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おっさんの夢

「ガハッ、ゴボッ……」


 ダメだ……、死ぬ……


「ヒロキ、落ち着け!」


 横にいたのはおっさんだった。

おっさんが近くにいたことで、俺はパニックになるのを回避できた。

それでも、こんな海のど真ん中に投げ出されたら……


「まだ船が1隻残っている。 あれに乗り込んで退却すればまだ助かる目はある」


 残り1隻と言っても、もう沈むのは時間の問題じゃないか?

俺はいよいよ死を覚悟していたってのに、おっさんはまだ諦めてないってのか……


「私もお前も、まだまだこれからだろう! 諦めるな!」


「全部神様のシナリオ通りさ。 最初順調だったのも、後で深い絶望に落とすための罠だったんだよ…… クソッ!」


「……もし神様がいたとしよう。 何でそんなことをするんだ?」


 何で?

この状況から察するに、神様ってのは人が苦しんでるのを見て楽しむ性悪なんじゃねーのか?


「性格悪いんじゃねえか? 神様ってのは」


「違うな。 神様は人が苦しんでるのを見たいんじゃない。 人が苦難を乗り越える姿を見たいんだ」


 ……!

何だと?

そんな解釈は初めて聞くな。


「おっさん、この状況でよくそんなポシティブな発想が出てくんな」


「実際、私たちは何度も苦難を乗り越えてきた。 神様は必ずどこかに解決策を用意してくれているんだ。 それに気づけた人間を、神様は選ぶんだ」


「……おもしれぇ」


 だったら、選ばせてやるぜ……!


 俺たちは泳いで船に近づき、引き上げてもらい何とかそれに乗り込んだ。

船の上には、元から乗り込んでいた3人と、俺たち2人だけしかいない。

他の者は……


 元からいた船員が組合の頭に向かって叫んだ。


「退却だ! こんなの勝てっこない!」


「……分かった」


 頭もさすがに無理と思ったのか、引き返す指示を出した。

ところが、いくら漕いでも前に進んでいかない。

海面を見ると、泡のようなものが立ち上がっており、それが邪魔して先に進めなくなっていた。


「バブルリングか?」


 おっさんがそうつぶやいた。


「なんだそりゃ?」


「クジラが仲間との遊びで作る、空気の輪だ。 もしかしたらそれをこの船を取り囲むように吐き出して、船を逃がさないようにしたのかもしれん」


 それじゃ、いよいよ逃げ場がない。


「頭! あんたが見栄を張って執拗に強化クジラを狙うから、相手が怒ってるんじゃないのか? あんたが責任を取るべきだ!」


 船員2人がまくし立てる。

つまり、クジラの気を静めるには、頭が海に身を投げるしかない、ということらしい。


「……くそったれえええええっ」


 ドボオオオン……


頭が突然身を投げ出した。


「あっ……」


 俺は止める間もなく、ただその状況を見ていることしかできなかった。

頭は海に沈み、それから数分してもクジラが襲ってこない所を見ると、どうやら怒りが静まったらしい。


「……助かったのか?」





 

 陸に戻る。

まだ足がフワフワしていた。


「この組合はこれで解散だ。 給料は払えんが、我慢してくれ」


「……募集要項にも、クジラが取れなければ給料が出ないとあったので、仕方ありませんね」


 また俺たちは宿に戻って、再度仕事を探すことにした。

残るは建築現場での仕事だ。

だが、その前におっさんが寄りたい所があると言った。






 たどり着いたのは、街の不動産屋であった。

ここら辺の開拓された土地を取り扱う店だ。


「何でこんなとこに来たんだよ? 家を買う金なんて無いだろ?」


「欲しいのは土地だけだ。 私の夢について少し話しておこう」


 おっさんの夢、それはこの世界で土地を買って自給自足の生活をすることだった。


「土地だけ買って、そこに家を自分で建てる。 後は畑でも作って、のんびり生きていきたい」


 ……すげえ。

そんな夢を、こんな世界で思い描いてここまで行動して来たのか。

海に落ちた時、おっさんは自分はこれからだ、と言っていた。

その理由はこういう夢があったからか。

 俺は素直に協力してやりたい、そんな風に思った。


 おっさんの見つけた土地は森の中にあって、50坪で100万だった。

おっさんの計算では、1年も働けば貯まっている額らしい。


「新都市の開発はまだまだ時間もかかるし、働き手もずっと募集しているはずだ。 ここで1年働いて、土地を買うぞ」


 土地。

元の世界にいたころは、家を買って家族を作るなんて、当たり前のようだけど、俺にはできっこないと思っていた。

だが、そんな夢もここでは手に届きそうに思えてくる。

ニートも返上しちまったし、こっちの世界にいた方がいいような気がしてきた。


「手伝うぜ、おっさん」






 俺たちはハロワ神殿で建築現場の仕事を応募し、いつものように翌日現場に向かうことになった。


 ちょうどその頃、魔族の手の者が新都市を狙うべく動き始めていた。








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