ゴブリン
俺はおっさんと別れ、レンガが積まれてある物陰に隠れた。
ゴブリンがコーナーを走ってきたら、飛び出して背後から羽交い絞めにし、武器を奪う。
俺はレンガを持って、そのタイミングを待っていた。
ゴブリンと言えば雑魚キャラの定番だ。
心のどこかで油断していた。
「があああああああああああっ」
悲鳴が聞こえた。
(嘘だろ……!)
俺は考えなしに物陰から飛び出した。
余裕なんてなかった。
その声の主は、おっさんだったからだ。
「おっさんっ!」
血まみれになったおっさんが倒れており、その少し先をゴブリンが背を向けて歩いていた。
それを見て、俺は抑えられない殺意を抱いた。
(殺す……)
そのままゴブリンに突っ込もうとした時だった。
「ま…… て」
かすかな声が聞こえ、それに反応して冷静さを取り戻すことができた。
「おっさん! 生きてんのか!」
「レンガは命中したんだがな……」
「どれくらい深い傷なんだ? しっかりしろよ!」
血の量からして、傷は浅くはないと思われた。
剣で斬りつけられており、すぐに医者に運ばなければならない。
俺はおっさんを担いで、その場から離れようとした。
「ぎゃああああああああっ」
今度はゴブリンが歩いて行った先から断末魔が聞こえた。
(まずい……)
今のは監督の声だ。
向こうにゴブリンが2匹行ったせいで、作戦は失敗した。
このままゴブリンが戻ってきて俺たちに気付いたら、2人ともやられてしまう。
どうにかレンガの物陰に隠れると、ゴブリンが戻って来た。
(……)
息を殺してその場にたたずむ。
しかし、おっさんの血が居場所を教えていた。
ゴブリンが近づいてくるのが足音で分かった。
(くそっ……)
おっさんを横にして、俺は飛び出した。
手にレンガを掴むと、それを手あたり次第に投げつけた。
だが、ゴブリンはレンガを剣で防ぎながら近づいてくる。
適当に投げてもダメだ。
そう思い、ゴブリンが剣を持っている手元に狙いを定めて、振りかぶった。
ガラ……
その時、背後から音がした。
俺は心臓が飛び出すかと思うくらいビックリして、レンガを落としてしまった。
別なゴブリンに挟み撃ちにされたか!
「……!?」
だが、そこにいたのはゴブリンではなかった。
魔道士が着るようなフードに身を包んだ男が立っており、その男は冷酷な一言を発した。
「そいつは見捨てろ。 医者に見せるだけでも馬鹿にならない金を取られる」
助けに来た冒険者か?
更にもう2人やって来た。
一人は大剣を担いだ男。
もう一人も、同じような大剣を担いでいるが、女だ。
「俺の獲物だ。 ぜってー手ェ出すなよ」
現れた男がそう言うと、張り合うように女が返した。
「ふざけんな、あたしの獲物だ。 てめーこそ手ェ出すんじゃねえぞ」
そして、同時に飛び出してゴブリンに攻撃を仕掛けた。
ゴブリンは2つの斬撃を受けて、そのまま息絶えた。
「オイ、今のぜってー俺の方が早かったよな?」
「ふざけんな、あたしの方が早ェ」
どっちだ? と聞かれ、魔道士風の男が引き分けと答える。
「くっそ、だったら次だ!」
そのまま2人は走り去っていった。
「俺たちは三村隊だ。 株価は400。 今度買ってくれよな」
「ふざけんな、お前らに投資する気なんてねーよ」
さっきのセリフを聞いて、俺はイラっと来ていた。
「……ちっ」
男は舌打ちをし、去っていった。
俺は担いだままおっさんを中央の街の病院に運んだ。
そこで緊急の手術を受けて、どうにか一命をとりとめることができた。
魔法で傷を癒せばいいだろ、と思ったが、この世界の魔法はゲームほど万能ではないらしい。
そして、医療費は80万だった。
俺とおっさんの手持ちはそれぞれ50万。
そこから40万ずつ出して、支払った。
俺たちに残された金は10万ずつ。
おっさんはいつ仕事に復帰できるかも分からず、土地代の100万なんて到底無理な目標のように思えた。
ある日、俺はおっさんのいる病室にやって来た。
さぞかし凹んでるんだろうな、と思って病室に入ると、意外にも元気そうなおっさんの姿がそこにあった。
「ヒロキか! 金の件はすまんな」
「仕方ねーよ。 その内返してくれればいいって」
夢が潰えそうなのに、平気なのか?
俺は思い切って聞いてみた。
「なあ、土地が買えなくなっちまって、凹んでねーの?」
すると、おっさんは思ってもみないことを言い出した。
「私はまだ諦めてないぞ? 方法は残されているからな」
方法? どんな方法だよ。
「体が使えねーのに、どうやって稼ぐんだよ?」
普段は一切ボケないおっさんが、その時はふざけてんのか? と思うような言葉を発した。
「ヒロキ、冒険者になれ」
レンガが命中したのに、なぜかゴブリンはこちらに来ず、監督の方に行きました。
そんで、まずいと思って追いかけたところを振り向きざまに斬られました。




