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すれ違う二人 ~とある双子と断罪者~  作者: 吹雪
第一章 一方的な始まり
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第五夜 戦慄

 

「——何だったんだ、あいつは」


 吐き捨てるようにそう呟きながら、一夜は重苦しい気分で帰宅した。眉間にはいつも以上に皺が寄り、全身に不機嫌なオーラをまとったその姿は、親しい者ですら威圧しかねないように見えた。


 一夜を不機嫌にした原因は、先程突如現れた"赤の青年"であった。



***



「俺の名は紅蓮。"赤の断罪者"だ」

「……断罪者……だと?」


 余りにも風変わりな名乗りに、一夜はらしくもなく驚きの表情を見せた。しかしすぐに顔を引き締め、目の前の青年を威嚇するように睨みつけた。


 ところが、普通なら怯むはずの一夜の睨みにも、紅蓮は全く動じなかった。それどころか、自分を警戒する一夜を面白がっているようであった。


「そう睨むなよ。俺はお前らの敵じゃない。むしろ、味方だ」

「味方……? 不審者の間違いだろう」

「手厳しい奴だな。もう少し楽に構えろよ」


 いつもよりも饒舌な一夜を軽くいなすように紅蓮は肩をすくめた。いかにも余裕といった雰囲気を見せる目の前の青年に、一夜は酷く苛ついた。


「今朝からずっと俺を尾けていたのはお前か?」

「うーん……半分は当たりだが、半分は外れだな」


 紅蓮はいかにも困ったと言わんばかりの表情で答えた。


「俺は確かに今朝からお前を尾けていたよ。……だが、それはお前が学校の"外"にいた時だけだ。つまり、一日中ずっとお前を見てたわけではない」 

「……」


 この返答を、一夜は特に不思議だとは思わなかった。むしろ、自分の予想通りだと思っていた。



——つまり授業中に感じた視線は、こいつではなかったということだ。



 一夜は至極当然の結論に達した。いくらなんでも、この青年が校内にまで不審がられずに侵入することなどできるはずがないのである。


 だが、一つ謎が解けたところで状況は変わらない。もう一つの視線の正体が全く分からないからである。


「お前、焦ってるだろう?」

「……」


 一夜は無言で睨みつけたが、紅蓮はそれを肯定と受け取った。


「校内で感じた視線の正体が分からないからか——それとも、熱が出た兄貴が心配だからか?」

「……お前には関係ない」


 精一杯の虚勢だった。この青年は、確実に自分よりもうわ手だと、一夜は半ば確信していた。しかしそれでも負けたくはないと、年相応とも言える負けず嫌いが一夜を奮い立たせた。


「お前が何者だろうとどうでもいい。俺はさっさと帰って兄貴の面倒を見なくちゃならねえんだ。二度と姿を見せるな」


 一夜は一方的にまくし立てると、踵を返して自宅の門へと歩き出した。振り返ることすらしなかった。


 そんな一夜の背中に、紅蓮はただ一言だけ投げかけた。


「——」

「……」


 一夜は何も応えず、無言のまま扉の向こうへ去って行った。



***



「何だったんだ、あいつは」


 扉を閉めてすぐに、一夜はそう呟いた。頭の中を占めるのは、目的も素性も不明の"赤の青年"である。


「"断罪者"——意味不明な職業だな」


 などと言いながら、一夜は思考を巡らせた。


 明らかに不審な青年——紅蓮は一体何者なのか——いや、名前と職業はすでに名乗られている。しかし、"断罪者"なる職業の人間など、見たことも聞いたこともない。



——奴の目的は何なんだ。なぜ俺に接触してきたんだ。



 いくら考えても答えの出ない疑問に、一夜は苛々をつのらせていく。しかし彼には、見ず知らずの不審な青年の正体よりも優先すべき大事なことがあった。それを思い出した瞬間、一夜は頭が沸騰するような憤りを感じ、慌てて靴を脱いで階段を駆け上った。



——どうしてこんな大事なことを忘れていたんだ……!



 目指す先は、当然の如く千夜の自室である。


 一夜に接触してきた紅蓮の目的は不明ではあったが、自分に接触しておいて、病床の兄には何もないということの方がおかしい——一夜の焦りはこういった考えからであった。


 数秒で慌ただしく二階に上がり、ノックも無しに兄の部屋の扉を開けた一夜は、目の前の光景を見てほっと息を吐いた。


 千夜は一夜の心配をよそに、穏やかな寝息をたててベッドでぐっすりと眠っていた。


 心配していた分、何事もなかったかのように眠る兄に一瞬呆れたものの、その安らかな寝顔を見ることができ、安堵のため息をついた。


「……心配しすぎか」


 あれだけバタバタと階段を駆け上ったというのに、千夜は全く起きる様子を見せない。


 一夜はベッドの横に座り、兄の寝顔をじっと見つめる。熱のせいで額にふき出した汗をタオルで拭ってやり、ふと視線を落としたところで、一夜は"あるもの"に気がついた。そして、それが"何であるか"を確認した瞬間、戦慄した。


「……嘘……だろう……」


 この時、一夜はつい先程、紅蓮に投げかけられた最後の言葉を思い出した。



『"赤と黄色"のリボンには気を付けろよ』



 千夜の右手首には"黄色のリボン"が巻かれており、その下にはくっきりと、何者かに掴まれたかのような手形の痣が浮き出ていた——。


 

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