株
食べるカブじゃないよ。
証券所は街の中心部のボロい建物の中にあった。
あまり人の出入りはなく、株に目をつけたのはおっさんならではのアイデアだったらしい。
地下に続く階段を下りると、うす暗い部屋にたどり着いた。
カウンターの内側にバイヤーと思われる人間が突っ立っている。
「ここで株の取引ができると聞いたんだが」
おっさんが訪ねると、バイヤーは壁の張り紙を指さした。
「買いたい株をえらんで」
壁の張り紙には小さな文字で人名が書き連ねてあり、株価とパーティーメンバーの職業が記載されている。
「わっけわかんねーな」
俺はその名前を上から順に追ったが、全くピンとこない。
勘で選ぶんならギャンブルとさほど変わらない気がする。
「この二部というやつの中から選ぼう。 100というのが最低の値のようだ。 この中に有望なルーキーがいれば、短期間で一攫千金が狙えるぞ」
俺とおっさんで手分けして株価100の中から有望そうなのを吟味することとなった。
「あっ!」
何か見たことのある名前を発見した気がした。
そして、よく見るとやはりそいつは知っている名前だった。
「おっさん、この三玉ユウスケってやつ…… かなりできると思うぜ」
三玉ユウスケは俺の幼なじみだ。
高校まで一緒だったが、成績はトップクラス。
しかも小、中、高とサッカー部のキャプテンを務めていた揺るぎない有望株だ。
ところが……
「なるほど、職業も戦士、格闘家、白魔道士と一見バランスのとれたチームだ。 だが、ゲームの世界で初めから優秀なやつが勇者になれると思うか?」
「ん…… まぁ、ゲームじゃ落ちこぼれが勇者になるのが定番パターンだけど、それとは違くねーか?」
「私はこっちを押す」
それは、盗賊、商人、探検家というかなりの特殊チームだった。
「さっき君が選んだパーティーは、確かに戦闘では型にはまった強さを発揮するだろう。 だがもし思うように金が手に入らなかった場合どうする?」
金?ここに来る前におっさんが言ってたみたく、強力なモンスターを倒しまくればいいんじゃないか?
だが、倒せない相手ばかりのフィールドに来たら……
「雑魚モンスターを狩りまくるしかない」
「雑魚モンスターを狩り尽くしたら?」
そうなったら……
「バイト?」
「そうだ、そこで冒険が停滞してしまう。 その点、後者はちゃんとパーティーの運用を考えている。 盗賊が敵の武器や装飾品を奪い、探検家が洞窟で着実に宝箱を確保し、商人がそれらを売りさばく」
……!
おっさんの言うことは一理ある。
確かに戦士や魔道士なんて聞こえは言いが、戦闘特化感が否めない。
金を稼いでより快適安心な旅をするなら、後者だ。
「まぁ、金を出すのはおっさんだから好きなの……」
言い切らない内に、すでに盗賊株を100株購入していた。
それから1週間後、証券所に来て株価の確認をした。
毎週月曜が張り紙の更新日だからだ。
「おっさん! ユウスケの株が見あたらねーぞ!」
俺はユウスケの方が気になって真っ先に調べた。
その声に反応したバイヤーがおっさんの代わりに返事をした。
「リストから消えた者は、死んだか無職に戻ったかのどちらかですね」
なんだって……
だが、ここで嘆いた所で仕方の無いことだった。
それに、死んだとはまだ限らない。
「見ろ、読みが当たったぞ!」
なんと、盗賊株は200まで上昇していた。
「おっさん…… すげーじゃんか!」
これで株を金に換金し、予定通り所持金は3万となった。
「さて、次は店に行くぞ」