雪山へ
俺は証券所で自分の株を10万円分購入し、おっさんのいる病室に向かった。
おっさんのケガが完治するにはまだ結構かかるらしい。
これから雪山に向かうことを告げると、アドバイスをくれた。
「雪山か…… 情報収集は怠らない方がいいな。 その雪山を踏破したことのある冒険者に色々話を聞いた方がいい。 仮にアルプスみたいな切り立った氷山だとしたら、素人では登れまい」
「登ったやつに聞いてみりゃいいわけか。 サンキュー」
俺はドーモ君に雪山を登ったことがある冒険者がいないか聞いてみた。
「調べればすぐ分かると思います!」
協会の付き添いは冒険者の行動の記録と、報告の義務がある。
なので、雪山にトライしたことのある冒険者の情報も簡単に手に入るらしい。
翌日、ハロワ神殿の情報管理部に向かうと、偶然にも先日雪山にトライして戻ってきたばかりの植村隊がこの街にまだいる、との情報を手に入れることができた。
植村のいる宿の部屋番号を教えてもらい、俺たちはそこに向かった。
扉をノックして中に入ると、まるでアイヌ民族みたいなカッコをしたおっさんが椅子に座っていた。
「あんたが雪山にトライしたって聞いて、来てみたんだけど」
「……部屋に入ってきて突然それか。 礼儀を知らんな」
やっべ、このタイプか。
「あ、すいませんです。 今度俺らもトライするつもりなんすよ」
「……結論から先に言っておこう。 お前では100パーセント無理だ」
なんだと……
「何でそんなこと言い切れんだよ!」
「私は元の世界にいた頃から通算して、登山歴は20年になる。 エベレストにも登頂したことがあるが、あの雪山はエベレスト並みの標高を誇る」
エベレスト!?
「しかも、元の世界のエベレストはまだ現地のシェルパの手で道が舗装されているから登り易い。 ルートも開拓されてるし、クレパスの位置も把握されている。 が、ここの雪山は全くの手つかずな上に、装備も不十分。 加えて酸素ボンベもないと来ている」
俺は開いた口が塞がらなくなった。
今の話を聞いたら登る前から無理だって分かる。
ピクニックのつもりでエベレストに登れるわけがねー。
「現在、私たちは魔法の力やスキルなど、様々な方法で雪山の踏破を検討中だ。 自力では五合目まで行くことすらできん」
「……」
俺は返す言葉もなく、宿を出た。
「……雪山を迂回するルートはねーのか?」
だが、光の剣の在り方は山が連なった一帯の反対側だった。
迂回ルートは果てしなく長い道のりになる。
「ハロワ神殿の図書館に行ってみないすか? あそこなら詳しい地図があるんで、迂回ルートも見えてくるかもしれないす」
「図書館かよ……」
俺がこの世で嫌いなものの一つだ。
まあ、ドーモ君に探させりゃいいか。
ハロワ神殿の図書館にやって来た。
ここは、冒険者にしか読むことの出来ない秘蔵の書物も置かれている。
「漫画ねーかなぁ」
俺は早くも睡魔に襲われていた。
調べ物とかは特に嫌いだ。
ネットで検索とかは苦じゃないが、いちいち探さなきゃいけないのはしんどい。
ドーモ君は地図を広げてじっくり眺めている。
「ドーモ君さぁ、なんかネット検索みたいなのねーの?」
「いやぁ、ないっすね。 ははは」
だよな。
ちらっと本棚を見やると、なんかすごい装飾の本を発見した。
「なんだこれ、すっげー分厚いな」
試しに取り出して見てみる。
タイトルは、4つの秘宝だ。
しかし、中を見てみるとほとんど白紙だった。
最初の方にちょろちょろ書かれているだけだが、俺は驚いた。
「光の剣の在り方だって!?」
4つの秘宝。
その一、光の剣。
王国の武器庫に隠されている、そう書かれていた。
俺は一気に引き込まれ、初めからこの本を読んだ。
作者の名前はレオナルドで、かなりの高齢と記載されている。
王国に出向いた際、書物に秘宝の在りかを示すよう命を受けたとのことだ。
神殿に戻って執筆作業に入ったと書かれているが、俺はその下りを何度も読み返した。
「こいつ……、一体どうやって王国から神殿に戻って来たんだ……」
恐らく、光の剣の在りかイコール王国だ。
まさか、高齢な神官が山を登ってきたってのか?
迂回ルートか、もしかしたら実は雪山にルートがあるのかも知れない。
その時、ドーモ君が叫んだ。
「ヒロキさん! これ、見て下さい!」
俺はドーモ君に駆け寄った。
「このアルプスの一帯に、一カ所だけ谷底になってる部分があるんです!」
それか!
だが、地図を見た限り、かなりの距離がある。
徒歩では厳しいだろう。
神官は徒歩ではなく、何か別な手を使って通って来たと考えるのが妥当だ。
「スキーは斜面じゃねーと無理だし、スノーモービルなんてねぇよな。 ドーモ君さ、なんか雪道を滑走できるもんこの世界にねーの?」
「滑走ですか? うーん…… あるか分からないですけど、思いついたのは犬ぞりっすかね」
……!
それなら雪道を短時間で滑走できるし、この世界でも実現できそうだ。
「でも、こっちの世界の犬ってみんな凶暴で、手なずけるのは無理っすよ?」
「……マジかよ! くっそ……」
この世界にゃまともな動物はいねーのかよ。
せめてそういう魔物を手なずけるスキルがありゃ……
いや待て…… ないとも限らないよな?
「ちょっと待ってろ!」
「どこ行くんすか?」
「富豪のとこだよっ」




