王子
ガイコツが埋まっていないことに対し、俺は多少なり理不尽を感じた。
しかし、危機はそこまで迫ってきており、手で金貨を掻き出していては間に合いそうにない。
何かで一気に取り除かなければ……
「あれを使うか!」
俺は体をひねってリュックから鍋を取り出した。
それを使って一気に金貨を掻き出すと、どうにか体を引き抜くことができた。
ガイコツが剣を振り降ろしてきたが、それを回避し宝物庫の入り口までダッシュ。
扉に手をかける。
ガチャガチャ……
「あれっ?」
扉を開けることができない。
よく見ると、内側から南京錠がかけられていた。
なぜ内側から鍵がかけられているのかは分からなかったが、それならこの部屋に鍵があるはずだ。
「その前にあれをどうにかした方がいいな」
鍵を探してる最中に後ろからグサリとやられたんじゃかなわない。
幸い、この部屋は武具庫としても使われていたらしい。
武器、防具が目に付いた。
その中に、一際目に着く装飾の豪華な剣を俺は手にした。
「……!」
その剣を手にしたとき、一瞬わが目を疑った。
ガイコツに顔が張り付いて見えるのである。
しかし、その顔は半透明だった。
「この剣、死者の首飾りと同じスキルか!」
死者の首飾りは「死者の目視」スキルが付いていたため、死者を見ることができた。
俺はガイコツに向かって走り出し、剣を横なぎに振った。
ガッ……
その一撃でガイコツの頭部は宙を舞った。
同時に、憑りついていた亡霊も消滅した。
「ふうーっ」
俺はその場に座り込んだ。
助かった……
「ドーモ君、ちょっとそこで待ってろよ! 南京錠がかかってて鍵を探さねーといけねーんだ!」
「分かりました!」
穴を見上げてそう叫ぶと、何かがシューンと出ていくのが見えた。
「ん? なんだ今の……」
この部屋にいた亡霊か?
部屋を見渡す。
慌てていて気付かなかったが、生きていれば子供くらいのガイコツが扉の近くに横たわっていた。
そのガイコツが羽織っている服装からして、かなり身分の高い者だったということが分かる。
「……今穴から出てったやつは、こいつの亡霊か?」
そして、よく見ると、その子供のガイコツは手に鍵を握りしめていた。
それを取って南京錠に差し込むと、鍵が回った。
ゆっくり部屋から出て、階段を探す。
通路上にいたガイコツを両断しつつ、階段を上った。
この剣、死者が見えるだけでなく、亡霊に干渉することもできるらしい。
「まさか……」
俺はドキドキしながらその剣を眺めた。
階段を上がるとドーモ君が待っていた。
「あれっ、その剣どうしたんすか?」
「宝物庫にあった。 多分光の剣だ」
えええーっ、とドーモ君は芸人ばりのリアクションを披露する。
別にカメラ回ってねーぞ。
「たまたま落ちた先に探してた剣があるって、どんだけラッキーなんすか! 日頃の行いがいいとは思えないのに……」
おい、最後の聞こえたぞ。
「……まあいいわ。 もうここに用はねーから転送魔法使って帰ろうぜ」
「そうっすね」
……いや、待て。
ドーモ君にしがみついている何かを見落とすところだった。
近づいてよく見てみる。
「どうしたんすか? 顔近いっす」
子供の亡霊がドーモ君に取り憑いていた。
「面倒なことになったな……」
俺はドーモ君に、子供の亡霊が憑りついていて、帰るに帰れなくなったということを説明した。
「子供の亡霊っすか…… どうしたら成仏してくれますかね?」
さすがに子供の霊を剣で斬るのは忍びない。
こいつの願いを叶えてやるのが一番いいだろう。
「なあ、お前何で成仏しないんだ?」
しかし、子供の霊はこちらを見ているだけで、答えようとしない。
というより、死者と会話することまではできないようだ。
すると、幽霊は口をパクパクさせて何かを伝えようとしてきた。
「何だ…… ママ?」
幽霊は指を鳴らして、おしい! というジェスチャーをした。
「パパか?」
幽霊は首を縦に振ってうなずいた。
てか、こっちの声は聞こえんのかよ。
「この子供のオヤジって、もしかして王様か?」
子供のガイコツはカッコからしてかなり身分が高いと思われた。
そして、こんな城にいる子供なんて一人しか思いつかない。
王子だ。
俺たちは王様の部屋の散策を開始した。
そして、それはすぐに見つかった。
階段を上がった中央の部屋に、王様の部屋はあった。
扉を開けると、王様のガイコツがベッドに横たわっており、その近くにいた王様の霊に王子は駆け寄った。
2人は手をつなぎ、そのまま天に召された。
「良かったっすね」
「……ああ」
しかし、何で王子はあんな所にいたのか?
その答えはすぐに分かった。
机の上に日記が置かれており、そこにこの国の顛末が記されていたからだ。
「感染症だ……」
この国に蔓延した致死率の高い感染症。
それを防ぐことができず、この国は滅亡してしまったのだった。
「人から人に感染することが分かった時には遅かったんだ。 王子はそれから逃れようとして、あそこに逃げ込んだってわけだ」
そして、被害が広がらないように、地図上からこの国は抹消されたんだ。




