苦戦
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クジラを確認し、網を張る船が左右に広がる。
その間に4隻の小型船が扇形に広がり、クジラを追い込むため、棒で船の腹をガンガン叩く。
海面からクジラの影がゆっくり動くのが見える。
「追い込んでからが勝負だ! クジラは逃げ場がないと分かったら反撃してくるぞ!」
そう叫んだのはこの小型船のベテラン (と思われる)漁師 だ。
「反撃してくるのかよ……」
「……なるほどな。 何で我々のような素人を募集していたのか読めたぞ」
「ん?」
「クジラから見て、的を増やす為だ。 反撃の為に浮上してくるのなら、それが攻めどきであり、的が多ければその分チャンスも増える」
つまり、早い話が囮か。
「なあ、この仕事、俺たちが思ってる以上にやばくねーか?」
「……まだ何とも言えん」
一生懸命船の腹を叩いていると、異変に気がついた。
「あれっ? 影がねぇ」
音を出すのに必死で、気づいたら見失っていた。
「嫌な予感がするな」
おっさんが辺りを見渡していると、ベテラン漁師がとっさに船の脇に捕まった。
「船に掴まれっ! 来るぞ!」
えっ?
ドゴオオオオオオオオオン!
水面から突如、巨大な影が飛び出してきた。
一旦沈んだクジラが、海面めがけて突進してきたのである。
狙われたのは俺たちの隣の船だ。
「うわあああっ!」
俺は思わず叫び声をあげた。
ビビり過ぎて槍を放つ暇なんてない。
ベテラン漁師が槍を掴んで投げるも、クジラはすぐに海底に潜る。
試しに、置いてある槍を掴むと、ズシリと重かった。
鉛が仕込んであるみたいだ。
「また来るぞ……」
次はみんなで槍を構える。
そして……
ドゴオオオオオオオオオン!
クジラは的確に船を狙ってくる。
狙われたのは俺たちから一番離れた船だった。
残るは2隻。
「あいつ…… 海底から船が見えるのか?」
「いや、恐らくエコーで船の位置を捉えてるのだろう」
エコー?
超音波か!
「ヒロキ、私に考えがある。 かなり難しいとは思うが」
「どうすりゃいい?」
「次にクジラが突進してきたら、頭頂部を狙え。 頭頂部には鼻孔があって、そこに槍を突き立てれば、クジラは深く潜ることが出来なくなるはずだ」
おっさんの説明では、クジラの鼻孔には2種類あり、片方は潮吹き用、片方は潜ったり浮いたりするためのものらしい。
その役割を持つ鼻孔を潰してしまうというのが、おっさんの作戦だ。
しかし、そこを狙うには相当なテクニックが必要だ。
「角材で地面を固めてきたのは無駄じゃなかったみてーだな」
あの作業のおかげで、肩と腕が結構鍛えられた。
今ならそこそこの威力の槍が繰りだせるに違いない。
再度影が海底に消える。
狙うは鼻孔!
だが、クジラが姿を現さなければ狙いを定めることはできない。
つまり、影を狙って槍を投げるのでなく、飛び出して来た所を狙うしかない。
まだクジラの影は見えない。
そろそろ上がって来るはずだが……
「恐らく隣だ。 我々を最後に料理する気らしいな」
一瞬、グラリと船が揺れた。
ドゴオオオオオオン!
「!?」
俺たち3人は、船と共に空中を舞った。
「ガハッ」
海面に叩きつけられ、目まいがした。
同時に大量の水を飲む。
辛うじて海面に浮かんではいるが、俺はパニック寸前だった。
クジラは今度は潮吹きで攻撃してきたのだった。