装着すると、ドーモ君は転送魔法の準備に入った。
まず、着地の際の衝撃に備えるため、防御魔法で体に薄いバリアを張る。
「安全確認オッケー、じゃあ行きますよ。 転送魔法オン!」
すると、体が光に包まれ、そのまま出口に向かって飛んでいった。
物凄いスピードで入り口の扉を突き破り、そのまま雪山を越えて神殿に向かう。
ものの10分で神殿まで来ると、神殿の天井の穴から一室のベッドの上に落とされた。
衝撃で弾き飛ばされ、地面に体を強打する。
「痛てえええええっ」
続けざまにドーモ君が飛んできて、同じ軌道を描く。
そして、俺の上に着地した。
「ぐえええっ」
「だ、大丈夫っすか?」
こうして、俺の最初の転送体験は最悪の思い出となった。
「さて、こっからどうすっか」
選択肢はいくつかある。
1つ目は俺の株価を上げるため、冒険者協会に光の剣を献上するという選択肢。
2つ目は光の剣は自分で所持したまま、おっさんを斬りつけた魔族に仕返しに行くという選択肢。
だが、魔族ってのがどこにいるのか手がかりはない。
所持金の問題で次の旅をするのもままならないのに、どうやって魔族を探すかだ。
3つ目は剣を富豪に売って、金を手に入れる方法。
いくらで買い取ってくれるかは分からないが、おっさんに土地を買ってやる金は余裕で手に入るだろうし、冒険をやめてのんびり生きていくならこれだ。
「3か……?」
仮に1を選んで株価を上げたところで、目標の株価1000に届くかは分からない。
この中で確実に得をするなら3だ。
「ドーモ君、今から富豪のとこに行ってこいつを換金してくっからよ。 多分、ここでお別れだ」
「……」
「今までありがとな」
俺が背を向けて歩き始めた時、後ろから声がした。
「……見損ないましたよ! このチキン野郎!」
一瞬、誰が何を言っているのか分からなかった。
しかし、そのセリフはドーモ君が間違いなく俺に向かって言っていた。
「……なんだと?」
俺は振り向いてドーモ君の方に戻って行った。
「なんつったてめぇ!」
胸倉をつかみ詰め寄るが、ドーモ君は俺から目を反らそうとしない。
「小説家が一発当てて、しんどいからもう作品なんて書かなくていいや、なんて思ったらファンはがっかりするでしょ? 冒険者もそれと同じなんです。 次の冒険が見たいんですよ!」
……なんだその例えは。
しかし、そんなことを言われても俺にはファンなんていない。
株価だって100しかねーし、そもそも知り合いだって、おっさんとこいつと、スラムの少年くらいだ。
「ドーモ君よ、俺にファンなんていると思うか?」
「……僕はファンですよ」
何だって?
ドーモ君が俺のファン?
「今は一人でもいいじゃないですか。 でも、もし僕みたいな人がいれば、その人だってファンになってくれると思います。 今はまだ知られてないだけですけど、その剣を協会に献上すれば必ず近いうちに名前が知れ渡ります」
……別に有名になりたいから冒険者をやってるわけじゃない。
最初はおっさんの為だった。
でも、どうやら俺は誰かのためにじゃないと行動できない性質らしい。
その証拠に、元の世界じゃ3年くらいニートだったし。
「……分かったよ。 でも、献上したとして、次は何を目標に旅すりゃいいんだ?」
光の剣を目指したのは偶然だった。
旅の目的を決める前に、成り行きでこうなっちまったんだ。
「……4つの秘宝。 コンプリートしましょう!」
またとんでもない発言が飛び出した。
本気か?
「おいおい、光の剣だって偶然手に入れただけだってのによ」
「僕には偶然には思えません。 むしろ、偶然だけだったら最初で詰んでたはずです」
……考えてみりゃ、光の剣にたどり着くまでに色んな障害を突破して来たことは事実だ。
俺は、俺の力を過小評価してるのだろうか?
確かに、偶然の力だけじゃない。
もし次の秘宝を手に入れることができたら、自分への自信を確固たるものにできるかもしれない。
元の世界では負け組だった俺が……
「やってみるか……!」




