人外転生はとても幸せで、ちょっぴり不便
ニャーオ
気がつけば猫として生を受けていた。
母猫はおらず、一人・・・いや、一匹でフラフラと歩き商店街のような通りで人間に食べ物をもらう。たまに猫嫌いの人間もいるがそういう人間は見分けやすい。何故って、なんかそういうオーラみたいな物が見えるのだ。
どうしてかはわからないが、ラッキーだ。
他の野良猫が蹴り飛ばされ、追い払われているのを見て心底そう思った。
蹴り飛ばされたら子猫である自分は、すぐに死ぬだろう。
人間の、高齢の女性に蹴り飛ばされてもおそらく自分は死ぬ。それぐらい、弱く脆い。
「今日はお前さんの好きなフランクだからね。他の子に食べられないようにするんだよ…?」
いつも食べ物をもらっているご婦人から腸の肉詰めをもらう。以前、もらった食べ物を他の野良猫や烏に食べられたこともあって、食べ終わるまで一緒にいてくれるようになった。ニャー、と返事をしてハグハグ食べ終わったら、婦人の足に自分の頭をスリスリ。
「甘え上手だねぇ…息子が猫嫌いでウチで飼う事は出来ないけど、また腹すいたらここにおいでさ」
婦人に一撫でされた後、お腹一杯になったのでいつもの場所で日向ぼっこをしながら昼寝をする。
前世の自分は人間であり、人間関係に四苦八苦していた。
何が原因か。
それは全て、自分の短気が原因であった。いや、短気であっても上手くいく人間はいる。一時の感情のままに暴走せず、言葉を考えて人と接することができれば問題はないのだ。
けれど自分はそれが出来ない人間であった。
言葉も足りない自分を棚に上げ、感情のままに怒りをぶつけ、自分は間違っていない、正しい、と。
「――○○さん、これってこうなんじゃないの?」
「違います。さきほどクリアファイルに入れて資料渡しましたよね、メモを付けているファイルです。それに書いた通りなんですけど」
「え?…どこだったっけ…あれ……」
折角メモ書いてつけて渡しても意味ないし、失くしてるし。
そんな感情ばかりが渦巻いてイライラが増していく。
上司に対してそういう態度や言い方はどうか、と周囲に思われても仕様がない。だけどどうしても苛立ちが抑えきれない。
下出にでて上手く言えばいいのに、それができない不器用な人間だった。感情をセーブしようにも怒りが先立つ。そして終わった後の自己嫌悪。
だから今は毎日が楽しい。
猫だから喋らないし、コミュニケーションは身体で示せばいいし、鳴けば食べ物貰えるし。おまけに何かオーラみたいの見えるし。
「…またここにいたのか」
ひょい、と片方の目を開けると長身の男がいた。眉間に皺を寄せてこっちを見ている…。顔がコワイ。
ズンズンと近づいてくる。コワイ顔でこっちこないで。
猫嫌いな人間と同じ行動をするこの男。
実は、異常な猫好きなのである。
小動物全般が好きななようだが、コワイ顔と長身によってフられているのだ。そりゃそうだ。誰だってあんな顔でガン見されたら逃げるわ。
そんな時、怯えずにニャーニャー鳴いてる子猫が足元に擦り寄ってきたらどうなるか。
結果、異常な猫好きになってしまったのだ。
決して自分の所為じゃない筈……たぶん。
「屋敷にいろと言っただろう。…もし売人に見つかったらどうする、すぐ売られてしまうぞ」
「ニャァ」
ごめんよー、と一鳴きし、頭を撫でようとしている手を舐める。そしてその手に頭をスリスリしていたらいつの間にか腕に抱かれていた。
男の屋敷に連れ戻され、ある一室の寝床に下ろされる。猫相手に一部屋を使うなんて中々いないぞ。
手籠の中にフカフカのタオルが入っており、それを寝床にしている。毎日交換してくれているようで、タオルはきちっと畳まれていたが、すぐにぐしゃぐしゃにした。この方が好きなんだ、綺麗に畳んでくれてるのにごめんね。
タオルとタオルに挟まれるイイ感じになり満足満足。
あ、…鼻だけ出てしまった……息しやすいからいいか。
「お前は可愛いな…。……もう勝手に出て行かないでおくれ、ラティ」
「…ンニャ」
それは無理。遊びたい年頃なのだ。
ササミが食べたい、と言えない。
けれどフカフカの寝床に世話してくれる人間やご飯をくれる人間がいる今が、とても幸せ。
そして言葉が喋れないからちょっぴり不便だな、と思う今日この頃。
「今日の晩御飯は山羊のミルクと、ラティの大好きなササミだからな」
なんと!
前言撤回だ。今がとても幸せだ!