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その1

「ケインさんケインさん」


元から小さい身体のミフネが、さらに縮こまって俺に声を掛けてくる。


何て言うか、小動物に懐かれてしまった肉食獣になった気分になる。


森から出た後、街道を通って街へと進む俺達なのだが。


「聞いてるんですかケインさんってば!」


街道と言っても、特別に整備されているわけでは無い。


馬車の轍などと、その周辺を通る旅人達が幾度と無く踏み固めてできた道だ。


「聞いてるよ、っていうか難しい話をされてもわかんねぇよ」


ミフネの身の上話を聞いていたのだが、正直2割も理解できてないと思う。


理解する気が無いとも言うが。


「ですから、私はこことは別の世界……異世界から来たと思うんです。

所謂異世界トリップですね、神様に会った覚えは無いですが」


と、似たような説明を延々と聞かされている。


「私の居た世界には術なんて物は無かったですし、そんな棒っ切れ一つで旅をする人っていうのもまず考えられません」


棍を棒っ切れと言われるのは複雑な心境だがまあいいや。


「その辺の細かい話は、今は置いとけ。このまま順調に歩き続ければ日が暮れるまでに街に着く」


それなりに街に近いこの位置、盗賊や化け物は少ないと思うが絶対に居ないわけでは無い。


難しい話で頭を酷使しながら周囲を警戒する、なんて事はしたく無いのだ。


そうミフネに伝えた。


すると、ガクっと肩を落としながら溜息をつかれた。


「ミフネにとっちゃあ、重要な事なんだろうがな。俺にとっちゃ重要なのは二つだけだ。

ミフネが俺に何をして欲しいのか?それは俺に可能な事なのか?だ」


気付かれ無いよう、歩幅と歩く速度を調整しながらそう呟く。


「それに、念の為言っておくが」


俺のすぐ後ろに張り付いていたミフネに振り返ってから言う。


「さっきから世界を超えてきたやら、言葉が通じるのはおかしいやら、神様に会いたかったとか言っているがな」


「な、んでしょう……?私の話が信じられないですか……?」


不安そうに、自信なさげに俯きながら俺に問い返してくる。



「そんな事はどうでもいい」


「そんな事!?」


バッと勢いよく顔を上げ、抗議してきた。


「いいから聞け。大事な事なんだ」


近年無いほど、真面目な雰囲気と口調を使いミフネに言い聞かせる。


「この世界に神は居ない」


「居ない?見えないとか、人には判らない所から見守っている、とかじゃ無いんですか?」


「ああ。宗教で信仰される事すらない。名や功績が伝えられている神は一切居ない」


俺のような学の無い人間ですら『常識』として知っている事だ。


「だから、街中で神に会ってみたいとか間違っても言うなよ?」


そう言ってミフネから視線を外し、街に向かって歩き出す。


「……神が居ない?いやでも『神』と言う概念があって宗教や信仰と言う言葉があるんだから、神じゃなくてもそれに近い何かが……」


後ろでぶつぶつ言ってるが無視……と言うか話を理解する気が無い俺は気にせず歩き続ける。


だが延々と呟かれているのも五月蝿いので


「そういうのに興味があるんなら、街に着いてから図書館ででも調べればいい。


あと、俺にその手の小難しい話を振ってもどうしようもないからな」


「……ですよねー」


「んむ、わかってるならいい」


何かを諦めたような、力の入ってない口調なのは気になるが。


「それはそれとしてですね、ケインさんにお願い事をするのはその、図書館に行った後にしたいのですが」


「ん?今じゃ駄目なのか?」


「はい、私と同じ類の人が過去にも居たのか、居たとしたらその人たちは帰れたのか?とか調べたいんです」


「ふむ」


「後、『術』に関しても色々調べてみたいんです」


「ほほう」


「私にも『術』が使えるならラッキーですし」


「うんうん」


「使えなかったとしても元の世界に戻る手掛かりになると思うんです」


「全くもってその通りだな」


俺は首を縦に振りながら、頷いているように見せかけて歩き続ける。


「……ちゃんと聞いてます?」


「ああ、聞いてる聞いてる」


今夜は街で一泊だろうし、昼飯だけ考えればいいな。


昼メシはまだ干し肉が結構あるし、齧りながら歩けばいいだろう。


この女、見た目より体力があるみたいだから大丈夫だろ。


今はそれよりも、だ。


「おい」


俺の1歩分ほど後ろに居るミフネに、前を向いたまま話かける。


ビクっとしたのが気配でわかるが気にせず続ける。


「何ですか……?」


何だか不機嫌っぽい……っていうか完全に拗ねてる感じの返答。


「お前、金を稼ぐ手段……大道芸でも歌でも何でもいいんだが……あるか?」


「え……カラオケとかよく行ってたんで歌なら得意ですけど」


「ほほう」


カラオケは知らんが歌か、それなら露店通りの辺りで何か出来るかもしれん。


「当たり前だが、図書館使うにも入館料が要る。宿に泊まるのも当然金は要る」


「それはそうですよね」


気配で頷いているのが判るが……


「俺も金は稼ぐが、お前もやるんだぞ?」


「え…えええええぇええぇぇ!?」


なんか、心外です!?みたいな声を上げてるが。


「当たり前だ。俺みたいな無愛想な男が路上で大道芸やるよりゃあ、お前みたいに見た目がよくて、イイ


声してる奴が歌ったほうが稼げるだろうよ」


そう言いながらミフネが早足になってきたのに気付いたんで、ちょっとペースを落とす。


「別に自分の食い扶持を自分で稼げ、とは言わねぇよ。んでも、お前がこれから何するにしても金は要る


し、何よりも手持ちが心もとない」


俺に出来る事ならしてやるが、ずっと一緒に居るわけじゃないしな。


こいつのお願いってのが俺に『ずっと一緒に居てください!』だったらまた別だがそれは無いだろう。


「ま、街につくのは夕方になるだろうし、金を稼ぐのも図書館も……お願いってのも明日以降だ」


というか、何で俺はこんなに喋っているんだろうか。


モノを考えたり、誰かに何かを教えるってのは完全に俺らしくないのだが。


珍しくガキに懐かれて浮かれてるのかも知れんな。


相変わらず後ろでぶつぶつ言って早歩きしているミフネに、歩幅を縮めながらそんな事を考えていた。











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